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読書感想文7『運動しても痩せないのはなぜか』

今回はこちら。
ハーマン・ポンツァー著『運動しても痩せないのはなぜか 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」』

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めちゃくちゃ面白い。減量中のあたしには特に腑に落ちることばかり。これはこれで全人類必読だと思う。

概要

運動すれば消費カロリーが増えるというのは幻想

ダイエットに勤しむ人は、皆考えている。運動すれば痩せる、と。運動が原因で、痩せるという結果が伴うという単純だが説得力があるように見える論理を皆信じているのだ。

しかし、残念ながらそれは幻想である。

運動→痩せるというロジックを支えるのは、運動がカロリー消費につながり、運動した分だけカロリー消費が増えるという信念である。

つまり、日常生活で運動する時間を増やせば、その分のカロリー消費が「上乗せされて」、結果として「一日の総消費カロリーが運動した分増える」という想定がある。

要因加算法と呼ばれているこの計算方法は大雑把だが、結果は妥当と思われた。そして、この方法は現在も利用されていて、WHOはある集団の1日のカロリー所要量が必要なとき、この方法で計算している。あなたの必要カロリーを身長、体重、年齢(どれも基礎代謝率の推定に使われる)と身体活動レベルから推定してくれる計算サイトで使われているのもこの方法だ。
(中略)
しかし、要因加算法に基づいて得た推定値の妥当さの裏には、根本的な欠陥が隠れている。この計算はBMR(基礎代謝量)に身体活動と消化に必要なカロリーを加えたのものが1日の総消費カロリーである、という前提のものとに行われている。

p.121

それは一見もっともらしいが、この本が強く否定するのは実はこの部分である。

運動しても、一日の総消費カロリーは、実は増えない。

運動は確かにカロリーを消費する。あたしのような体重80kgの男が10kmほど走ると、大体900kcalほど消費することがわかっている。でも、10kmランニングしても、その日の総消費カロリーは、ランニングしない日のそれと全く変わらないのだ(もちろん日によってブレはある)。

消費カロリー計測方法の歴史

そのことを証明するため、この本は代謝の基本原理の説明から始まる。ここでは炭水化物・タンパク質・脂肪の三大栄養素が体内でどう分解されるのか、体内でエネルギーとして利用される際の化学変化などの原理について説明される。高校の生物で習ったクエン酸回路ミトコンドリアの役割などが詳しく、しかし分かりやすく語られる。

また、消費カロリーはどうやって計測されるのか、カロリー計測の科学についても説明される。消費カロリーの計測が非常に難しいのは想像に難くないが、そこに費やされた研究者の200年以上にわたる努力は一般にはほとんど知られていない。でも、先人の努力の上に新たなアイデアを積み上げ積み上げ、やがて革新的なブレークスルーが生まれる科学研究の物語はここでも再現されており、水素と酸素の同位体を用いた正確な消費カロリー計測方法が確立されていく過程の物語は一読の価値がある。

その計測方法が普及したおかげで、一般人・アスリート・数少ないが生き残っている現代の狩猟採集民族など、さまざまなカテゴリーの人間の消費カロリーを計測したり、人間だけじゃなくオランウータンやチンパンジーなどの霊長類、その他哺乳類の代謝についても計測できるようになった。そして、運動は消費カロリーを増やさないことが明らかになったのだ。こんな代謝学の歴史もふんだんに述べられていて面白い。

特に、アフリカに暮らすハッザ族という狩猟採集民には多くのフォーカスが当てられ、彼らの暮らしを垣間見るに、現代人がいかに人間本来の生き方からかけ離れてしまったかということを改めて再認識させられる。

このような代謝研究の積み重ねの結果が、この本のタイトルに集約されている。人間は、「運動しても痩せない」のである。正確には、「運動してもしなくても、消費カロリーの総量は変わらない」ということだ。

一日の総消費カロリー量は体重でほとんど決まっており、その人がごろ寝していようと、肉体労働していようと、デスクワークしていようと、狩猟採集生活をしていようと、オリンピック出場を狙うトップアスリートで追い込みトレーニングしていようと、体重が同じなら消費カロリーはほとんどみな同じなのだ。もちろん個人差はあるので、同じ体重でもばらつきはある。でも、そのばらつきは同じカテゴリーの人たちの中でのばらつきよりずっと小さい。

1日のカロリー消費量は1日の活動量の違いによって変わるのではない。体は、ライフスタイルが異なろうと、1日のカロリー消費量を一定の狭い範囲内におさめている。

p.184

全くもって意味がわからない。

デスクワーカーとトップアスリートの一日の消費カロリーが同じ?んなわけあるか!と言いたくなる。でも、それが研究で得られたデータなのだ。トップアスリートみたいに追い込んでトレーニングしても、座りっぱなしでパソコンカタカタ肩痛ェ〜と言ってる人と消費カロリーが同じなら、運動したって痩せるわけないじゃん!

という話。タイトル回収成功である。そしてこの事実は、上でも述べたように、ダイエットに対する考え方に根本的な誤解があることを示している。

1日の消費カロリー量がほぼ一定ということは、運動などで1日の身体活動量を増やしても、1日のカロリー消費量にはほとんど影響を及ぼさないということである。そうとわかれば、肥満との闘い方を変えなければならない。

p.191

じゃあ巷にいるダイエット成功者たちは一体何で痩せたのだろうか?答えは簡単だ。

ダイエットは成功するか?

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