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【読書感想文3】イニシエーション・ラブ

「300万人が騙された!」
「必ず再読したくなる!」
そんなにアピられたら、そりゃ読みたくなるわよ。

結果。

再読したくなった笑

感想

最初はなんかただの恋愛小説じゃないか、これに誰が騙されるんだよ、と思ってた。でも、最後の4分の1くらいから、何となく「なんか変だなー」と思いながら、最後のページで「おわっこれは…」となって、前がどうなってたか確認のためページを繰ったりして、最終的な感想は、「この女、こっわ」である。

というわけで、今回は乾くるみ「イニシエーション・ラブ」の読書感想文。


国鉄が民営化された1987年の静岡と東京を舞台に繰り広げられる男女のラブストーリー。普段こういう〇〇ラブ、みたいなタイトルの小説はあまり読まないんだけれど、ミステリだというので手に取ってみた。

ミステリは好き。でも今まで読みながら謎解きできたことはほとんどない。2作くらいかな。

んで、今回は何というか、「騙された」という感じはあまり無いのだけれど、うまいこと伏線を張るというか読者に違和感を持たせるというか、そういうのがちょっとずつ蓄積していく感覚で、「再読したくなる」というのはとても納得した。

舞台は前述のように1987年で、その頃の20代前半の若者の恋愛を描く内容だ。男女七人夏物語とか公衆電話とテレフォンカードとか、なかなか懐かしい描写も出てきて、2007年の若者が読むと多分意味がわからないことも多いだろう(男女七人などは僕もよくわからない。なんらかのテレビ番組で紹介されていたのを後から見て知った、程度の知識しかない)。

だが、この1987年という舞台設定はこの小説には不可欠で、離れた場所同士のコミュニケーションに常にタイムラグと移動時間があるという、今では非効率・不便さの代名詞のようなこの時代状況が、本ミステリの根幹を成している。

これ以上内容の説明をするのはアレなので、有料部分のネタバレパートに譲る。無料部分ではこのタイムラグに全面的に依存したミステリの構造を読んで、逆に今の時代のリアルタイム性を再認識させられたことについて少し書いておきたい。

生活のリアルタイム化

よく言われることだが、情報技術の発展によって、生活はどんどんリアルタイム化している。特に、他人とのコミュニケーションや情報収集は、スマホが登場するより前の時代ー15年ほど前にはー今思うと割とタイムラグがあった。

メールや携帯の通話などは普通のことだったが、スマホはまだ存在しておらず、無料の通話サービスや、相手がメッセージを読めば「既読」がつくというスタイルのメッセージサービスもなかった。むしろ、お目当てのメールが届いてやしないかとサーバに問い合わせたりしたものである。

そういったある種の「ロス」を無くしていく開発努力の先に、コミュニケーションと情報発信・収集が際限なくリアルタイム化し、僕たちは今やタイムロスなくリプすること、誰よりも早く面白いネタを発見すること、自分が今誰とどこにいるかを発信することに血道を上げている。

この「イニシエーション・ラブ」では、テレフォンカードの度数が刻一刻と減っていき、その減りざまを見ながら「無駄な会話はできない」と一所懸命にコミュニケーションの内容を考えるシーンや、好きな人との連絡手段がお互い家電しかないため相手にかけるまで「親が出たらどうしよう」みたいな心配をして、かけて初めて相手が一人ぐらしであることを知る、といった昭和生まれの僕などにはめっちゃ思い出があるような光景が描かれている。

もしかすると、こういうもどかしさとか相手への眼差しのようなものには、何か重要な意味があったのかもしれない。しかし、それはもう僕の周りにはどこにも見当たらない。

ネタバレ

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