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赤い薔薇をあなたに~after~
彼女への叶わない気持ちを秘め、それを気づかれないように渡した赤い薔薇。
あなたはただのプレゼントだと思い、無邪気にはしゃいで受け取ってくれた。
密かに想いを伝えた後も、それに気づかない彼女と私は友人関係を続けていた。
秋に入ると文化祭の出し物の話し合いが各クラスで始まった。
うちのクラスは何やるんだろう。
ぼーっと行く末を見守っていると、後ろのうるさいのが勢いよく提案をした。
「はいはーい!メイドカフェやりたいでーす!せっかくなんだからかわいいかっこしたくない!?ねー!みんなよくない!?ね!ね!?」
私には持ち合わせていないこの押しの強さにより、決まりかけていた、町内の歴史資料館は却下され、メイドカフェをやることになってしまった。
冗談じゃない、人前であんな肌が見える格好をするなんて。
提案が通った本人はいたく満足気だった。
「楽しみだね!」
後ろから声を掛けられ「ヒッ」と小さく悲鳴をあげる。
「あ、薔薇の匂いした!」
彼女は更に満足気な顔をした。
下校中、私が頭を悩ませていると、彼女が肩をガッと組んできた。
どうした若者よ!そんなに浮かない顔をして!人生これからじゃないか!シャキッと胸を張りなさい!
なんておせっかいおじさんなんだ。
「だって、メイドカフェなんて、恥ずかしいでしょ!」
なんであの時強く抗議しなかったんだろ。
はぁ、もうやんなっちゃう。
「いいじゃんいいじゃん!せっかく男の子も来るんだからさ!かわいいと思われたいじゃん!」
そう、うちの女子高は今ではとても珍しく文化祭は一般開放されるので同じくらいの年齢の男子も当然来てしまうのだ。
「だからいやなんだって!男子なんてがさつで不潔じゃん。」
「え!嘘!?今までもしかして付き合った事ないの!?」
うん、そうだよ?」
「えー!嘘ー!こんなに色白で細くて、かわいい子が。へー!こりゃ貴重な文化財にしないとかぁ!」
「変なこと言わないでよ。そっちは、付き合った事ある・・の?」
お願い、ないって言って。
「うん!そりゃあ一回や二回くらはね!中学の頃だからそんなデートって言ってもどっかモールいくとかそんなもんだけどね」
聞きたくなかった。でもそれが普通なのかな。
「じゃあなんで女子高に入ったの?別に共学でもよかったんじゃない?すぐに出会いもあるだろうし」
「いや、だって共学だとさ、もし別れたあと気まずいじゃん。ずっと同じ空間いるんだよ?やだやだそんなの。だからそういうのがない女子高入ったの。ある程度の距離感あったほうがいいよそういうのは」
「ふーん、そういうもんなんだ。私はもし、好きな人いたらずっと一緒に居たいけどなー」
「あら?意外と積極的?」
いたずらっぽく笑ってからかう彼女にむっとしながらも、あふれてしまいそうな気持ちに必死に蓋をした。
日にちは流れて文化祭当日、さんざん嫌がってゴネた結果、妥協案として私だけひざ下まで丈のあるスカートを穿く権利を勝ち取った。
これなら普段の制服と変わらない、一先ずはやりすごせそうだ、それにしても・・・。
「おかえりなさいませー!ご主人様っー!」
見えてはいけないところまで見えそうなギリギリのスカートを穿いてノリノリでメイドをやる彼女に同性でも目のやり場に困ってしまう。
「おい!おしとやかメイド!いつまでおしとやかやってんの!ぼーっとしてないで働けー!」
彼女へ送っていた視線がばれてしまい、激を飛ばされる。
「ちょっと!やめて目立っちゃうから!あ!」
彼女が近づいてきて匂いを嗅ぐ。
「うん!今日もいい匂いだね!関心関心!」
普段と違う格好の彼女が近距離に来て、私から香る薔薇の匂いを嗅ぎにきたことで、顔が一気に熱くなり、そのまま目の前が真っ白になった。
次に目が覚めた時には真っ白な天井が目の前に広がっていた。
薬の匂いがしてきてそこが保健室ということがわかった。
あのあと倒れて運んでもらったようだった。
どれだけ寝てたんだろう。
そんなことを考えてると、勢いよく扉が開いた。
「だいじょーぶー!あー!おきたー!?おはよー!」
目のやり場に困るメイド服を着た彼女が様子を見に来た。
「おはよ、というか今何時?どれくらい寝てた?」
「もう文化祭終わっちゃったよー!?今17時!これから後夜祭するからそれの準備してるよ!軽音部の人が体育館でライブするんだって!いけそ?」
「うーんちょっとやめとこうかな」
「そうだよね!じゃあ一緒に帰ろ?」
「え?でも後夜祭いいの?」
「だって一緒に見れないならつまらないもん。友達でしょ!?」
「うん。じゃあ一緒に帰る」
「じゃあはい!制服と鞄ね!私着替えてくるから!そっちも着替えな!?」
「うん、ありがとう。あ、ねぇ!あのさ」
「ん?どうしたの?」
「いや、なんでもない・・なんでも」
「ふーんわかった!じゃあ後でね!」
「うん後で」
彼女の背中にいくら伝えても届かない想いはもうあと数滴で溢れるコップのようだった。
その帰り道、彼女は自分がいかに繁盛したクラスのメイドカフェに貢献したかを際限なしに伝えてきた。
「もうね!ほんとにほんとに大変だったんだから!わたしのかわいいー姿目当てに長蛇の列が途切れなくて、休憩だって取れなかったんだから!」
「そうなんだ、大変だったね」
楽しそうに話す彼女の横顔を見て私も笑いながらそれに応える。あーほんとに好きだな。
これからもずっとこうやって・・・。
「でね!その一人の男子にライン交換したの!」
え?我に返った時不意におかしな話が耳に入ってきた。
「なんていったの?」
「だから!あの顔面レベルが全体的に高いって言われてる男子校の子たちが来て、その内の一人の子と意気投合してライン交換したの!」
え?だんしとラインこうかん?「噓でしょ?」
「そんな嘘つかないよ(笑)でもこの友情は永遠だから安心してね?」
「う、うん」私は動揺したまま返事にならない声を出した。彼女が男と・・・。
それからというもの、彼女は私といてもスマホを見ることが多くなった。
こちらが話しかけても生返事。
「え?なんの話だっけ?」と聞き返されることも頻繁になった。
この一年近く、ずっと一緒にいたのに、毎週うちに来て薔薇見て綺麗だねって、お茶しながら他愛のない話して過ごしてきたのに。
わけのわかんない奴のせいで、彼女が奪われてしまう。
私の方が彼女といるのにふさわしいのに。
なんで私の方を向いてくれないの?
毎週来ていた家にも彼女は、デートがあると断るようになった。
「ごめんねー!また今度行くからね!」
もう何回目だろう。さみしいな。
そうだ、黄色い薔薇を渡そう。
気づいてくれるかな。黄色の薔薇の花言葉。
今私はあなたが男のほうにばっか時間使っていることにやきもちを焼いてるんだよ。
嫉妬。黄色の薔薇の花言葉。
わかってくれるよね?
私とあなたの仲だもの。
次の日、教室で彼女に摘みたての黄色い薔薇を渡した。
「はい、これ、前は赤い薔薇だったでしょ?黄色い薔薇もいい感じに咲いてたからあげるね」
「うん。あー、ありがとー」
受け取った彼女はそれを返事と同時に鞄に突っ込んだ。
クシャっとなりながら入っていく薔薇を見ていると、今さっきとはコロッと変わり、男との日々を一方的に伝えてくる。
でね!あいつったらエスカレーターでぎゅってしてきたの!もうみんな見てるからやめてって言ってるのに全然やめなくてほんとに困っちゃったよー!彼女の表情を見ると本当に困ってはいないようだった。
あぁ、もういないんだ、私が好きだった彼女は。あの純粋で活発でキラキラしていたあの子は。
気持ち悪い男にほだされて成り下がってしまった。
このままじゃ彼女が手遅れになっちゃう。
そんなのダメ、純粋だったあの頃にもどって。
薔薇を頭につけて私の家の庭ではしゃいでたあの頃に。私だけなの。
あなたを愛してるのは・・・・。
「でね!こんな友達いるんだよって話したら面白い子だねって!だから今度彼氏に紹介したいんだけど、一緒に遊ばない?」
この子はどれだけ無神経なんだ。
私のこの気持ちを全くわかってない。
もっとはっきり伝えなきゃ。
「うん、いいよ。紹介して?」
「えっ!?ほんと!?さっすがわたしの親友だね!じゃあ次の日曜日遊園地いこ!彼氏にもいっとく!」
遊園地か。じゃああの時に伝えよう。
私は遊園地で彼女にはっきりと気持ちを伝えることに決めた。
二人をつないでくれたかわいいかわいい薔薇を使って。
日曜日、私は必要な準備を済ませて家を出た。
今日は特別な日。
私はこの日の為に気持ちをずっとずっとあっためてきたの。
駅から一緒に行くことになっていたので、合流場所の駅へ向かうと、すでに二人の姿があった。
まだ私に気づいてないのか、向かい合わせになり見つめ合っていた。
午前中から胸糞悪いものみちゃったな。
溜息を一つ吐いておはよーと声をかける。
彼女は慌てて男と離れて、代わりに私にくっついてきた。
「おっはよー!あー!今日もいい匂いだー!ふふー!」
こんな状況になっても私は少し胸がときめいてしまった。
「あ、その子が薔薇の子?おはよう今日はよろしくね」
「はじめまして!」薔薇の子って。
挨拶とともに差し出してきた手はどうやら握手を求めているようだった。
男子とこれまで関わってこなかった私は動揺していると、彼女が代わりに男と握手をした。
「はい!はじめましてー!もう言ったじゃん!この子は男の子に慣れてないって!」
「でも握手くらい普通じゃない?」
「あたしと握手したからいいでしょ!?はい!もういくよー!」
次に彼女は男の腕に抱きつき改札へ向かった。
大丈夫。
我慢我慢。
もう少しの辛抱だ。
電車の中でも二人はいちゃつきながら、何に乗るかを話合っていた。
「えーでも最初にジェットコースター乗ってテンション上げたいなー!」
「えー、でも最初からテンション上がってたら後半持たなくない?」
「んーそうだけどさー」
2人の鳥の餌にもならないしょうもない会話を聞きながら、私は来るそのタイミングの為にイメトレを繰り返していた。
これで絶対私の方に来てくれる。
またあの時みたいに戻れる。
遊園地へ到着すると二人は早速ジェットコースターへ向かっていった。
私は絶叫マシンが苦手なので、一緒に並ぶのを断り、近くのベンチに腰を下ろした。
二人は段々順番が近くなるにつれてそわそわしだし、なぜか短いキスを重ねていた。
列に並ぶ他の人もそれに気づいてざわざわしているのに完全に二人の世界に入ってしまったようだった。
ほんとに気持ち悪い。
私が早く助け出してあげるからね?
「あー!たのしかったー!ねー!ほんとにいいの何もならなくて?」
「そうだよ、せっかく遊園地来たんだから色々乗って楽しまないと!」
「ううん、いいのほんとに、二人が楽しんでくれたらそれで私も楽しいから」
男まで私に、馴れ馴れしい。
落ち着こう。
もうすぐ、もうすぐ。
それから、すこし遅めの昼食をとって、また午後も二人を何回か見送った。
私の目的は遊ぶことじゃないから。
そしてその時はいよいよやってきた。
「じゃあさ、最後に観覧車乗ろうよ!3人で!ね?それだったら乗れるでしょ?」
「うん、私も観覧車は乗りたいな」
「よし!じゃあいこー!」
「えー?俺観覧車は二人で乗りたいなー」
「いいじゃん!最後くらいみんなで乗って、いい思い出にしようよ!」
やっぱり彼女は優しい子だ。
それに比べて男はほんとにどうしようもない生き物だ。
男への腹立たしい気持ちをこらえて、ゴンドラへ乗り込む。
男と彼女、私の2対1のポジションだ。
観覧車は上へとゆっくり上がっていく。
よし今だ。
二人が小さくなっていく地面を窓から見ながら怖がっているところで話を切り出した。
「ねぇ、大事な話があるの。聞いてくれる?」
「ん?話?え?下に降りてからじゃダメなの?景色見ようよ」
「ううん今話したいの。聞いて。聞くだけでいいから」
「は?今そんな感じじゃなくね?おりて・・」
「あんたは黙ってて!」
横から割り込む男へ一喝して私は話を続けた。
「ごめん大きな声出してでももう時間もないから。頂上着くまでに伝えたいの」
声が震えてる。
でもこの気持ちをしっかり彼女へ伝えないとダメだ。
私は深呼吸をして一気に話始める。
「あのね、私、ずっと友達いなくて、家で花育ててる時だけが人生の楽しみだったの。
薔薇がずっと友達で、とても大切な存在だったの。
だけどね、高校に上がってあなたに声をかけられた時、何か身体の中で芽生えたのを感じた。
最初は初めて出来た友達の嬉しさからくるものかなって思ってたんだけど、いつも私の匂いを嗅いでくれていい匂いだねって。
大切に育ててる薔薇を褒められているようでなんだかもっと嬉しくなったの。
でね、あなたが私の家に来てくれて、庭の赤い薔薇をあげた時、ありがとうって頭につけてはしゃいでる姿を見て、やっぱりこの気持ちはそうなんだって確信したの。
私、あなたのこと愛してる。
赤い薔薇をあげたのはそういうメッセージなの。知ってか知らずかその赤い薔薇を受けとってありがとうって言ってくれてすっごい幸せだった。
伝わらなかったとしても、ずっとこの関係が続けばいいなって思ってたの。
文化祭で着てたメイド服とても似合ってたよ?私の前でだけ見せてほしかったな。
だけど、急にきたわけわかんない奴が大切な人を奪っていった」
「それって、俺のこと言ってんのかよてめぇ!」
「そうよ!あなたが、私から奪っていったのよ!かわいそうに。
それから堕ちていく彼女を見ているのはとてもつらかった。
でも、まだ目が覚めるかもしれない。
そう思って私は黄色い薔薇をあげたの。
わかる?黄色い薔薇にはね、友情って意味もあるんだけど、他にも嫉妬って意味があるの。
これを渡したら、私の気持ちに気づいてまた前みたいに戻ってくれる。そう信じてた。
だけど、これも伝わらなかった。
それどころか、彼女は私が愛情もって育てた薔薇を邪険に鞄に突っ込んだの。
そっか、もう駄目なのかと思ったわ。
だけどね、最後に方法を思いついたの。
お前と直接会えるチャンスが巡った時に。
私をあんたに紹介してくれるって提案をしてくれて、やっぱりあなたは私の大好きな人なんだって思った。ありがとうね」
「さっきから聞いてたらよ、お前頭おかしいのか。毎週毎週しつこく家に誘われて、こいつだって迷惑してたんだよ」
「え?嘘だ。そんなことないよね?だって、また今度ねって返信してくれてたじゃん!」
「ごめん・・・正直勘弁してほしかった。
私だってせっかくできた彼氏とたくさん会いたいから。
そっち優先したくて。
今度って言ったのは曖昧にしたら諦めてくれるかなって思ってそう返してたの。
ごめんね」
「そっか・・・そうか」
「なぁ?わかったろ?だからこれ以降あきらめてひとりで・・・」
「まだ目が覚めてないんだね?はい、これ」
鞄から出てきたのは、真っ白な薔薇だった。
「この白い薔薇の花言葉知ってる?純潔って意味なの。
このクソ男に毒されたあなたの本当の姿を思い出して?」
「何言ってんの・・・?私はずっと変わってないよ!?おかしくなってるのはあなたでしょ!?私は別に女の子に興味ないの!男の子と恋愛したいの!」
「白い薔薇のもう一つの意味は、【私はあなたにふさわしい】
ね?またいっしょに薔薇見てお茶しよ!?戻ってきてよ!お願い!私をひとりにしないで!」
「もういい加減にしろよ!てめえ下ついたら覚えておけよ!」
あーもうすぐ頂上だ。
「やっぱりさ、告白って観覧車の頂上でするのが1番ロマンチックだもんね。そろそろいいかな」
すると3人のゴンドラ中に薔薇の香りが充満した。
100本や200本では効かないようなとても濃度の高い薔薇の香りが。
「うっ、なんだこれ!なんの匂いだくっせぇ!」
「すごい花の匂いがするっ・・・!頭痛いっ・・・!」
2人が異常に濃い薔薇の匂いでぐったりする中、また鞄に手を入れて、取り出したのは、普段から庭の薔薇の手入れで使いなれた剪定バサミだった。
「じゃあ、はっきりいうね。私はあなたのことを愛してます。」
ハサミを開いて男の首に瞬時にめり込ませた。
無駄のない動きに加えて狭いゴンドラの中、更には強烈な匂いでぐったりもしている。
男は目の前のとっさの事態に対処できなかった。
2人が電車でイチャイチャしたり、遊園地でベンチに座って待っている間、イメトレした甲斐があった。
彼女が何か言おうとした瞬間、男の首にめり込んだハサミは一気に引き抜かれた。
スプレーのに似た音を出しながら男の首から大量の血液がゴンドラ中に噴出された。
足をバタバタさせながら血を吹き出す男の首を絶叫しながら押さえる彼女の姿を見て美しいと思った。
周りのゴンドラや、下に流れ落ちた血を見て異変に気付いたであろう人たちも悲鳴をあげている。
私にはそれがまた二人の仲が戻ったことへの祝福を送ってくれているように聞こえた。
そんな賛辞に包まれながら、赤く染まった薔薇を差し出してもう一度気持ちを伝えた。
「あなたの事を愛してます。」
すこしでもいいなと思ったらサポートよろしくお願いします!今後のインプット、自身のレベルアップを経て、皆様に楽しい時間を提供させていただければと思います。