見出し画像

【酒と料理の因数分解】「カマンベールチーズ」と日本酒が思っていた以上に合う理由

いつもの家での食事も、ちょっと一工夫するだけでよりお酒にマッチする極上のおつまみに変身させることができます。お店でも実践しているそんなワンポイントをご紹介しているのですが、今回のテーマはそんな一工夫なしでも日本酒と風味がマッチしてしまう「カマンベールチーズ」についてです。

● ”チーズの女王” カマンベールチーズ

世代を問わず人気があり今や食卓にかかせないチーズですが、特に芳醇な香りを持つものはお酒のおつまみとしても大人気です。中でもカマンベールチーズは特に人気が高く、白カビのチーズと言えばカマンベールと言われるほど広く愛されています。

カマンベールチーズはフランスのノルマンディ地方にあるカマンベール村発祥です。元々はブリーチーズの発展形として生み出されました。現在では世界各地で造られていますが、伝統的な手法でこの地域で造られたものだけがカマンベール・ド・ノルマンディと名乗ることを許されています。この地方は歴史的にりんごの発泡酒、シードル造りが盛んで、カマンベールチーズともよく合わせられてきました。

カマンベール表面up

●カマンベールチーズの特徴

表面に白カビを生やして熟成させた小型のチーズがカマンベールチーズです。中はトロリとやわらかく、コクのある味わいが魅力です。ミルク本来の味わいがベースとなったクセの少ないクリーミーな味わいであるところが、広く受け入れられている要因となっています。

風味のベースは牛乳のタンパク質、カゼインの分解により生成されるアミノ酸やペプチド、乳脂肪の分解により生成される脂肪酸となります。これが熟成にともない更に分解され、アンモニア臭、カビ臭、フローラル臭、硫化物臭等を呈する物質が生成されてきます。

脂肪酸には酢酸、酪酸、カプロン酸、カプリル酸などの揮発性の脂肪酸があり、チーズの香りに影響を与えています。このうちカプロン酸はアルコールと反応するとカプロン酸エチルが合成されます。カプロン酸自体の香りはヤギのような香り、汗のような香りと言われています。

カマンベール3

●日本酒の吟醸香、カプロン酸エチル

日本酒の吟醸香の中でも最も有名なものが"カプロン酸エチル"です。リンゴのような香り、フルーティな香りとして知られています。このカプロン酸エチルが日本酒の中で造られるためには以下の反応が必要となります。

カプロン酸+エチルアルコール→カプロン酸エチル

カプロン酸エチルを生成するために前駆物質であるカプロン酸を多く生成する必要があります。この為カプロン酸を多く生成した結果、カプロン酸エチルへと合成しきれずにカプロン酸のままお酒に残ることも少なからずあります。この場合カプロン酸は後味の若干の渋みとしてお酒の味わいに影響を与えるようになります。

●日本酒✕国産カマンベールチーズ

以上より、日本酒とカマンベールチーズの食べ合わせを考えると、以下のポイントが考えられます。

①日本酒、カマンベールチーズ双方にカプロン酸が含まれていることで相性が良くなっている。

②白カビチーズの熟成に伴うフローラル臭(チーズ内で酵母が様々な脂肪酸から生成するエステル類が原因。カプロン酸エチルも含まれると思われる。)と、日本酒のフルーティな芳香とがマッチする。

③日本酒自体の味わいはそこまで強いものではない為、カマンベールチーズの中でも熟成が浅く、よりクセのない味わいの国産のものが合いやすい。日本酒の方もモノにもよりますが、大吟醸などはチーズの味が勝ってしまいかねないので難しいと思われる。

④リンゴ様の香りのカプロン酸エチルを持つ日本酒は、伝統的にシードル(リンゴの発泡酒)と合わせられてきたカマンベールチーズとは相性が良いのではないかというロマン。

●まとめ

日本ではチーズの熟成に伴う個性的な香り、味わいは好みが分かれるため、国産のクリームチーズはクセのない優しい味わいのものが主流である印象です。結果的にはこのことによって、より日本酒とも合わせやすくなっているのではないかと思います。今ではコンビニでも簡単に手に入れられるようになっています。下手なコンビニグルメよりも断然日本酒とも合うと思いますので、是非選択肢の1つとしてお楽しみいただければと思います。

参考・引用文献

佐々木正弘,チーズの旨みと乳酸菌,日本醸造協会誌,2004年99巻3号p.164-169
川端史郎,白カビチーズに特徴的な香り成分とその生成経路,ミルクサイエンス,2010年59巻3号p.303-307
高藤愼一,チーズとその風味,日本調理科学会誌,1998年31巻3号p.246-250
白田志保・石川清宏,おいしさへのアプローチ~チーズにおけるアミノ酸とにおいの評価~,におい・かおり環境学会誌,2013年44巻1号p.38-45


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?