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日本酒の”からくち”を考える。③

●辛口のタイプ分類

3.) 実は甘みが残っているのだが、飲み口で辛口に感じるもの

・甘みはあっても酸度が高く、後味がスッキリと感じるもの

 甘み、糖度は残っていてもそれに釣り合うくらいの酸味があれば、甘口に感じることはあまりありません。お酒に限らず料理でもそうですが、甘みが突出して強いものは味に締まりがなく、ぼやけた味になりがちです。その糖度に見合うだけの酸味があれば、味の輪郭がはっきりして締まった味わいになります。また酸味は味の持続時間が短く、後味のキレも良くなるのでより一層すっきりと感じさせてくれます。

 とは言えどれだけ糖度が残っていても酸度が伴っていれば大丈夫かというとそうではなく、糖度が高ければ高いほど飲み口は重く濃醇となっていきますので、どんどんドライな味のイメージからは遠ざかってしまいます。日本酒の辛口度合いの目安として”日本酒度”という数字がありますが、この数字に囚われずに酸度とのバランスを見ることが大事ではありますが、味の濃淡も併せて考えていきたいところです。

・甘みはあっても苦味、渋味があり後味に甘みの余韻が残らないもの

 甘みが残っているお酒であっても、後口に苦味や渋みが口に残って甘みの余韻を消してくれるタイプのお酒も辛口に感じられるケースがあります。

 食べ物や飲み物が口に入った際の味の持続時間はそれぞれの味わいによって違います。これはそれぞれの味わいを感じる際のメカニズム、化学変化がそれぞれ違っていることによります。例えば酸味を感じる物質として代表的なものにクエン酸、乳酸、酢酸とありますが、これらは唾液と反応して酸味が緩和されていってしまうので、持続時間は比較的短くなります。

 反対に苦味は微量でも反応しやすいのですが、味の変化自体は緩やかで他の味に比べて長続きします。この為甘みが去った後にも苦味は感じ続け、結果的に甘味の印象よりも、後味の苦味が与えるドライな印象が残る場合があります。

 醸造においては、渋みや苦味は雑味と考えられて極力出さないように造られるのが一般的です。醸造過程由来で発生する渋味や苦味は確かに醸造過程に何か問題があった可能性を示唆しますが、原料の米由来で発生している苦味や渋みに関しては別だと考えています。原料由来の自然な苦味や渋みに関しては好意的に捉え、むしろ食べ物との食べ合わせを考える際には長所となることも少なくありません。

・甘みはあってもきれいに醸造されていてアミノ酸や雑味が少なく、後味がスッキリとした飲み口のもの

 甘みが残っているものでも、醸造の技術で含有アミノ酸などを抑えて造ったお酒は雑味も少なく、澄んだ味わいで後味もすっきりと感じます。
 辛口を好んでいる人の中にはそのお酒の甘さ、辛さというよりも、そのお酒の出来、不出来を気にかけている方も多くいらっしゃると感じます。
 戦中から戦後まもなくの時代には”三増酒”と呼ばれる、品質的に劣る製造コストを抑えたお酒が普及していました。物資の少ない時代背景の中で、低コストで安くお酒を供給するという目的のもと存在していたお酒なので、その是非は各個人の価値観に依るかと思いますが、割と近年までこのお酒の影響がずっと尾を引いていたことは確かであると思います。
 ”辛口が好き”という人の中には、安く品質の低いベタ甘のお酒に対する忌避意識から言っている人もいる、という側面もあると思います。

<その④につづく>

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