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大谷翔平選手の年俸7億ドルの後払い契約に漕ぎ付けたドジャースの財務戦略

先月、日本が全世界に誇るエースで4番の大谷選手は米大リーグのドジャースと7億ドル、契約期間10年という破格の年俸条件で合意しました。この年俸契約で特徴的なのは、大谷選手が総額の680百万ドル(約97%)を後払い方式で合意しているというものです。すなわち、毎年2百万ドルの年俸を10年間受取り、残りは後払いで良いということです。

この後払い方式は、ファイナンス的には大谷選手からするといわゆる機会損失に相当する額が発生します。お金にあまり執着がなく、常に球団やチーム全体のことを考える大谷選手とその代理人がどのように球団側と交渉したのかは非常に興味深いですが、普通に考えると680百万ドルを例えば固定レートの付いた金融商品などで運用して増える金額分を何らかの形で相手に請求するのがフェアではあります。そうすると、一体この金額分はどの程度なのでしょうか?

仮に将来、大谷選手が10年後に一括で680百万ドルを受け取るとすると、この報酬を支払うドジャース球団の信用力に基づく割引率が約5%として将来受け取るこの報酬額の現在価値は約4億円ドル相当とも考えることが出来ます。そうすると、大谷選手は少なくとも2億ドル以上の経済的利益を放棄しているとも見えます。これは言い換えれば、期間10年くらいの固定クーポン3%前後のドル建て債券で運用して得られる金額と同じくらいのイメージでしょうか。

ロスアンジェルス・ドジャーズ同様、アメリカのMLBチームには信じられな
い程高いバリュエーションが付いています。例えば、2012年にはGuggenheim Partnersというシカゴ拠点の大手ファンドが21.5億ドル(約3,000億円)でドジャースのフランチャイズを買収しています。

ドジャースくらいの人気球団になると放映権収入を始めとして様々な収入源が存在し、それは同球団の人気選手が活躍することで高まるブランド資産の価値と連動しています。つまり、スーパースターが集まったチームがエキサイティングなプレーで観客を魅了する→観客収入や放映権収入の増加→ブランド資産価値が高まる→バランスシートがさらに強固になる→さらに沢山のスーパースターを補強できる→また新たに観客を魅了し続ける、といったスポーツエンタメの好循環が達成可能となり、球団経営の目指す一つの形とも言えます。

上記は欧州プロサッカーの世界でも似た面がありますが、結局はエンタメのビジネスモデルの観点からプロスポーツを捉える場合、資本の力に物を言わせたチームとそうでないチームに「格差」が生まれ、それが固定化してしまうものなのでしょうか?そもそも、この場合の格差って何なのか、いつもチームが強く勝てばみんなハッピーなのか?エンタメではなく、コミュニティの誇り的な視点に立ってプロスポーツチームをみんなで応援するという面もあるでしょう。

プロスポーツと資本主義の関係は非常に複雑だけど、エンタメ資本主義が発展すればする程、年俸が高くなっていくような気がします

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