講師になろうともがいていた頃(前編)

 僕は2005年7月にコーチングを学び始め、2007年9月からコーチングを教えるようになりました。17年経った今日でも同じ仕事をすることができているのは、本当にありがたいことです。そこにはそれを支えるさまざまな出会いや出来事がありました。

 今回の記事では、講師としての僕を作ってくれた出来事をご紹介していきたいと思います。※いくつものエピソードを繋げた比較的長めのストーリーテリングです。ストーリーテリングに興味のある方はそのような観点でもお楽しみください。

一緒にコーチングを広めていきたい

 うちの母は、平本あきおさんのことを「息子を天職とも言えるコーチングへと導いてくれた人」と言っていますが、まさにその通りだと思います。平本さんは名実共に日本トップのコーチです。彼と出会って、一緒に仕事をしたことが今の僕を作っているのは間違いのないことです。

 コーチングに出会うまでの僕は、やりたい仕事で就職したことはなく、その時々に「できそうな仕事」についていました。そしてハードワークや、人間関係の問題で退職することを繰り返していたのです。3社目だったNTTでもパワハラ的マネジメントでチームを崩壊させましたが、それをきっかけにコーチングと出会ったわけです。

 最初は「平本さんのことをやたらとテンションの高い人だな」とか「怪しい人だな」と思っていたのですが、公開コーチングやカウンセリングを見る中で「こんなに短時間で人の人生を変えることができる人がいるんだ!」と驚愕しました。

 そして出会って数ヶ月経つ頃には「できることなら自分も平本さんと一緒にコーチングを教えたい」と思うようになっていたのです。とはいえ当時、平本さんの後継者になりたいという人が集う「養成塾」とか呼ばれるものがあって、そこには100人ほどの参加者がいました。

 後継者候補が100人いたわけですね。いま考えてもすごいことです。でも当時の僕は諦めたくなくて、平本さんに自分の思いを伝えにいきました。

「僕もいつか平本さんとコーチングを教えたいです!」

 平本さんは「一緒にコーチングを教えたいなら、コーチングが上手くできるようになってください」と言ってくれました。

 僕は、コーチングが上手くなったら平本さんと一緒に仕事ができるんだと思って、1年間コーチング漬けの日々を送りました。会社の中で、外であらゆる機会を捉えて毎日コーチングをしていました。

ミスコミュニケーションでしたね

 1年間コーチングをし続けたことで自信を身につけた僕は、成長した自分を見てもらいたくて、上級コースに参加しました。

 そして初日に平本さんに「1年前に平本さんから、一緒に仕事をするならコーチングがうまくなる必要があると言われたから、1年間必死に取り組んできました」

 と言いにいきました。平本さんは変な顔をしてきいていました。そして

 「だいじゅ、それはミスコミュニケーションでしたね。私はそんなことを言っていないはずです」

 と言うのです。講師になれると思って必死に努力してきた僕はあっけにとられました。

 でもよく考えたら、確かに「教えたいんだったら、最低限、コーチングくらい上手くならないとね」と言われただけだったんだろうな、と思い直し、とにかくコーチングの腕をあげようと決めたのです。

 上級クラスではリレーコーチングというプログラムがありました。クライアントが一人前に出て、そこに参加者全員が持ち時間2分でリレー形式でコーチングをしていくのです。

 前の人から引き継いで2分するコーチングでは、なかなか思うように行きません。参加者はプロコーチばかりでしたが、皆、なかなか持ち味が発揮できずにいました。僕の番が回ってきましたが、クライアントの話を聴いて、1つ2つと質問するのが精一杯で、あっという間に2分が終わってしまいました。

 20人ほどいた参加者全員で関わっても、うまく進展せずに、クライアントはあまり変わらない状態でした。そこで平本さんが

 「では、まずこのコーチングを終わらせてから解説をしましょう」

 と言って15分ほどで、それまで見たこともないようなやり方で、華麗にセッションを終わらせてしまいました。

 僕は圧倒されました。

 平本さんのデモンストレーションを見るまでは「なんで僕は上手くできなかったんだろう」「この1年間の努力は何だったんだろう」とか考えていたのです。

 でも、そのデモンストレーションを見せてもらったおかげで、僕の人生が変わったのです。

 「絶対にこれをやれるようになる!」

 なりたい、ではありませんでした。なる!と強く思ったのです。そうしたらもう一人の自分が「いつまでに?」と問いかけてきたのです。

 悩みました。だってセッションはあまりにも凄過ぎて、どれくらいで実現可能なのかまったく分からなかったのです。そこで

 「11年間でやれるようになる!」

 と仮決めしたのです。11年は平本さんと僕との年齢差でした。

 「11年後までに今日のデモンストレーションを完璧にできる自分になる」

 そう決めたのです。

 この決断は大きかったと思います。これがなければ今日の僕はありません。11年かけて日本トップのコーチになると決めたわけです。この大きな目標が僕のことを引っ張ってくれました。

ひろさんが言ってくれてるので

 11年で平本さんと同じコーチングができるようになる。そう決めてからも相変わらず、月金は会社を中心にコーチング三昧。そして土日は平本さんのクラスにアシスタントとして参加をしていました。

 そのとき、平本さんと一緒にコーチングを教えていたのが、酒井利浩さん(ヒロさん)です。

 ヒロさんに対しても僕は「平本さん、ヒロさんと一緒にコーチングを教えたいんです」と言い続けていました。

 そうしたらクラスの朝に突然平本さんから呼び出しを受けました。そこにはヒロさんもいて、そして平本さんに言われたんです

 「だいじゅ。来年の4月から一緒にクラスを教えますか?」

 まさかそんなこと言ってもらえると思わなかったので、驚きました。けれどもっと驚いたのは、僕の中から誰かが大きな声で

 「やらせてください。お願いします」

 と言ったことです。突然無意識が喋りだすということを、僕は人生の中で何度か体験していますが、このときもそうでした。僕の意識ではなく、無意識がはっきりと返事をしたのです。

 あとからきいたらヒロさんが「だいじゅは本当に頑張っているので、チャンスをあげてください。ぼくの枠で出てもらうので構いませんから」と言ってくれたそうです。

 ヒロさんだって、当時まだまだ仕事が十分にあったわけでもないんです。なのに、その仕事を僕にくれた。本当に感謝してもしきれません。僕が若いコーチや講師をできるだけ応援したいと思うのは、こんなふうに自分を引き上げてくれた先輩たちがいたからなのです。

 さて、講師になることが決まった日のクラスでの出来事です。午後のワークに「本気のコーチング」というものがありました。どんな手段を使ってもいいので、相手の本気を引き出すのです。

 各ペアは真剣に睨み合ったり、大声で問いかけたり、思い思いのやり方で相手の本気を引き出そうとしていました。

 ところがその中に一組だけ、普段と変わらないようなコーチングをしているペアがあったのです。コーチは年配のベテランで、よそのスクールで講師をしているような方でした。

 平本さんがヒロさんに「ちょっとあそこのペア見てあげてくれますか?」と言いました。するとヒロさんが

 「だいじゅ。いける?」

 ときいてきたのです。行くしかないですよね。その日の朝に「来年の春から一緒に講師をやろう」と言ってもらったのですから、ここで逃げるわけにはいきません。二つ返事で、そのペアのもとに向かいました。

 そして、コーチに対して「ちょっとだけいいですか?」と声をかけて許可を取ったあとで、クライアントに対して静かに、でもかなり高い熱量で問いかけました。

 「今の話はわきに置いて、絶対にやりたいことについてきかせてくれませんか。できるできないではなくて、やりたいことがあるから、ここまで来てる。違いますか?」

 相手の目をじっと見つめ続けます。十数秒の沈黙の後、クライアントが話し始めました。熱量がガラッと変わっています。それが下がらないように関わります。そして横で一緒に聴いていたコーチに「あとはお願いします」と目で伝えて、その場から離れました。

 1分ちょっとの出来事でした。緊張しました。ヒロさんの方を見たら笑顔でした。平本さんは目を閉じて瞑想しているような様子でした。

 その日の夜は懇親会でした。その終わりに平本さんにまた呼び止められました。そこで

 「だいじゅ。さっきの関わりは良かったですね。だいじゅなら来春と言わず、9月のクラスから行けると思いますから、そうしませんか?」

 と言ってもらいました。

 僕の無意識はまたもや躊躇なく「はい。よろしくお願いします」と答えました。

 こうして僕は、コーチングを始めてから2年2ヶ月で、憧れの先生たちと一緒に講師をやることになったのです。

 とても幸せな気持ちで家までの道のりを歩きました。でも、途中から不安になってきました。あの二人と一緒に自分に何ができるんだろうか。

 参加者の人からしたら、何者でもない僕が前に立つよりも、ヒロさんが前に立った方がいいに決まっている。僕は何のために登壇するんだろう。どんな価値が提供できるのだろう。

 急に怖くなってきました。ところが僕の無意識が言うのです。

 「どこなら勝てるだろうね?」

 本当に不思議な日でした。こんなに無意識が声を発する日は体験したことがありませんでした。

 どこなら勝てるだろうって?あの二人に?

 と問い返す僕に、無意識は

 「平本さんに」

 と言うのです。

 この瞬間も僕の人生の転機になりました。

 つづく

僕たちと人生を変えるコーチングを身に付けたい人は



 

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