「曖昧語」と「因果関係」で相手の無意識に影響を与える

ミルトンモデルの解説の続きです。それぞれ独立しても読めるはずですが、初回から読みたい方は↓

 上の記事では「前提」という概念を活用してパワフルな質問をつくっていくヒントをお伝えしました。

 そちらの復習も含めて、今回も具体例を使って検討していきます。※ケースは以下のものを使っています

相談内容はこちら

CO 今日はどんなことを話しましょうか?
CL 自分に自信が持てるようになりたいです
COどういうことですか?
CL私、本当に鈍臭いというか、不器用なタイプで、新しいことを身につけるのにとても時間がかかるんです。いまもコーチングの勉強をしているのですけど、できないことだらけで。。。なんか結構がんばってきたんですけど、わたしなんかまだまだって思ってしまって。。。どうせできないなら堂々としている方がましとも思うのですけど、それも難しくて。。。
COもっと堂々とコーチングがしたい。。。
CL自分でも嫌になっちゃうくらい出来ないことがあるんだけど、それでもクライアントを前にするなら、堂々と自信もってやりたいじゃないですか。だけどなんか正解を求めてしまうというか、自分がやっていることは合ってるのかな、とか正しいのかなと考えてしまって自信がなくなっちゃう。。。だから先生にも相談できないし、相談してもすぐに、あー出来ません、ごめんなさいみたいになっちゃう

相談内容

 これに対してコーチは以下の関わりをしました。解説対象の質問を太字にした上で、ミルトンモデルについての解説をつけていきます

CO ひとつききたいんだけどいいかな?
CL なんでしょう
CO すぐに先生にごめんなさいって謝っちゃうみたいなんだけど
CL はい
CO そのやり方って果たして正解なのかな?(目的)

 前提は「わたしはこのやり方は正解ではないと思っている」です。結構厳しい前提ですね。

 クローズドクエスチョンは「解釈投与」だと言われることがあります。こちら側の解釈を与えているのがクローズドクエスチョンなのだということです。

 「お父さんのこと好きなの?」という質問は「お父さんのこと好きじゃないでしょ」というこちらの解釈を質問形で相手にぶつけているんだというようなことですね。

CL 。。。。正解じゃないと思う
CO じゃあたとえば何が正解なんだろう?(行動)

 前提は「他に正解がある」「あなたは正解を知っている」。こちらは一転して優しい前提ですね

CL 。。。。先生に教えてもらう
CO どうやって?(具体化)
CL 「この部分がよくわかってなくて」みたいにきいてみる
CO そうしたらどうなりそう?(予測)
CL ちゃんと教えてくれる
CO ちゃんと教えてもらったらどうなる?(予測)
CL 少し自信が持てる!
CO そうなんだ!何があったら、先生に質問できそう?(ニーズ)

 前提は「何かが不足しているから質問できてない」「ニーズを満たせば質問できる」。これも優しい前提。基本的にコーチが用いる前提は優しいのです。

 「あなたはニーズさえ満たしたら、何でもできる!」という風に相手を見ているのです。

CL 呆れられないって思えたら
CO 先生とどんなコミュニケーションをとったら呆れられない?(行動)

 前提は「コミュニケーションの取り方によって回避できる」。

 アドラーは「すべての問題は人間関係の問題である」というような表現をしています。これが正しいとすれば

 「すべての問題の処方箋はコミュニケーションである」と言えるかも知れませんね

CL。。。。先生はそもそもあきれないと思うけど、それでも。。。真剣に課題を克服したい気持ちを伝えられたら大丈夫。。。です
CO 真剣に課題を克服したいんですね
CL 。。。。。はい
CO それは何のためだろう?
CL 。。。クライアントさんの力になりたいから
CO 正解かどうかよりも、クライアントさんの力になれるかどうかが大事?

 前提は「クライアントの力になることが大目的。正解を知ることは、そのための手段の一つ」


CL え?
CO コーチング的に正解かどうかより、目の前のクライアントさんの力になれるかどうかが大切なんだろうか?
CL 。。。。。力になれるやり方と正解って違うんですか?
CO どう思う?

 前提は「あなたは答えを知っている」

 クライアントの質問に対して、力強く質問で返していますね。

 「クライアントは答えを知っている!!」

 そう信じて関われるのは素晴らしいことですね

CL 一緒なような気がしてたけど。。。でも相手によって正解は違うのか。。。
CO 答えは現場にしかない

 これは質問ではなく、こちらの考え(前提)だけ伝えてますね笑

 その前提を含んで質問形にするなら
「答えは現場にしかないんじゃない?」
「答えは現場にあるんじゃないかな。どう思う?」
「僕たちの基本的な考え方は、答えは現場に存在する、だと思うだけど、どうだろう?」
「コーチングの答えって、本当に教科書の中にあるのかな?」
「答えは教科書の中にはないんじゃない?」

 みたいに色々とつくることができますね。さらに凝って作ってみると

「コーチングの答えが現場にしかないとしたら、私たちはそれをどうやって発見するんだろう?」

 相手がこの質問の答えを真剣に考えてくれたら、何が起こりそうかイメージしてみてください。

新たな因果関係をつくる

CL あ
CO 答えはクライアントと一緒につくるしかない
CL。。。。そうですね
CO ちゃんとあなたの中にもあったじゃない
CL え?
CO だって今、そうですね、って言ったでしょ
CL 。。。。
CO 本当はちゃんと知ってたんだよ
CL 。。。。そうかもしれませんね
CO クライアントさんのために、たくさん実践してきたんだから

 これも質問ではありません。一つ前の「本当は本当はちゃんと知ってたんだよ」と繋がっていますね

 コーチははクライアントの中に新たな因果関係をつくろうとしているのです。これもエリクソン博士が使ったやり方です。

クライアントさんのために、たくさん実践してきたら(因)→本当はちゃんと知っていた(果)

 あなたはクライアントのために、たくさん実践してきたのだから、本当はちゃんと知っているんじゃない?

 とクライアントに問いかけているのです。クライアントがこの考えを受け入れるなら、

「自分はちゃんと知っている」も真実
「自分はクライアントのために、たくさん実践してきた」も真実

 になるのです。すごいね

しかも「たくさん実践してきた」ことが、「自分はちゃんと知っている」の根拠になるのです。とても力強いですね。

 人間って因果関係があると納得しやすいのです。

①「あなたはちゃんと知ってるんだよ」
②「あなたはクライアントのためにたくさん実践してきたんだから、ちゃんと知ってるんだよ」

因果関係のあるなし

 いきなり①のように断定されるよりも、②のように根拠付き(因果関係あり)で示されたほうが納得感が生まれやすいのではないでしょうか。

 実は論理的に考えるならば、クライアントのためにたくさん実践してきたからといって、必ずしも「ちゃんと知っている」とは言えないはずです。だけど、なんとなく納得してしまうですよね。

 だから

①もう大丈夫だよ
②僕のところに相談に来れたのだから、もう大丈夫だよ

因果関係をつくってメッセージを伝える

 この例のように、単に「もう大丈夫だよ」と言って安心させようとするよりも、因果関係を作って伝えることで、納得感を持ってもらおうとしたりするのです。

 これを質問形にすれば

僕のところに相談に来れたのだから、もう大丈夫じゃない?

質問形

 のようになりますが、クライアントがこれにイエスと言えたなら、より効果が高いわけですから、質問形でいけるときはそうしたいですね

あえて曖昧な表現にしてみる

 さらに

①僕のところに相談に来れたのだから、もう大丈夫だよ
②僕のところに相談に来れたのだから、もう大丈夫だと言えるかもしれない

曖昧語

 のように語尾を曖昧にするやり方もあります。こうなるとクライアントはますます抵抗感を感じにくくなります。

 ・大丈夫かな
 ・大丈夫かも知れない
 ・大丈夫かもね
 ・大丈夫とも言ってもいい
 ・大丈夫な可能性もある
 ・大丈夫なんじゃないかな
 ・大丈夫だと思う

 みたいに断定しない表現にもたくさんのやり方がありますから、ぜひ意識的に活用してみてください

 断定形だとクライアントが抵抗を感じそうなときは、語尾を曖昧にすることで、受け入れてもらうのもエリクソン的なやり方なのです。

 前回の記事でも書きましたが、

 直接的な提案や指示ではなく、「曖昧」で「含み」を持たせた言葉での暗示や誘導を行うことで、相手の内的なリソースを活性化させて解決を引き出すのがミルトンモデル

 のやり方だからです。

 まとめてみると、コーチが伝えたいのは「もう大丈夫」ということなのですが、断定してしまうとクライアントが受け入れてくれないかも知れないので

 もう大丈夫と言えるかも知れない

 と語尾を曖昧にすることで抵抗を回避しつつ、さらに

 こうやって相談に来れているということは、もう大丈夫と言えるかも知れない

 と根拠(因果関係)までつけて納得感を増していたわけです。

曖昧さは語尾だけではない

 本編に戻ってみましょう。

「あなたはクライアントのためにたくさん実践してきたんだから、ちゃんと知ってるんだよ」

コーチのメッセージ

 じつは、この中にも「曖昧さ」というコンセプトが含まれています。曖昧さは語尾だけではないのです。

 何を実践してきたか?
 何を知っているのか?

 のようなことは敢えて曖昧にされているのです。これを例えば

 あなたは100人にコーチングをしてフィードバックシートをもらってきたのだから、コーチングにおいて何が正解であるかをちゃんと知っているはず

曖昧にしないと

 のように曖昧にせずに表現するとどうでしょうか。

 「いやー、100人コーチングしたくらいでは何とも言えないわ」
 「コーチングの正解なんて分からないでしょ」

 となってしまいかねないのです。何しろクライアントは自信がないわけですから。

 なので敢えて具体化しなくても良さそうなことは、曖昧に表現して、納得感を得てもらっているわけです。

 そして最後は

CL 。。。。はい
CO ここからさらに一歩成長するために、つぎに先生と話せたらいいことってなんだろうね?

 「さらに一歩成長するために」の前提

 「これまでも成長してきた」
 「あなたはこれからも成長をする」
 「先生と話をすることで成長する(因果関係)」

 なわけです。

 「話せたらいいことってなんだろうね」の曖昧感もいいですね。

 「何について、どう話すのが良いですか」と比較して、自然に思考が動いていく感じを感じとることができるでしょうか?

 まずはなんとなく掴み取ることが大切ですから、今回も「曖昧語」や「因果関係」についてなんとなく掴み取ったら、さっそく実践の中で実験してみたり、実践事例を検討して面白がってみてください

そろそろ人生を変えるコーチングカウンセリングを身に付けたいという方は


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