あなたは何を「前提」にコーチングしているか①NLP

 今回のシリーズでは「NLPの前提」というものを解説します。これらは、相手と関わる際に前提としたほうが良いこと、という意味で「前提」と呼ばれています。

 NLPは成功者の思考行動パターンをモデリングして作られたものです。その一番ベースになっているのがこの「前提」と呼ばれる、世界観・人間観です。どのような世界観・人間観を持っているかによって、あなたの人生が変わるだけでなく、関わる相手の状態も変わっていきます。ぜひご自身の世界観を見直すつもりで、NLPの前提を活用してください。

前提①地図は土地そのものではない

 あなたの家の周りの地図を書いてみてください。

 書き上がった地図はきっと不正確な地図です。道路の本数が少なかったり、曲がり角の位置が不正確だったりするかもしれません。家やお店の数も足りないし、場所が間違っていたりすることもあります。でも不正確で良いのです。地図には(多分)あなたが必要とするものは描かれています。あなたがよく使うお店、あなたが目印にしているもの、あなたが好きな場所、気をつけた方がいいエリア、あなたが使う駅やバス停。。。。

 あなたのご家族が地図を書くと違うものになります。同じ家に住んでいるのに見ている世界、住んでいる世界が違うのです。あなたが知っているお店で、家族が知らない店があります。家族はよく知っている道で、あなたが知らない道もあります。「え、こんなところにパン屋さんあったの?今度行ってみよう」などと新しい発見があるかもしれません。

 人はそれぞれが違うやり方で、この世界を捉えています。人はそれぞれに自分用の地図を持っていて、その地図を使って生きているのです。それぞれの地図は、現実を正しく表現しているものではありませんが、不正確なりに役にたつものなのです。

 国土地理院さんで研修を行った際に、この話をしました。そうしたら職員の方から「私たちが作っている地図はとても正確です」との意見をもらいました!でも、どれだけ正確な地図でも、たくさんの省略が存在しているのです。道路は可能限り正確に描かれていますが、建物についての情報はほとんど載っていません。最近は3Dの地図などもありますが、外観が簡単に描かれているだけですね。

 繰り返しになりますが、それでいいのです。地図は不正確なのが良いのです。正確な地図を書こうと努力したら、それは地図ではなく、現実の世界をもう一つ作るような作業になってしまうのです。現実の全てを、たとえば草の一本一本まで表現しようとしたらそうなってしまいます。そんなものは地図として役に立ちません。地図は簡略化されているから良いのです。必要のない部分はどんどんカットして、シンプルに世界を捉えるのが良いのです。

 私たちは生まれた直後から、自分用の地図をつくる作業を繰り返してきました。まずは家の中、誰がいるか。。。よく知っている部屋は詳しく書き込まれますが、あまり入らない部屋は存在自体知らないこともあり得ます。そして近所。公園やお菓子屋さんなどは、すぐに覚えるかもしれません。あとは怖い犬がいる家、やさしいおばさんがいる家。そうやって自分が生きていく世界の地図を脳内に作っているのです。

 地図に書き込まれるのは、場所の情報だけではありません。人について、物事について、さながら人生の観光マップや観光ガイドみたいなものを、脳内に作っているのです。アイスは美味しい、サッカーは楽しい、塾はつまらない、A先生はいい人、B先生は信用できない。私はおっちょこちょい。あそこにいたらいいことがある、こっちにいたら大変な目にあう。おとなしくしているのが正しい。乱暴をするのは間違っている。

 全て事実ではありません。それまでの人生体験から生まれた主観(思い込み)です。私たちは自分の体験から学んだことで、自分の世界地図を作り、それを使って生きています。そしてそれが正しいと信じているわけです。

 そして一度地図に書き込まれたものは、基本的に強化される傾向にあります。「おかあさんは私を嫌ってる」と地図に書き込まれると、その色眼鏡(フィルター)でおかあさんを見るようになるのです。妹を可愛がっていると「やっぱり私が嫌いなんだ。妹のほうが可愛いんだ」と見るわけです。そしてお母さんが自分のことを可愛がってくれても「何か裏があるに決まってる」とか「今日だけたまたまだよ」とか解釈するし、翌日お母さんが用事をしている姿をみて「やっぱり私のことなんか好きじゃないんだ」とか思ったりするのです。確証バイアスと呼ばれるものですね。こうやってますます自分の地図を正しいと思うようになっていきます

 「地図は土地そのものではない」とは、どんな地図にも全てを記載することはできないということです。地図は見落としや省略があったり、勘違いがあったりするのです。そして私たちは、そんな見落としや誤解に溢れた世界地図を見ながら、それが正しい世界だと思って生きているのでないでしょうか。地図は土地そのものではありません。

 このことに意識を向けたときに、私たちは意識的に地図を書き換えることができるようになります。いろいろな角度から、より正確に世界を見てみようとすること。そうすることで私たちの世界地図は描き変わり、人生の新しい楽しみ方や、より楽な生き方に出会うことができるのです!

前提②相手の世界地図を尊重する

 相手とあなたは持っている世界地図が違います。どっちがあっているとか間違っているとかはありません。どっちも自分で作った、自分にとってはリアリティがある地図を持って人生を生きているだけなのです。

 だから人と意見が違うのは当たり前です。

 サッカーが好きVSきらい。仕事は楽しいVSつまらない。結婚すべきVSするもんじゃない。子どもは可愛いVS可愛くない。人間関係なんとかなるVSなんともならない。

 ちなみに意見があっていても、お互いの地図に書かれている内容は全然違うこともあります。たとえば同じ「子どもはかわいい」という意見でも

 うちの子は本当にお利口で、ちゃんということきくしとっても可愛い
    VS
 子どもたちって、本当に自由で無邪気で奔放で可愛らしいなぁ

 みたいに真逆のイメージだったりすることもありますね。

 こんな風にみんなちがう世界に生きているのが私たちです。そして、とはいえ一人では生きていけない、他人と一緒に生きていくのが私たち人間です。

 では、どうしたら良いのでしょう。そのとき大切なのが「相手の世界地図を尊重する」という前提です。

 相手は相手の人生の中で、自分に必要なものを地図に書き込んできた。自分がそうしてきたのと同じように。これはどちらかが一方的に正しくて、他方は間違っているというようなものではない。だからまずは相手の世界地図を尊重しよう、と

 その上で相手の地図に興味を持つと良いのです。たとえば「コーチングなんて役に立たない」という人がいるとします。あなたの地図には「コーチングは役に立つ」と書いてあるかもしれませんが、まずは相手の地図を尊重しましょう。

 その上で、相手の地図にどんなものが書いてあるか興味を持って質問してみて欲しいのです

あなた「どうしてそう思ったのですか」
相手「以前受けたけど、ぜんぜんピンとこなかった」
あなた「そうなんですね。どんなことを期待していたのですか」
相手「仕事が思うように進まなくて、何かヒントが欲しかった」
あなた「ヒントというのは?」
相手「部下にどう関わったらもっとうまく動いてくれるのかとか」
あなた「なるほど!あとは」
相手「上司とももっとうまくやっていく方法とか」
あなた「なるほど。コミュニケーションの具体的なヒントが欲しかった」
相手「そうだね」
あなた「コーチは、あなたにどんな風に関わってきたのですか?」
相手「本当はどうしたい?とか、何ができそう?とかきかれたけど」
あなた「けど?」
相手「よくわからないし、どうするのが効果的なのか知りたかったので」

相手の地図に関心を持つ

 「コーチングなんて役に立たない」という人に対して、反論したり、同意したりするのではなく、相手の世界地図にはコーチングに関してどんなことが書き込まれているのかに興味をもってみたいのです。

 すると、

 部下や上司とのコミュニケーションをどうしたらいいか具体的なヒントが欲しかったけど、「本当はどうしたい?」などときかれてピンと来なかった。

 と書き込まれていたのがわかりました。こうなれば「なるほど、そんな体験があったんだな」とわかりますね。

 コーチングカウンセリングでは多くの場合、結果として相手の地図は変化します

 でもそれは、クライアントの間違った地図をコーチが修正するプロセスではないのです。

 クライアントの地図はコーチに尊重され関心を向けられ、理解を深められていきます。そのプロセスの中で、クライアント自らが必要に応じて地図の書き換えを行なっていくのです。

 続きを見てみましょう

あなた「変な質問ですけど、どんな質問をされたら良かった?」
相手「ん?」
あなた「たとえば、部下に対するコミュニケーションのヒントが欲しかったのでしょう?」
相手「はい」
あなた「部下の方がどうなるヒントが欲しかったのですか?」
相手「やる気を出してくれたらいいな、と」
あなた「では、コーチが例えばどんな質問をしてくれたら、部下がやる気を出すためのヒントがでてくるでしょう」
相手「。。。。。その子はどんなことが好きなの?。。。とか?」
あなた「おおおお。いいですね!!他には??」
相手「。。。。。。どんなこと言われたら喜ぶと思う?。。。とか」
あなた「すごい!!あとは?」
相手「。。。。。。どんな仕事ならやる気でそう?。。。」
あなた「いいですね!!誰とやれたらやる気でそう?とかはどうでしょう」
相手「ああ、それもいいかもしれません」
あなた「コーチがどんな質問をしてくれたら良かったでしょうか?」
相手「。。。。。。。そもそもですけど。。まずは。。。部下はいま何に困ってるの?とか」
あなた「すごい!!本当そうですね!!どうですか、よかったら今から一緒に考えてみませんか?」

相手が地図を書き換えるのを手伝う

 自分にとって役立つ質問とは何か?を一緒に考える中で、相手の地図が自然と書きかわっていますね

 ということで前提②は相手の地図を尊重する。でした。私たちは自分の地図を正しいと考えていたり、相手の地図を書き換えるのが相手のためと思うあまり、相手の地図を尊重して関わることを忘れがちです。

 相手の地図を尊重しないことで、うまくいくものもいかなくなってしまうのです。まずは相手の地図を尊重し、相手の地図を理解することから始めていきましょう。必ず地図は書き換わっていきます。というのも実は「コーチングは役に立たない」と地図に書き込まれている人であっても、誰かに質問されたり、話をきいてもらって良かった体験もしているはずなのです。ですから、それらも思い出していけば、自然と地図の内容も変わっていくのです。このあたりのことは認知再構成法の根拠と反証を見るとイメージが掴めるのではないかと思います

続きます

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