ルールを守らない子どもへの関わり

 今回はテニススクールの先生からのご相談からスタートします

 小学生クラスに練習後のボールを片付けない生徒がいる。練習後はみんなで片付けをするというルールになっているのだが守ってくれない。自分のポリシーとして、叱って無理やり言うことを聞かせるようなことはしたくないので、「練習後は一緒に片付けよう」と伝えているが、片付けてくれない。他の子達は片付けているので、その子たちにも良くないと思う。厳しく言うべきなのか。

相談内容

 やさしく熱心な先生ですね。確かに叱って無理やり片付けさせた方が早いかも知れませんが、そうしたところで、

 叱られた時だけやる。叱られそうな時だけやる

 そんな子が育つ可能性があるわけです。これは結構、要注意です。世の中には「叱らないとわからないんだ」と言う説を唱える人がいますが、何事にもデメリットがあるもので、叱ることで

 ・叱られた時だけやる
 ・叱られないようにやってるフリする
 ・後輩に対しても高圧的になる
 ・指導者に面従腹背
 ・叱られたことを根にもつ
 ・心を閉ざす
 ・叱られないかとビクビクすごす
 ・消極的な性格になる

 などの望まない副作用の可能性もあるので、気をつけたいですね。少なくとも高圧的に叱られると脳機能は低下することがわかっています。例えば「言語理解」「未来予測」「強化学習」「エラーチェック」などの機能が低下します。つまり強く叱られていると子どもは「言われている意味が分からない」「この先どうなるか考えられない」「新しいことを身につけられない」「やってることがあってるか間違っているか分からない」という状態になるわけです。

 また他の子の前で叱ることもデメリットが大きいです。人間は社会的な生き物なので、他人との関係性がとても重要です。他人の前で面子を失うことにより意欲が低下したり、あなたに怒りがむいたりする可能性もあります。

 などなど「叱る」やり方にもデメリットが多々あるわけです。今日では語調が荒くなっているのを録音、公開されたりしてスキャンダルにもなりますね。

 かと言って、放っておいても何も変わりませんね。やらなくても何も変化がないなら、自らボールを片付けるようになる理由やきっかけもないからです。その状態では片付けるメリット、片付けないデメリットが感じにくいですものね。

 ちょっと話がずれますが、いっそ練習前に片付ける方式にしたらいいかも知れませんね。クラス後はボールを片付けない。次のクラスの人が前のクラスの分を片付けてから練習スタートする。そのクラスで使ったボールは、その次のクラスの人が練習前に片付ける。そうしたら、片付けないと練習始められないので、片付ける意味がわかりやすいかもしれません。もしくは、もっと普通のアイディアですが、片付けたくないなら、片付けてくれる人を雇って、その費用を負担してもらうのも一つの方法ですね。なにか合理的な方法で解決する手もあるわけです。

 そんな解決策もなくはないでしょうが、自分がしたことの後片付けをするというのは責任を持って生きることにつながりますから、練習したら片付けをやってもらいたい気持ちは分かります。

 ではどうしたらいいのでしょうか。

コーチング的アプローチでは

 実際のテニススクールの先生とのやりとりの一部を紹介します

先生「スクールで練習後にボールを片付けない子がいて、対応に悩んでいます」
僕「悩んでいる?」
先生「強くいって無理やりやらせたくはないけど、冷静に伝えても片付けようとしないので。。。他の子たちへの影響もあるし」
「どうして片付けをしてもらいたいのですか?」
先生「。。。。。」
僕「ルールだから?」
先生「それもあるけど。。。」
僕「何ですか?」
先生「やったことに責任を持てるようになって欲しい」
僕「どういうこと?」
先生「ボールを片付けるだけでなく、使った場所やものは綺麗にして、また気持ちよく使えるように。。。他の人と共用しているものでもあるので」
僕「なるほど。共用しているものだから気持ちよく使える状態にするために協力しあって欲しい」
先生「はい」
僕「あとは?。。。片付けて欲しい理由」
先生「やっぱり道具などを大切にする選手は強くもなるし、他の人からも認められるので」
僕「認められる?」
先生「立派だと思われる」
僕「なるほど。上達して欲しいし、立派だと思われる選手になって欲しい」
先生「はい」
僕「素晴らしいじゃないですか!先生の思いは生徒さんにどれくらい届いているのだろう?」
先生「どれくらい。。。。」
僕「今言ってくれたことが、生徒さんたちにどれくらい届いているんだろう。上達して欲しいし、立派だと言われる選手になってもらいたいと思っている。君たちにはその素質がある。そしてみんなで使っている大切な練習用具だから、気持ちよく使えるように協力して欲しい」
先生「。。。。あまり届いていないかも知れません」
「先生がそれをしっかり伝えたら、何が起こると思いますか」
先生「わかってくれたら、やってくれると思います。。。。。。」
僕「なんか今ちょっと、ニヤッとしたように見えましたけど」
先生「いや、彼らの気持ちもわかるんですよね。ふざけたいとかカッコつけたいとか」
僕「そっか。だから?」
先生「だから。。。。その気持ちも理解しつつも、もっとカッコよくなってもらうために、しっかりと伝えたいです」

意図を伝えるコミュニケーション

 「ルールだからやれ」「みんなやってるんだからやれ」では納得できない子もいます。むしろそれが健全なのかも知れないと思います。だから先生に思いがあるなら、それを伝えてみてもらいたいんです。

 そしてあくまでもどうするか決めるのは生徒さん本人です。何であれ人は無理やり何かをやらされるべきではないのです。無理やりやらせようとするから、お互いの信頼が損なわれる。協力しにくくなる。率直なコミュニケーションが取れなくなる。話し合ってどうするか決めて欲しいのです。本来ルールとはそういうものなのでは無いでしょうか

そのルールは「条件」を満たしているか


 先ほどのセッションの続きです

僕「ちょっとお伝えしたいことがあるのですけどいいですか」
先生「お願いします」
僕「アドラー心理学ではルールは3つの条件を満たす必要があると考えるのです」
先生「条件。。。」
僕「はい。ルールのチェックポイントですね。ちなみにどんな3つかと言うと①合理性②平等性③合意性です」
先生「。。。。。」
僕「①合理性は、理にかなっているかどうか?です。練習後にボールを片付けましょうは理にかなってますか?」
先生「理にかなっていると思います。片付けないと次の人が使えないので」
僕「そうですね。練習後は先生の車を綺麗に磨きましょうだと理不尽かもしれませんが(笑)」
先生「確かに(笑)」
僕「次は②平等性です。これはルールがみんなに適応されるかどうかです。不平等なルールはまずいですものね。どうでしょうか」
先生「はい。僕も含めてみんなで片付けようということになっています」
僕「すばらしい!!どうして先生も含めて、となっているんですか?」
先生「練習に使用していると言う点では変わらないので」
僕「すごいなぁ。。。先生がそう言ってくれるのは、素晴らしいスクールだと思います」
先生「ありがとうございます」
僕「最後に③合意性です。スクールの生徒全員は、事前に説明を受けてこのルールに合意しているでしょうか?」
先生「。。。。。。。事前に。。。。」
僕「何の契約でもそうですが、本来は事前に説明されて合意してスタートですよね」
先生「確かに。。。」
僕「ちなみに、いくら言っても片付けをしない場合はどうなるのですか?」
先生「練習に参加してもらえなくなってしまいます。。。」
僕「そうしたらそれもルールの一部なのですが、このことには合理性と平等性はありますか?」
先生「。。。。合理性はあると思います。平等性は。。。みんなに適用されるならあると思います」
僕「いまはグレーゾーンで泳いでる子たちがいるからですね(笑)」
先生「はい」
僕「そうしたら本来はどうあると良いのでしょう」
先生「本来。。。」
僕「本来はどの段階で、何を彼らに説明したら良さそうでしょうか」
先生「。。。スクールに参加する前に、ルールを説明する。その中で練習後にはボールを片付けることも伝える。あとは、片付けをしないなら、練習に参加できなくなることも」
僕「なるほど!それをしたら、どうなりそうですか?」
先生「納得感がありますね。みんな気持ちよく練習や後片付けにも取り組めそうです」

心理教育とメンタルリハーサル

 アドラー心理学の考え方を伝えています。これは心理教育などと言うものですね。別に僕はアドラー心理学の狂信者ではないので、なんでもかんでもアドラー心理学の考えが正しいというつもりもないですし、ましてやそれを他人に押し付ける気はないです。

 ただし100年の時を超え、真理の世界を超えて、広く活用されてきている考え方があるので、それを一つの参考として共有し、それをベースに考えてみるというのは効率のよいやり方だと思います。

 コーチングでは「答えは相手の中にある」と言いますが、何でもかんでも素晴らしい答えがクライアントの中から出てくるかといったらそんなことはないと思います。「どう生きたいか?」「誰として生きたいか?」などの答えはクライアントの中にしかないと思いますが

 「どのようなルールが生徒にとって望ましいか?」

 くらいの質問でも、現実に役にたつ答えが返ってくる確率はそれほど高くないのではないでしょうか。ましてや、もっとクライアントが未経験な領域であれば、指針が見つからないことはいくらでもあると思います。なので僕たちコーチがクライアントに「役に立つガイドライン」を提示し、それをベースに一緒に考えることには意味があると思うのです

 このケースで紹介した「役に立つガイドライン」はルールの3条件でした

①合理性
②平等性
③合意性

ルールの3条件

 このようなガイドライン(フレームワークと言ってもいいですね)を提示しながら一緒に考えることで見通しが良くなるし、抜け漏れが少なくなるわけです。

 先生と僕はこのようなガイドラインを用いて、どんなルールを、どのタイミングで、どう説明したら何が起こりそうかを想像し、リハーサルをしてみたわけです。

 ということで、良かったらあなたも、学校のルールでも家庭のルールでも、まずは明文化した上で合理性、平等性、合意性のチェックをしてみてください。

 ちなみに、このケースの最後の質問はこんな感じでした

僕「では、これまでのことを踏まえて、誰とどんなコミュニケーションを取ると良いでしょう」
先生「まず。。。。片付けてない子を呼んで、事前にちゃんと説明しておくべきだったけど、みんなで気持ちよく練習するために片付けには協力してもらいたい。それをしないと練習に参加してもらえなくなる、と伝えます」
僕「なるほど」
先生「。。。あとは。。。。上達してきてるし、将来いい選手になると思っているので、片付けや道具を丁寧に扱うことも大切にしてもらいたいというのも伝えます」
僕「いいですね!他の生徒さんたちには?」
先生「。。。。そうか。。。適切なタイミングで。。。。いつも協力してくれてありがとう、と伝えて、みんなへの想いというか、可能性を感じていることを伝えたいと思います」
僕「それらをしたら、どんなスクールになっていきそうですか」
先生「。。。。みんなもっと協力し合うし、楽しく、もっと結果も出せるようになっていくと思います」

具体的行動に繋げる

 後日、先生が結果を教えてくれましたが、生徒さんにはちゃんと伝わって、しっかり片付けに参加してくれるようになったし、練習にもさらに熱心になったとのことでした。

 次回の記事ではこのことと関連して「結末からの学習」という重要な観点について解説をしたいと思います。お楽しみに

 続く

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