子どもに「嫌なこと」も体験させたほうがいいのでしょうか

 僕はコーチング業界にいすぎて、少し一般の感覚から遠ざかっているもんで、

 「子どもに『嫌なこと』も体験させたほうがいいのでしょうか」

 みたいな質問をされると一瞬ポカンとしてしまう。本当によく分からない。何のことを言っているんだろうと思ってしまう。

 でも考えてみると、確かにそういう不安もあるよね。と思う。

 「好きなこと」「楽しいこと」「やりたいこと」だけやらしておいて大丈夫だろうか。人生はそんなに甘くない。「やりたくないこと」「苦手なこと」「大変そうなこと」にだって取り組まねばならないものだ。だから楽しいことだけでなく、嫌がるようなことにも取り組ませた方が良いのではないか。

 そう考える気持ちも分からないではないです。とはいえ僕は「嫌がることをやらせる」必要はないと思いますし、やらせたところでそれほど良いことがあるとも思えません。ではどうしたらいいのか。

 今日はそんなことを一緒に考えてみましょう。

どんなことを体験をしてもらいたいですか?

  「子どもに『嫌なこと』も体験させたほうがいいのでしょうか」と質問をしてきたお父さんには小学校高学年の息子さんがいるそうです。

 僕はお父さんに質問しました

「お子さんに、どんな経験をしてもらいたいと思っているのですか?」

 さて、どんな回答が来るでしょうか。

 「集団行動が苦手なんで、チームスポーツとかをやらせたほうがいいんじゃないかと思っていて」

 この回答どう思いますか?僕は愛情に溢れたお父さんだな、と思います。

 人間は生きていく上では、なんらか対人コミュニケーションをしていくことは欠かせませんから、愛する息子にどうやってコミュニケーションを身につけてもらおうかと考える良いお父さんだな、と思うのです。

 ですから、あたりまえですがお父さんは「嫌なことをさせたい」ではなくて「将来役に立ちそうなことを身につけてもらいたい」なわけです。

 それなのに、自分の考えを正確に理解できてないと

 「嫌なことでも、やっぱりさせなきゃいけないよな」って気持ちで、

「嫌かも知れないけど、サッカーでもやってみない?チームで取り組むって言うのは、人生で大切なことなんだから」

  とか言うわけ。もったいない。

 これは「なんでお前は人とうまくやれないんだ。サッカーでもやって人とうまくやることを学べ。わかったか」とかに比べたら、そんなに悪い言い方ではないと思います。

 でも、お子さんがこの言い方で「やる気が出て」「楽しくやれて」「自信がつくか」と言ったら、疑問なんですよね。もっとうまい伝え方もあると思うのです。とはいえ、その前にもう一つ

無いものではなくて、欲しいもの

 僕の次の質問はこれでした。

 僕「集団行動が苦手のように見えるから。。。。どんな体験をしてもらいたいと思っているんですか。息子さんに」

 お父さん「。。。。協力して一緒にゴールを目指すとか、一緒に話し合って決めるとか、自分の役割に責任を持つとか。。。そう言った体験をして欲しい」

 良かった。ようやく欲しいものが明らかになりました。人間って欲しいものをきかれても「ないもの」や「いらないもの」を答えてしまうことも多いのです。

 たとえばお買い物で考えてみましょう。

僕「何が欲しいの?」
相手「味をつけるものが無いんだよね」

ないもの

僕「何が欲しいの?」
相手「甘いものはいらないんだよね」

いらないもの

 これでは何を買ったらいいか分かりません。僕が分からないだけでなく、本人も分かっていないのです。だから「何が欲しい?」と再び質問したり、「どうなることを望んでいるの?」「だとしたら何があったら良さそう?」などと2段階で質問したり工夫するわけです。

 ちなみにこのお父さんのケースは「ないもの」を答えるパターンでした。

「どんな体験をしてほしいの?」→「集団行動が苦手だから、サッカーをさせたい」

 実はサッカーは「体験してもらいたいもの」ではないのです。集団行動が苦手(≒ない)に見える息子さんが身につけると良さそうな◯◯があって、その◯◯を身につける体験をして欲しい。その一例としてサッカーがある。

 そんな構造なんです。だから僕は◯◯を明らかにしたかったのです。

 話を戻します。

 お父さん「。。。。協力して一緒にゴールを目指すとか、一緒に話し合って決めるとか、自分の役割に責任を持つとか。。。そう言った体験をして欲しい」

 この回答で欲しいものが分かっただけでなく、手段はサッカーでなくてもいいし、スポーツでなくても良いことになりました。

 僕はサッカーやスポーツがダメと思っているわけではありません。けれど息子さんからしたら、選択肢がサッカー(もしくはスポーツ系)しかないのと、他にもある場合では取り組みやすさは違うと思います。

 目的(協力して一緒にゴールを目指すとか、一緒に話し合って決めるとか、自分の役割に責任を持つとか)は大切なことだと思うので、ぜひ取り組みやすい手段を探して欲しいわけです。

 手段の選択によっては目的が適わないこともあるわけです(サッカーが苦手すぎて協力を学ぶどころではない、など)。だから手段の選択肢を広げて、その中から合っているものを選びたいのです。

 こんな風に展開していけば

僕「なるほど!そう言ったものを身につけてもらうために、たとえばサッカーと言っていたのですね。それらを身につけるためには、他にはどのような方法がありそうですか?」

 みたいな関わりをすることもできるわけです。でも、その前にまだきいてみたいことがあります。それは

他に欲しいものは何?

 僕の次の質問は

 「人と協力することを身につけて欲しいとのことですけど、いつくらいまでに身につけてもらいたいのでしょうか」

 というものでした。

 お父さんの答えは

 「。。。。早く身につけてくれるに越したことはないけど。。。。べつに学校で特に困っているわけでもないし。。。友達とは仲良くやっているようだし。。。。大学とか社会人になるくらいに、身についていればいいのかな」

 というものでした。

 もちろん、早いうちからいろいろな人と話し合い協力しあうことができるに越したことはないと思います。

 ただし、個々のお子さんの状況もありますから、誰にとってもそれが現在の最優先課題ではないのです。

 簡単なやり方はスケーリングをすることです。

スケーリング

僕「息子さんの理想の状態を10点だとして、現在は何点ですか?」
お父さん「4点です」
僕「なるほど!まず10点がどんな状態か具体的に教えてください」
お父さん「(答え)」
僕「他には?」
お父さん「あ、◯◯もそうです」
僕「それが10点だとして、現在はさきほど言っていた4点でいいですか」
お父さん「。。。。。はい」
僕「では、5点はどんな状態ですか?」
お父さん「(答え)」

スケーリングを使った関わり

 このように質問してみた場合を考えましょう。「人と協力することが身についている」が5点の状態であるなら、いままさにその課題について考える必要があるでしょう。

 ところが、それは8点の状態であって、5点や6点や7点に行くには別の課題があるのであれば、まずは5点になるために必要な課題に取り組むことが必要なのです。

 スケーリングによる可視化はとても便利です。上の図のようにスケールを書いて、横に

10点 ◯◯の状態
9点 ◯◯の状態
8点 ◯◯の状態
7点 ◯◯の状態
6点 ◯◯の状態
5点 ◯◯の状態
4点 現状

のように、点数ごとにどんな状態なのか書いてみれば良いのです。このように可視化されていれば、安心してステップバイステップで進んでいけると思います。

それは誰の課題ですか?

 とは言え僕にはもう一つの問いがあります。それが

「それは誰の課題ですか?」

 というものです。これはアドラー心理学の課題の分離に関係する質問で、それを知らない人がいきなり問われると意味が分からないかも知れません。

 アドラー心理学的な観点からすれば、「人と協力することを身につける」は本来息子さんの課題なわけです。

 だから、いつどのように身につけるか、つけないかは息子さんが決めるべきものなのです。息子さんの人生ですから息子さんが決めるべきなのです。

 とは言え「人と協力すること」は、生きていく上では大切なことなので、身につけられるように、支援したい項目ですし、

 子どもがそれを身につけるためには周りの協力も必要でしょうから、大人は子どもが自分の課題にとりくめるよう勇気づけする必要があります。

 だからこそ目標は本人主体で作りたいのです。子ども自身が望む「こうなりたい」「ここを目指したい」を設定して、大人は必要な範囲でそれを支援するのが良いと思うのです

 だから、それが必要なら息子さんに「人と協力することの大切さ」を理解してもらって、目標に入れてもらったらいいのです。

 とは言え多分、息子さんは「人も協力することの大切さ」など知っているのです。でも勇気がくじかれていたり、どうやって身につけたらいいか分からないのかもしれません。だから「僕にも出来る」と思ってもらうのが先です。「出来る」と思うから、もっとやってみようと思うのです。

 だからまずは、家庭の中で息子さんに協力してもらったり、役割を果たしてもらうよう働きかけ、そこで成功体験を積んでもらうのが良いのだと思うのです。

 または学校などでも、何らかの形で人と協力するシーンはあるはずですから、そこに着目して、息子さんがすでに、出来てることをフィードバックするなどして、効力感が上がるように支援するのです。

 すでに出来ていること、やろうと思えば出来ること。、それらに着目してやってもらう。そうやって自信をつけて貰えば良いのです。それをせずにいきなりハードな課題に向き合ってもらっても上手く行きにくいのです。

 最後にまとめです。嫌なことをさせる必要はありません。必要なことなら、必要性を理解してもらい、然るべきタイミングで取り組んでもらいましょう。ただし主体的に取り組めることが大切でしょうからお子さんが「自分にもできる」と感じられるような手助けができると良いですね。

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