僕はどうしてコーチになり、先生になったか(前編)

チーム崩壊

 僕が初めてコーチという存在と対面したのは2005年7月でした。

当時NTTグループでサラリーマンをやっていた僕は、自分のチームを崩壊させてしまい、それを何とかするための打ち手を探していたのです。

 前職でやらかしていた僕は、今度こそはちゃんと評価されるような仕事をせねばと焦っていました。でも自分が不器用なこともわかっている。だから上司の期待を超えるためには、毎日残業を重ね、休日も出勤し、とにかく量だけでも他人に負けないようにせねばと努力していました。

 そんな姿勢が認められて、初めて任せてもらったチームを崩壊させたわけです。理由はチームメンバーにどのように関わったらよいか分からずに、高圧的にマイクロマネジメントをしようとしていたからです。

「僕の言うとおりにやれば結果がでるので、その通りにやってください」などと平然と言っていました。まだ20代の若造がです。。。恥ずかしい。人の感情が想像ができない人間だったのです。しかも自分がハードワークをしてきたので、チームメンバーにも同じようなハードワークを強いようとしていました。

 あっという間に僕は陰で「看守」と呼ばれ、悪口を言われるようになりました。僕のチームは監獄です。僕が声をかけてもメンバーは最低限の反応しかしませんでした。当然チームの成績は下がっていきます。

 さすがに「このままではまずい」と気づいた僕は、態度を変えて関係を変えようとしましたが後の祭りでした。

コーチング本との出会い

 会社からの帰り道、何気なくよった書店で、手に取ったのがコーチングの本でした。そこには「指示型マネジメントの時代は終わった。これからは質問型マネジメントの時代だ」と書いてありました。

 びっくりしました。僕自身指示型マネジメントしか受けてこなかったし、上司から質問された経験などほとんどなかったからです(詰問はありましたが。。。)

 そしてその本を貪るように読みました。質問によってメンバーが考え始める。そして自らがたどりついた答えだからこそ、主体的に行動する。そのようにしてメンバーを変えていくんだ。これはいいやり方を知った。と思いました。

 今から思えばコーチングのことなど何もわかっていませんでした。質問して相手に答えさせたら「言質をとることができる」くらいに思って、メンバーに質問しようと思っていたのです。

 何冊か本を買って帰り、いくつもの質問を覚えました。そして翌日会社に行くと、メンバー(20代女性)を会議スペースに呼び出して、早速コーチングをしたのです。僕は作り笑顔でした。笑顔でしたほうが良いと本に書いてあったからです。

僕「何でもやりたいことがやれるとしたら、ここでどんなことがやってみたいですか?」
メンバー「。。。。。。。」
僕「何かありませんか」
メンバー「ありません」
僕「。。。。。。じゃあ、どうしてうちの会社で働こうと思ったのですか」
メンバー「。。。。。。」

記念すべき初回セッション

 僕はだんだんイライラしてきました。せっかくこっちが歩み寄って質問してるのに、何にも答えようとしない。そして嫌そうな表情を続けていた相手の女性は、あまりにもその時間が苦痛だったようで、途中から泣き出してしまいました。

 泣きたいのはこっちだよ、と僕は思いました。そして

 「そんなことだから、あなたはダメなんだよ」

 と言ってしまったのです。それが記念すべき僕の初コーチングでした。落ち込みました。質問ひとつ上手くできない自分。答えてもらえない自分。がっかりしました。

 でも不思議とコーチングは悪くないような気がしました。自分のやり方がうまくないだけで、質問をするというコンセプトは間違っていない気がする。だから、だれかきちんとコーチングができる先生に会おう。そしてちゃんと教えてもらおう。そう思ったのです。

 どのスクールに行くか、いくつかのサイトを見比べてみました。そして驚きました。コーチングって言っているけど、スクールによって、教えている内容や、教え方が相当違うのです。それなのに、同じような資格が出ている。。。。これはなぜなんだ?意味がわかりませんでした。

 そして、自分に問いかけました。僕はどんなコーチングを学びたいのだろう。。。

 「今はやる気がないメンバーや関係性が悪いメンバーからでも、しっかりと話が聞けて、そして協力してもらるようになる。そんなコーチングが学びたい」

 それが僕の答えでした。そんなコーチングあるのかな。と思いながら探していく中で出会ったのが、平本あきおさんの『コーチングマジック』でした。(この本は発売から20年ほど経った現在でも色褪せることなく、ビジネスコーチングや1on1の名著だと思います)

 これほど網羅的、かつロジカルに書かれたコーチングの本は他にありませんでした。でも、そこに書かれていることを覚えても、きっとうまくいかないのも最初の失敗経験からわかっていました。だからこれを書いた先生に会ってみよう。直接教えてもらおう。と思ったのです。それが2005年の7月でした。

今日は教えない

 そして一番早いクラスに申し込んだのです。この週末で自分の人生を変えるんだ。そんなふうに意気込んでいました。

 しかしクラスが始まって開口一番、先生はこう言ったのです。

 「今日はコーチングは教えません」

 うわー。騙された。あんなにリサーチしたのに。。。だまされた。。。そう思いました。でも先生はこう言ったのです。

 「あなたはコーチングを勘違いしています。コーチングは質問して相手の答えを聞く。相手の思考の整理をする。そんなものではないのです。相手が自分でもびっくりするような『本当はこれがしたかったんだ!』ということを発見し、そして『こうやったら実現することができる』という手段まで相手の中から生み出すことができる。そういうものなんです」

 「だからまずは、コーチングを受けてください。そして自分の内側から素晴らしいものが生み出されることを体験してください。そしてその力をつかって現実を変えてください。そうしたらあなたは、人間ってすごい!と思えるようになります。他人のことも『この人にもすごい可能性がある』と思えるようになります。心からそう思えている人がコーチなんです。コーチングを学ぶのではなく、コーチになってください。そのためにこの2日間私がみなさんをコーチングします」

 ちょっと騙されているような気もしましたが、確かな話のようにも聞こえました。僕は自分のチームメンバーの可能性など信じていなかったし、そもそも自分の内側にそれほどの可能性があるとも思っていませんでした。そんな人間が、しかも関係もよくない相手に、ただ質問をしただけでは何も変化など起きないように思えました。

 だから、まずはコーチングを受けてみようと思ったわけです。

笑顔のチームが作りたい

 「本当に望むゴールが描けないのは、自己理解が不足しているからだ。」と先生は言いました。だから過去の体験の中から、自分の心が動いた出来事を思い出して、そのエピソードの中に潜んでいる自分の人生の本質(エッセンス)に気づくんだ、と。

 そしてコーチングワークが始まりました。僕は過去の良い思い出などほとんど思い出せませんでした。でもなぜだか唐突に高校時代の出来事を思い出したのです。

 高校の文化祭で僕のクラスは劇をやることになりました。脚本を書いたり、役者をやったり、大道具係、音楽係と皆が盛り上がっていました。斜に構えた高校生だった僕は、何の役割も引き受けずに、毎日授業が終わるとすぐに帰宅していました。

 そして本番の1週間前です。体育館の舞台で最後の通し稽古があるときいて、なぜか僕はそれを見にいったのです。惨憺たる結果でした。セリフは飛ぶ、大道具は出てこない。音楽のタイミングもズレる。みんな意気消沈していました。その姿を見て、なぜか僕は大きな声でいったのです。

「大丈夫だよ!なんとかなる。あとちょっとだから」

 皆は何も言いませんでした。そこで僕は言いました。「よかったら僕に監督をやらせてよ。絶対にうまくいくから」

 なんでそのときの自分がそう言ったのか分かりません。でもそれからの1週間は僕の人生の中でもとても幸せな時間でした。それぞれの担当と話し合い、どのタイミングで何をしたらいいか、それをどう管理したら良いかを考えました。舞台をよくするためのアイデアもたくさん出てきて、当初の想定よりも良いものになりそうなことに、皆のテンションが上がっていました。そして当日、本当に素晴らしい舞台を見てもらうことができたのです。

 そんな記憶を思い出して、それに浸っていた僕に、コーチが問いかけます

「この出来事の中に、だいじゅの人生で大切なものがあるとしたら、それは何?」

 しばらくの沈黙の後、僕の中から言葉が生まれました。

「笑顔でクリエィティブなチーム」

 そして、その言葉が出た瞬間に、不思議なことが起こりました。僕は「笑顔でクリエィティブ」ということを人生の中でずっと大切にしてきたことが思い出されたのです。

 5歳のとき、保育園の運動会での出来事。。。小学校3年生のときのクラスでの出来事。小学校5年生のときの夏休みの出来事。中学校2年生のときのクラブ活動での出来事。大学1年の授業で、大学2年のサークルで。。。。。

 ずっと笑顔でクリエィティブがテーマだったんだ。人間関係が下手くそだったから、必ずしもうまく行かなかったことも多いけど、でも人と一緒に笑顔で何か新しいものを生み出す。それがずっとしたかったし、しようとしてきたんだ。そのことに気づいて、なぜか涙が止まりませんでした。

 しばらく経って、コーチが再び声をかけてくれました。「ねぇ、だいじゅ。本当はどこでそれをやりたいの」

 答えははっきりしていました。僕はこれを会社でやりたい。。。そのためにもコーチングを真剣に学ぼう。。。。そう思ったのです。

何十年来の仲間

 まだ会社ではうまく行っていませんでしたが、希望がありました。だから週末のクラスがとても楽しかった。だんだんクラスメイトとも打ち解けてきました。

 というのも、僕が参加したスクールでは、仕事の話だけでなく、人生全体を通じた夢も語り合うし、深い悩み事なども話したり聞いてもらったりするのです。そしてお互いの存在を本当に大切にしあい、応援し合うので、あっという間に何十年来の仲間みたいな関係になっていったのです

 大人になってから、こんなに短期間で、こんなにたくさんのすばらしい仲間ができると思いませんでした。僕は自分のことをさらけ出すことが苦手だったのです。そんな僕にも何でも話せる仲間ができた。そのことだけでもスクールに参加してよかったと思いました。

 スクールには憧れの男性がいました。彼はとても優秀なコンサルで著名な先生と一緒に本を出しているような人でした。そしてその彼が満を持して独立するというタイミングで僕は彼にコーチングすることになったのです。

 話を聞いてみると、さすがに起業プランは完璧で、僕が質問をして、何かを深める余地など全くないように見えました。僕はただ「いいですね!すばらしいですね!」と調子を合わせるだけでした。

 でもそのときにふと思ったのです。「これでいいのかな。本当に彼はこれがやりたいのかな。なぜだか熱を感じないな」と。でも怖くて口にできませんでした。しかし時間がたっていく中で「このままでは嘘になる。彼との間にある信頼関係も失われてしまう」と思いました。だから怖かったけど、彼に一旦話をとめてもらっていったのです。

 「それ本気でやりたいですか?僕にはそうは聞こえません」

 それまで笑顔で話していた彼が、真顔になりました。沈黙が流れました。実際よりもとても長い沈黙に思えました。そして彼は絶叫したんです

 「おれだって。。。おれだって。。。そんなの分かってるんだよ!!!!!」

 そしてワーっと気になっていたことを話し始めた彼に

「本当は何がやりたいのか、何を大事にしたいのかきかせてください。僕はそれを応援したいです!!」

 と言っている自分がいました。僕はその瞬間にコーチになったのだと思います。

 心から相手を尊敬、信頼し、だからこそ、正面から質問する。自分が憧れの彼と作れた関係性に僕は震えました。

 そしてそのときふと思ったのです。

「どうして会社ではこんな関係が作れないんだろう。。。毎日毎日、何年も一緒に過ごし、同じことに取り組んでいる仲間なはずなのに。。。。」

 そして気づいたのです。いよいよやる時が来たんだな。僕自身それをやりたいんだな、と。だから翌日の月曜日の朝の朝礼でチームメンバーに言いました。

 「これまで本当にごめんなさい」

 僕は深々と頭を下げました。長い沈黙がありました。そして

「僕がこれまで皆さんに言ってきたことがどれだけ無茶苦茶だったか、自分でもようやく分かりました。本当にごめんなさい。これからは皆さんの考えも聞かせてもらいながら、一緒に笑顔で仕事ができるようなチームにしていきたい。だからみんなの話がきかせたもらいたい、自分のやり方を変えていきたいと思っています。」

 僕の宣言をメンバーは訝しげな目で見ていました。自分のそれまでの関わりからしたら、それもやむを得ないことだなと思ったので、まずはやれることから始めようと決めました。

 翌朝から、朝一番で出社し、部屋の掃除をしたり、出社する人に大きな声で「おはようございます」と声をかけるようにしました。そして少しずつ雑談に混ざっていきました。相手が子どもの話をしていたら、あとでメモにとっておいて、しばらくしてから「お子さんあの後どうなりました?」などと話を振ってみたりしました。

 人間関係自体が苦手だった僕はそこから始めようとしたわけです。しかしそれでもだんだんと距離感が縮まってくる人が出てきました。その人たちと仕事の話をし、意見を聴き、どうしたらそれが実現できるか一緒に考えるようになりました。

 気がついたら、いっしょに笑っている瞬間がそこにありました。そして僕がコーチングをやっていることを知って、コーチングを受けてくれるメンバーも出てきました。

 5年後10年後の夢を引き出して、そこに向かうために今の部署で何ができるのかを一緒に考えました。目の色を変えて仕事をするメンバーが出てきました。チームに活気がでてきました。ほとんどのメンバーの夢を聞き出すことができ、皆が未来につながるようにいまの仕事をしていくのをサポートするのが僕の仕事になりました。望んでいたチームができてきたのです。

 いつしか僕のチームは「仕事の学校」と呼ばれるようになっていました。「このチームにいると、やりたいことに気がつき、それができるようになるから」だと。それを聴いた時、嬉しくて泣きました。

後編に続きます

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