コーチのための万能ツール『SPACEモデル』をフル活用(後編)

 SPACEモデルは初中級のコーチたちにとってコーチングを簡単にするツールでもあり、クライアント自身が活用できるように使い方を教えることによって、クライアントもセルフマネジメントがうまくできるようになるものです。

 前編ではSPACEモデルの説明と、コーチングの最中に起こっていることをSPACEモデルを用いて解説しました。

 後編は、SPACEモデルのコーチングでの活用法を3パターンお伝えしたいと思います。では始めましょう

②リソースフルになるために使う

 あなたはクライアントにリソースフルになってもらうことにどれくらい意識を向けているでしょうか。

 リソースフル=効力感がもて、パフォーマンスを発揮できる状態。内外のリソース(資源)を活用できる心理状態

 せっかくコーチングでゴールを明確にしたり、アクションプランを決めたとしても、心の状態が悪いと実行できなかったり、実行したとしても結果が出にくかったりするのです。ですからリソースフルであるかどうかはとても大切なのです。

 そのためコーチは、クライアントの心の状態を意識して、必要に応じて、心の状態を変化させるための関わりができる必要があります。

 簡単な方法は、

 「自分の最高にいい心身の状態が10点だとして、今何点くらい?」
 「何点以上なら、コーチング後に積極的に行動できそう?」

 のような質問を使ってみることです。

 コーチング後に積極的に行動できる心の状態に足りない場合は、SPACEモデルの出番です。

 例えば、求めている点数が7点だとしましょう。その場合

S人間関係「誰とコミュニケーションをとると7点以上でいられそう?」
P身体「何をしたら(やめたら)、身体の状態が変わり7点を超えそう?」
A行動「普段、何をしたら(やめたら)、7点以上の状態でいられそう?」
C認知「どんな風に考えられると7点を超えられる?どうしたらそうなる?」 
E感情「7点以上の時ってどんな気持ちだろう?どうしたらそうなれそう?」

 みたいにSPACEの5つの切り口を使って問いかけてみてください。そしてやりやすいところから始めて貰えばいいのです。SPACEの5項目は相互に影響し合っていますから、1つが変化すれば他も変化します。

 そしてクライアントには

 「まずは心の状態が7点以上でいられるように、今決めたことをやってみて。そしてよかったら、毎朝心の状態の点数をチェックしてみない?そして7点を切っているときは、まずは7点以上になるようにSPACEの何かを変えてみよう。どう?」

 などと促してみるのもいいかもしれませんね。これだけでうまくいかない場合は、次の③も参考にしてください

③モデリングに使う

 つぎはモデリングへの活用法です。

 モデリング=誰か(何か)を対象に、それをモデル(見本)として考え方や行動の仕方を学ぶこと

 コーチングでもよく使われますね。

「憧れのあの人だったら、どんな風に取り組むんだろう?」

 みたいに、誰かのやり方を参考にしていくわけです。

 まずはセルフモデリングから考えてみましょう。セルフモデリングというのは、自分からモデリングすることです。過去のうまくやれていたときの自分からもモデリングすることができるのです。

 新しいやり方を手にいれるためには、他人からモデリングするのもいいですね。でも自分がやっていたことからのモデリングにもメリットがあるのです。例えば自分が過去やっていたことなので、抵抗なくやれるし、うまくやれる可能性があるという点です。

 ということで積極的にセルフモデリングもしてもらいたいのですが、簡単です。クライアントとゴールを描いた後に、

「このゴールをうまく達成できる自分がいるとしたら、それは何をしていたときの自分?」

 などと質問して、過去のハイパフォーマンスを発揮していた自分の中から、今回のゴール達成にぴったりの自分を探すのです。

 何歳のときに、どこで、なにをしていた自分か

 が特定できたら、

S人間関係「この自分は誰と一緒にいた?誰と繋がってた?」
P身体「この自分の身体の状態は?中でも重要なのは何だろう」
A行動「この自分は普段どんなことを言ったり、やったりしていた?」
C認知「この自分は、自分や周りのことをどう見ていた?」 
E感情「この自分は、どんな感情を感じていた?」

 とSPACEの5つの切り口を使ってモデリングしていくのです。自分のことだから思い出しやすいですね。

 そして、それらの回答の結果の中から、今回のプロジェクトでは何を採用するかを決め、あとはそれを使って進めていくシミュレーションをしたらいいわけです。

「どの部分を採用したい?」
「具体的には、何をするとそうなりそう?」
「それをしたらどうなりそう?」
「気をつけた方がいいことがあるとしたら何?」

 などの質問を使って関わるといいですね。

 もちろんSPACEを使わず単純に「このときのあなたなら、今回はどんな風に取り組みそうですか?」「なに大切に取り組みそうですか?」「何に注意して取り組みそうですか?」などでも良いのです。

 けれどもSPACEというフレームワーク(枠組み)を使って分析してみることで、より様々な観点からモデリングのためのアイディアが拾えることがわかると思います

◆他者のモデリングの場合

 他者からモデリングする場合も基本的な考えは同じなのですが、気をつけないといけないのは、自分ではないので、相手の内面で起こっていることについてはよくわからないということです。

 このときにもSPACEモデルがあると、モデリングの精度を上げることができます。どの順番でモデリングするかが大切なのです

 S→A→P/E→C

SPSCEを使ったモデリングの順番

手順を説明します。まずはゴールが決まっていることが前提です。その上で

「あなたが知っている人の中で、このゴールをうまく達成できそうな人は誰ですか?」「他には?」「その中から、参考にしてみたいと思うのは誰ですか?」

 のように質問して、モデリング対象を確定します。つぎに

「その人がよいパフォーマンスを発揮していたときのことを1つ思い出してください」

 などの質問で、参考にしたいシチュエーション(エピソード)を1つ選んでもらいます。これは大切です。エピソード(具体的な出来事)を選ぶから、具体的に何をしたらいいかを、そこから学ぶのです。

 あとは S→A→P/E→C の出番です。

 S人間関係「そのとき、この人は誰と繋がっていた?」「誰との関係を大切にしていた?」「誰のことを意識していた?」

 A行動「この人は、何を言ったりやったりしていた?」「どんな風に振る舞っていた?」

 P身体「それをしている身体はどんな状態?」「どこが特徴的だろう?」

 E感情「その行動をしているとき、どんな気持ちを感じている?」「それがあなたにどう影響している?」「周囲にはどう影響している?」

 C認知「そのとき、あなたは何を考えてる?」「自分のことをどう思っている?」「周りのことをどう思っている?」「脳内にどんなイメージが浮かんでる」「何が大切だと思ってる?」

 例えばこんな感じです。他人のことでも観察すれば周囲の環境や、行動はわかりますから、まずはそこにアクセスするのです。そして次に身体の状態。ここまで押さえてたら、感情も想像しやすいです。そして最後に認知ですね。

 このように段階を踏んでモデリングすれば、他人のことであっても、それなりの精度でモデリングできるのです。

 モデリングは外面→内面と覚えておいてください
 
 さらに言えば、クライアントにその人になりきってもらうとより精度が上がります。相手になりきって、相手と同じような姿勢をとり、そのとき相手が言っていたこと、やっていたことを再現してもらうのです。

 そうしながら内面をモデリングしていくとうまくいきます。クライアントが集中できるように助けてあげてください。 

 ちなみに、これがうまくサポートできるコーチはポジションチェンジをつかったセッションもうまくやることができます。他人になりきって、その人を理解するという点では同じことをやっているからです。

④現場検証に使う

 つぎのアイディアはSPACEを現場検証に使うというものです。コーチングのなかで、クライアントの置かれている現状を詳しく知りたいときがあると思います。そんなときにSPACEで分析したらいいわけです。

 本格的な応用の仕方は例えば以下の記事で解説されているアドレリアンカウンセリングなどを参考にしてください。このやり方ではSPACEとは言っていませんが、かなり近いモデルを使っているのがわかると思います

 アドレリアンカウンセリングは、本当に使い勝手のよいやり方なので、興味を持ったら、まずは自分自身で取り組んでみても良いと思います。

 さて、そこまでしっかりやらなくてもSPACEを使えば簡易的に現場検証ができるのです。

 まずは現場検証してみたい現場の特定が必要です。なので

 「うまく動けないって思うのはどんなとき?」「どんな状態が改善されたらいいんだろう。具体的に改善したいシチュエーションを教えて」

 などの質問で、検証したい現場(具体的な出来事)を特定します。

 そうしたらあとはSPACEモデルです

S人間関係「そこには誰がいる?」「誰のことを意識している?」
P身体「そのときの身体の状態は?」「何が特徴的?」
A行動「何を言ったりやったりしている?」「何が起こっている?」
C認知「何を考えてる?」「自分や周りをどう見てる?」
   「脳内にどんなイメージがある?」 
E感情「どんな気持ちでいる?」「それが何にどう影響している?」

 のような質問をすればいいわけです。そして

「何が変わると、自分の状態が変化しそう?」
「あなたの何が変わると、周りへのいい影響が起こりそう?」

 のような質問をしてみることで、現場検証+改善案を出すということにつながるのです。もちろん

「では、まずは何をしてみると良さそう?」
「それをするとどうなりそう?」
「いつやってみる?」

 などに続ければいいのです。

 長くなったので、

⑤カウンセリングツールとして使う

 については、次回「カウンセリング編」で紹介します

僕たちといっしょに、クライアントの人生が確実に変わっていくコーチングを身に付けたい方はぜひこちらにどうぞ


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