あなたは何を「前提」にコーチングしているか⑤

 このシリーズはNLPの前提と言われるものの解説記事です。卓越したコーチカウンセラーが持っている世界観・人間観を身につけてください

 では今回もスタートしましょう

前提⑫その人の行動がその人自身ではない

 行動と人格を分離しましょう。というやつですね。

 人の悪口を言うのは良くないことだ
 人の悪口を言うなんて最低な人間だ

 どちらも悪口を言うことを否定しているわけですが、後者は人格否定になってしまっています。行動の是非を議論する際に人格と分けて考えたいものです。

 そもそも行動と性格(人格)はダイレクトに結びつけられるものではありません。クライアントがあまり話してくれないときに「この人暗い人なのかな?」と思ったことがあるかもしれません。けれど別の話題について話したり、別の場所やタイミングで話した場合には、その人は饒舌だったりするのです。

 もっとわかりやすいパターンだと、コーチを別の人に切り替えると饒舌に話をし始めたりする場合もありますね。ということは「相手は話さない人」ではないのです。「私の聴き方に対しては話してくれない人」という認識の方が正しいのかもしれないのです。

 アドラー心理学で言うと「対人関係論」という考え方と関連しますが、人は誰と一緒にいるかで認知行動パターンを変えるものなのです。別の言い方だと「人はコンテクスト(文脈、背景、経緯、シチュエーション)によって行動を変える生き物」なのです。だから行動を人格と結びつけて評価するのはもったいないし、偏った理解になってしまいます。

 特に人格に結びつけて批判をしてしまうと、相手はますます反発したり、もしくは離れて行ったりするものです。相手にとっても、あなたにとっても良いことはないと思います。

リッツカールトンのモットーを思い出しましょう

紳士淑女をおもてなしする私たちもまた紳士淑女です

ザ・リッツ・カールトンのモットー

 お客様は紳士淑女(人格)なのです。相手をそう見ると決めてしまうのです。仮にどんな行動を取ったとしても、人格とは分離して見るのです。そしてそれは、自分に関してもそうです。もし望まない行動をとったなら、その行動を修正すればいいのです。それだけのことです。自分の人格を否定する必要はありません。クライアントは紳士淑女であり、私たちコーチもまた紳士淑女なのです。

 ちなみにアドラー心理学では、誤った行動をとった際には
 
 ・原状回復
 ・再発防止
 ・謝罪

 の3点を行うと良いという風に考えています。行動の結果に責任をもって、それができたら次に進んでいこうという考え方ですね。

 NLPですとR・ディルツ先生のニューロロジカルレベルと関連付けて理解するのも良いですね。

ニューロロジカルレベル

 下から「相手のいる環境」「相手の行動」「相手が持つ能力」「相手の価値観や信念」「相手そのもの/相手のアイデンティティ」をそれぞれ分けて扱おうという考え方ですね。

 そして簡単に説明すると、上の階層のものは、下の階層のものに影響を与えています。ですから、先ほどの例のように、好ましくない行動を本人のアイデンティティ(自己認識)に結びつけてしまうと、その後は、それより下の階層の要素は全てその影響を受けてしまうのです

 ニューロロジカルレベルについては、以下の本の説明がわかりやすくておすすめです(P102〜)


前提⑬全ての行動には肯定的な意図がある

 行動に関する前提が続きます。

 「全ての行動には肯定的な意図がある」もアドラー心理学の考え方そのものですね。アドラー心理学の言い方だと

非建設的に見える行動にも建設的な目的がある

アドラー

 ということになります。建設的な目的があるというフィルターで見てみようということですね。実例で見てみましょう

CL どうしても夫にイライラをぶつけてしまって
CO もしそのイライラに建設的な目的があるとしたらなんでしょうか?
CL 。。。わかってもらいたい
CO いいですね。他には?(網羅)
CL 自分のことを大切にしたい
CO なるほど、あとは?(網羅)
CL これ以上揉めたくない
CO いいですね。改めてききますが、イライラの目的はなんでしょう?(再質問)
CL 私の話を聞いてもらいたい
CO なるほど!言ってみてどうですか?(反芻)
CL はい。言ってみて、本当にそうだと思いました
CO いいですね。では、どうしたらご主人はあなたの話をきいてくれそうですか?(代替行動)
CL 私も夫の話をきく。。
CO なるほど。あとは?(網羅)
CL 夫に感謝を伝える
CO 他には?(網羅)
CL 。。。。話を聞いて欲しいと伝える
CO いいですね。あとは?
CL 。。。。。ちょっと思いつかないです
CO では、話をきいてもらうためには、何をするのが良さそうですか?(再質問)
CL。。。。日頃の感謝を伝えつつ、きいてもらいたい話があると伝えると良さそうです

目的論アプローチ

 少し長くなりましたが、コーチは一見非建設的な行動(イライラをぶつける)の肯定的な目的(話をきいてもらいたい)に気づき、目的を叶えるための代替行動(日頃の感謝を伝え、きいてもらいたい話があると伝える)へと繋げて行きました。※コーチは質をあげるために発散→収束パターンを使っていますね。「他には?」で広げて(発散)、再質問でまとめている(収束)わけです。

 原因論のアプローチだと

CL どうしても夫にイライラをぶつけてしまって
CO 何が原因だと思われますか
CL とにかく夫が自分勝手でどうしようもないんです

原因論アプローチ1

 とか

CL どうしても夫にイライラをぶつけてしまって
CO 何が原因だと思われますか
CL 私怒りやすい性格で、すぐにカッとしてしまうんです。父もそうだったので遺伝的なものかも知れません

原因論アプローチ2

 みたいになってしまう可能性がありますね。その結果、他責的になったり、自分責めをするようになると、かえって建設的な行動は取りづらいのです。だったら、目的論的にアプローチした上で、建設的な行動をとることを支援したほうが役に立つのではないでしょうか

 そして目的論アプローチをとるときには知っておいて欲しいことがあります。それが「高次の意図」という概念です。意図(目的)にも次元があるという考え方です

 実例を見てみましょう

CL どうしても夫にイライラをぶつけてしまって
CO もしそのイライラに建設的な目的があるとしたらなんでしょうか?
CL 。。。思い知らせてやりたい
CO どういうことですか?(具体化)
CL 私がどれだけ辛かったか夫にわからせたいのかも知れません
CO なるほど。ではその奥にある、より重要な目的はなんですか?
CL うーん。夫に大切にされたい。。。
CO どういうこと?(具体化)
CL 尊重されると言うか
CO なるほど!さらにその奥により大切な目的があるとしたら?
CL 。。。。。自分に自信を持っていきたい
CO いま声の感じが変わりましたが、何が起こっていますか?
CL 。。。自信をもって、堂々といきたい。。です

高次の意図

 最初に出てきた目的は「思い知らせてやりたい」でした。このままだと肯定的な意図とは言いづらいですね。そのような場合は、その奥にある、肯定的な意図を探していけば良いのです。

 このように関わっていけば、肯定的な意図が見つかることがほとんどです。そして見つかったら、代替行動を見つければよいのは同じことです

CO 自信をもって、堂々と生きるって例えばどんなイメージですか?(具体化)
CL 笑顔で。。。。
CO いいですね。笑顔で。。。(網羅)
CL 落ち着いて話していて
CO はい。。。。
CL 相手の話もしっかりきいていて
CO なるほど。あとは?(網羅)
CL 気持ちよく協力しあってるし、一人でもやりたいことをやっている
CO いま表情がパッと明るくなりましたけど、何が起こりましたか?
CL はい。相手がどう反応しようと、自分でやりたいことをやればいいんだな、って
CO なるほど。そんな風に思ったんですね
CL はい
CO では、そんな自分に近づくために、どんな行動をとったらいいのでしょうか(代替行動)
CL 少しでも自分のやりたいことをやってみると良いと思います
CO 例えば?(具体化)
CL 休みの日に自然のあるところに出かけるとか
CO いいですね。そうしたらどうなりそうですか?(予測)
CL 気持ちが落ち着くと言うか、よい状態になりそうです
CO いいですね。当初はご主人とのコミュニケーションについて話してらっしゃいましたが、そこにはどう影響しそうですか?
CL これまでのことはどうでもよくなると言うか
CO なんでしょう(具体化)
CL 夫も好きなことをして楽しく生きたらいいのにと思います
CO なるほど。ご主人とはどんなコミュニケーションを取れると、良さそうですか?
CL 最近忙しそうにしているので、ちょっと話をきいて、その上であなたももっと好きなことをやればいいじゃない、と言おうかな

代替行動を見つける

 例えばこのようなイメージです。とにかく本人が納得する高次の意図を見つけるのが大切で、それさえ見つかれば、あとは具体的なイメージを膨らませていけば、簡単に代替行動は見つかるものだと思います。

 私たちは基本的には肯定的な意図をもっています(いました)。なぜならより良い人生を生きたいし、そのためには、自分と他人を大切にすることが欠かせないからです。

 生きていくプロセスの中で、自分を否定的に扱うことを覚えたり、他人を否定的に扱うことを覚えたりしますが、元を辿れば、自分も他人も大切にいきたいという思いがあったはずなのです。

 ですから、その奥にある目的は?その奥にある本当の目的は?とたずねていけば、肯定的な意図(目的)にたどりつくことができるのです。

 そんな風に相手のことを見ながら関わっていきたいのです。そうやって関わるからこそ、発見される相手の姿がありますし、そこから生まれる行動があるからです。

 そして、それをまずは自分に適用することから始めましょう。あなたの行動がどんなものでも、その奥には肯定的な意図があるはずです。その意図を明確にして、その意図に適う新しい行動(代替行動)をとりはじましょう!!

 つづく

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