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そっちがキミのメインルート#1

「よかった!明日晴れるって!」
フー子はテレビの天気予報を横目に、クローゼットからトレッキングウェアを引っ張り出した。

「わたしも前は山ガールだったんだよ〜」
と鮮やかなウェアを体にあててご満悦のフー子にダイジョーブタは
「フーちゃん、それ着て本当に山に登ったことあるの?全部新品みたいに見えるよ…」
と細かくウェアをチェックし始めた。
「登ったことあるって!本当はいつでも登りたかったんだけど、時間がなかっただけ!」
山登りってね、運動にもなるし、空気も綺麗だし、自然にも触れられるし、頂上で食べるご飯はおいしいし…と
山の魅力を話すフー子のことを、ダイジョーブタは黙って見つめていた。
「でもさ、今のフーちゃんに登山をする体力があるとはあんまり思えないんだけど…」
「大丈夫だよ。ほら、山の地図だってちゃんと買ってあるんだから!
 地図を眺めながらルート考えたりするもの好きなんだし、平気だよ…」
「うーん、好きなのと実際に行動するのは違うけどね…」
  ダイジョーブタの冷静な言葉に、フー子もだんだんムキになってきてしまう。
「もう!ダイジョーブタは留守番で良いの?一緒に頂上からの景色、
 眺めたいよね?もしかして実は体力に自信ないんじゃないの〜?」
「そんなことないよ!フーちゃんが山に登るって言うから体力つけようと
 思って…最近は毎日100回腹筋してるんだから!」
そう言ってダイジョーブタは寝転んで腹筋をやって見せた。
その機敏な動きに、フー子は驚く。

「…もしかしてダイジョーブタ、結構楽しみにしてる?笑」
「そりゃ、楽しみだよ!それに、フーちゃんが疲れて動けなくなったら、
 背負わなきゃいけないかなって思ってさ」
「大丈夫だもん!登山靴だってお店でイチオシを買ったんだから!」
「そうなんだ・・・笑 楽しみだね」
そう言いながら、二人で山岳地図を広げて明日の予習をはじめた。
「ここが登山口ね、ルートは2つあるんだね」
フー子が地図の上を指でなぞりながら、ルートチェックをする。
「上級者ルートの方が距離が短いね。ならこっちの方がいいよね!」
「待って」
ダイジョーブタがルートを細かくチェックし始めた。
「どうしたの?迷わずに上級者ルートでしょう!」
「どうして?」ダイジョーブタは、フー子に問いかける。
「だって、初心者ルートの方は遠回りしなきゃいけないんだよ〜。
 せっかく行くなら、早くに登れる方がいいじゃない」
「でも上級者の方は険しそうだけど、大丈夫?」
「うーん…。体力にはあんまり自信ないけど…上級者ルートの方が無駄がないでしょ!?」
と頷きながらフー子はリュックにレインウェアやバナー、コッヘルをしまい始めた。
何か言いたそうなダイジョーブタだったけど、フー子が久しぶりに楽しそうに準備をしている姿を見て、それ以上は口にしなかった。

「明日、寝坊しないようにね!」
「その言葉、そのままフーちゃんに返すよ。朝弱いんだから」
「大丈夫!おやすみ」

そう言って、いつもよりも早くフー子はベッドに入った。

                             <つづく

イラスト:かわい ひろみ
物語作 :今西  祐子

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