ひとりはなんでもできる至福のとき #4
夜、客室に敷いたふかふかの布団の中で、フー子は携帯を手に取っていた。
「LINEやメールはしないって言ったけど、写真を見るのはいいよね?」
誰に許可を取ってんだろう・・・と呟きながら、写真フォルダを開いてみる。
たくさんの自撮り写真にも、ダイジョーブタが一緒に写っているのが多く
顔を寄せて撮っている写真を見るだけで、なんとなく心が癒されてきた。
中庭での写真には大家さんや、気のおけない友人たちが笑顔を向けている。
ダイジョーブタ、今頃どうしているかな・・・
フー子はセンチメンタルな気分を払拭するように、勢いよく起き上がった。
夜10時。
私服に着替えて旅館に併設されているバーに行くと
カウンター席にひとりの女性が座っていた。
フー子がどこに座るか迷っていると
「こんばんは。よかったら」とその女性が声をかけてくれた。
「ひとり旅ですか?」
「ええ。ちょっと自分がパンクしそうになると、ひとり旅するんです」
カクテルを片手に微笑む女性に「あの・・・寂しくないですか?」
思わずストレートな質問をしてしまったと、ハッとするフー子に
女性はにこりと微笑み、話を始めた。
「寂しいからこそ、感じることや思い出せることもあると思わない?」
フー子はさっきの素晴らしい夕日を思い出した。
「それに、そこで感じた楽しかった時間を、旅から戻ったら誰かに伝えようかなって思うの」
「・・・誰かに?」
「そう。あなたもそういう人、いるんじゃない?
恋人じゃなくても家族や友人でも」
フー子は真っ先にダイジョーブタの顔が浮かんできた。
「こんなに楽しかったことを、帰ったらどうやって伝えようかなって思うとね、ワクワクして来ない?」
「・・・そうですね」
「それに、誰にも気を使わないで好きなことができるなんて最高じゃない?」
ひとり旅の極意を聞いて、フー子はさっきまでの寂しい思いがふっと軽くなり、なんだか楽しくなってきた。
「それに旅先でひとりだと、こんな出会いもあるしね」
そう言われて、フー子は名前も知らない女性と乾杯し
寂しかった夜が、かけがえのない大事な時間に変わっていくのを感じた。
<つづく>
イラスト:かわい ひろみ
物語作 :今西 祐子
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