ひとりはなんでもできる至福のとき #5
翌朝、鳥のさえずりでパチッと目が覚めたフー子
「目覚ましをかけずに起きたのって、久しぶり・・・」
窓を開けると、目の前に美しい湖が見えた。
深呼吸をすると、昨日感じていた寂しさもすっかり消えている。
着替えてナチュラルメイクをすると、ウキウキと朝の散歩にでかけた。
携帯禁止ってことにしたから・・・と、
ホテルの受付で便箋と封筒をもらい、湖に向かった。
湖畔のベンチに座り、便箋に『ダイジョーブタへ』と書いてみる。
『これが届く頃には、私は家に帰っているけれど・・・
ひとり旅に出た気持ちを、旅先から届けたくて手紙を書いていますーー』
いつもは面と向かって言えないことを、朝のやわらかな日差しの下で書き綴りながら、フー子は穏やかにこの時間を満喫していた。
* * * * * * * * * *
フー子のことを心配していたダイジョーブタは、今か今かと部屋の窓に何時間も張り付いて、フー子の姿が見えるのを待っていた。
「帰ってきた!!!」
窓を全開にして、ダイジョーブタが「おかえり〜!」
とフー子に両手を振って迎え入れる。
「ただいま〜!」
フー子も手を振りかえしながら、満面の笑みを向けてくれるダイジョーブタを見て、思わず涙ぐんでしまう。
「たった2日なのに、ダイジョーブタの顔見たらなんだかホッとしちゃった」
「どんな旅してるのかなって、留守番中もフーちゃんのこと考えてたよ。
楽しかった?」
「うん、とっても!話したいことがいろいろあるんだ!」
* * * * * * * * * *
部屋に入り、テーブルの上にお土産を並べるフー子を、ダイジョーブタは嬉しそうに眺めている。
「いま美味しい紅茶を淹れるから、ゆっくり聞かせて!」
* * * * * * * * * *
「そんなに透き通った湖なんだ・・・」
「うん、写真の何倍もきれいだったよ。一人で過ごすのもとっても楽しかったけど、今度は一緒に行こうね!」
ダイジョーブタが焼いていたシフォンケーキを食べながら、フー子の話は止まらない。
「あとね・・・明日郵便ポストを見てね」
「何か届くの?」
「それは、明日のお楽しみ!」
食後のコーヒーを飲みながら、フー子は「よかった・・・とつぶやいた」
「なぁに?」
「有給、とってよかった、私やっぱり疲れてたみたい」
「うん、よかったね」
「それにひとりも・・・すごく良かった・・・
ひとりも二人も、気づける事が違って、どっちもいいね!」
元気を取り戻したフー子は、旅先のことをいつまでも語り続けるのだった。
<おわり>
イラスト:かわい ひろみ
物語作 :今西 祐子
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