紀伊大二朗

すべてフィクションです。

紀伊大二朗

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最近の記事

理由

 暗闇の中でベイべーが囁く「お前はここにいていいんだよ」 つまりここは…終点。あるいは若き詩人の言語化できない病を治す病棟。年配者にヘイコラつって奴隷になるなんて腐った考えだ。僕らは僕らのままでいいんだ。傷つく時は堕落していいんだよ。少しサボるぐらいがちょうどいい。缶コーヒー飲んで毛布にくるまり死なない理由探そう。嫌な過去はフリマで売ればいい。ほら、明日は雨だ。

    • べいびーべいびーあんたなんか

      てか、さ、致死量の毒でも飲んで死ねたらいいのに。病み垢作ったけど別に使う用ねぇし、やっぱうち死んだ方がええやんねって松っちゃんor浜ちゃんみたいな口調で言ってみるけど、やっぱ死ねないし、うちを振ったサッカー部の野郎はサッカーボールで遊ぶみたいにうちのことをコロコロと遊んでいたんだね。あの時のコンドームはピエロの鼻みたいに膨らんでいたね。寝たふりしてうちの教科書貸してよーっていう甘い甘い声さもう無視でまじオワターって感じかい。股がヒリヒリするね。コマネチしたい。それは古いか。わ

      • 青い眼のマリア

         嵐が先に来た。誰かの呼び声が固まり、唾を地面に吐き捨てると、壁をゴキブリが這う奇怪な音がした。この木屋で生活して3年になる。保安官の安西がいつも私の朝食と夕食をとどけてくれる。死人のように青い顔をした安西は毎夜3時に寝ているらしい。呼び声の主は誰か。安西の来る時間帯ではない。私にはわからない。女だろうか。男だろうか。それさえ検討がつかない。嵐が先に来たのは事実である。嵐は木屋を大きく揺らし、木屋ごと吹っ飛ぶのではないかと不安になった。すると嵐がまた来た。木屋の扉が吹き飛ばさ

        • 薄っぺらい誕生日

           彼女の誕生日は薄っぺらい。鳥が鳴き出したので、森にいる。電話越しに彼女と話している。付き合ってまだ一か月。彼女の誕生日は5月の3日。やはり薄っぺらい。不条理な世界を犬が走っていく。その後ろを彼女が駆けていく、サンダルを忘れ、宿題を忘れ、モラトリアムを忘れ、インチキ占い師の助言を忘れ、自分の誕生日を忘れ、それでも駆けていく、夏前の渚は波が心地いい、冒険、戒め、辱め、そんなすべてを忘れて駆けていく。犬の名前はワンコロ。ローアングルのカメラアイで撮影されたワンコロの小さい頃のビデ

          Andy,応答せよ

          「やあ、andy!そっちはどうだい?こっちは雨だよ!」 そんなメールを送った君はまた純血混血と繰り返す君のバタフライナイフ。鈴木清順のようなスタイルで君は美学を大人たちから切れ切れになるまで守る。そして君は君は痛さと歯痒さと才能を洪水のように溢れさせながらルート33通りを風切り走る。知らないな。知った方がいいよ。言葉は詩になるから。ジャックケルアックで遊ぼう。ビート。ヒント。朝起きて、andyがいないのに気づいた。ボブ・ディランのレコードがなくなっていたから。きっとand

          Andy,応答せよ

          狂った果実

           はじまりはいつもこうだ。みんないかれちまった!! その通り、その通り、リズムが肝心。例えば変態な物語を僕が語ろう。語る資格など僕にはありゃしない。けど、語ることだ。この痛みが少しでも和らいだら良い。それで、いい。  月を小さい頃食べたという女がいてそいつを部屋で犯したことから話し始めようか。デヴィッド・リンチが好きなその女は股が井戸のような臭いだった。白いロープで手足を縛る。犯す手順はまるで新聞の中にチラシを挟むアルバイトより簡単な流れ作業だった。簡単すぎてスーパーマリオの

          ぼくの叔父さん

           ずいぶんむかしの話になるが、ぼくには叔父がいた。フランス風のファッションでかろやかなステップを刻みながら、颯爽と部屋を自由に移動する。それが、ぼくの叔父だ。あるとき叔父はぼくの財布から三千円を平然と抜き取り、こう呟いた。 「源ボウ、数学教えちゃるけん、これその塾代なあ」  どうせ酒代にすべて使うんだろなあ。そして叔父は数学のスの字もわからないとんでもない馬鹿であるときている。これにはぼくもカンカンに怒って母親にチクった。母は自身の弟である叔父に厳しく「あんた源から三千円パク

          ぼくの叔父さん

          悪寒

           悪魔が街にやってくる。新聞配達の少年はそう呟いた。コタンは笑い、誰かは悲しむ。モーゼとアイロンが乾き、水を欲する。しばし、矛盾した思想を持つ老人どもが意味のない葬儀の列を作る。なあ、次はだれが死ぬ? 君はちょうど村から外れた家で特等席を待つ。死ぬならちょうど今がいい。誰かがそういった。筋肉質なラテン系の兄貴はチャンドラーを読んでいる。失語症の彼らはそうやって治療を続ける。さあ、悪魔が来るまでの前座に売れないパンクバンドの演奏はどうだろうか。君はどうだろう? 興味はあるかい?

          エッセイのようなハードボイルド小説のような馬鹿息子的テキスト

          つらつらと書いていくつもりだがなにも思いつかない、ちょうど一時間後にぴったり締め切りが来てしまう、コーヒーでハイになって、盗んだ猫がどこかへ行ったきり帰ってこないので、キャットフードは案外おいしいんじゃないのかなと一粒たべると糞まずかった、カップうどんでも食べようか、そんなときにチャイムが鳴った、誰だろう、カンカンにおこった編集者ササオかもしれない、ササオは僕の小説の世界観の理解者であるが、締め切り締め切りうるさいのでたまにタイキックを喰らわせたくなる。まだチャイムは鳴ってい

          エッセイのようなハードボイルド小説のような馬鹿息子的テキスト

          列車

           夜、列車を待つきみは震えていた。カンカン坊主が素通りで、先の方では海が続く、岬に面したこの通り、きみは見慣れていたこの風景をどうにか目に焼き付けようとした。ちょうどシャムキャッツの曲がイヤフォンから静かに流れていた。ディズニー映画のエンディングのような明るい未来を信じて桜の花びらをポッケに入れて軽く触れるとインチキな魔法を使える気がした。気がした、そう、気がした。きみは幼い。きみは何も知らない。きみはガキだ。  ちょうど、列車が来た。  きみはこの終電に乗って書きかけの小説

          日記

           僕がたとえば女子高校生とすれ違う。するとあの日が蘇る。耳の底では執行人が僕に自殺を促す。遺言は2通、処刑台のスイッチは3個あって、どれかを押すと、次には首を吊った僕のシーンが挿入される。あの日の話をしようと思うと、サイレンが鳴る。すると、レコードが現れる。レコードは無秩序を好む。ビートルズの叫び声。ロックンロールの衝動。君に再びあの日の話をしよう。あの日僕は毎日ようにクラスメイトの女子から執拗なイジメを受けていた。生々しくてあまりこんな場所で言えるような内容でない。酷い。特

          探しもの

           僕のワンルームの部屋はさまざまな本で溢れている。それでも、僕は本を病的に買ってしまう。ある日、蔵書の整理をしていたら、ある一冊の本が消えていた。それが恋人からもらった本なのか、自分で買った本なのか、まず自分に恋人などいたかどうかも怪しくなり、考えれば、考えるほど、頭が痛くなった。もうバイト先の古本屋に行かなければならない時間だった。その古本屋では店員割引というものがあり、アルバイトの僕は20パーセントオフで本を買うことができる。出勤するたびについつい本を買ってしまい、なんて

          階段

           朝、目が醒めて、あの女がもう行ったと彼は言う。彼の横には大きな赤いソファが置かれている。チャップリンに似た彼はやはりヒゲを綺麗に生やしている。黒電話はどうしたの? と私が言うと彼は「あの女が持っていきましたよ」と答えるので、私はむしゃくしゃしてドアを7回叩いた。  ドアの向こうから映写機の絡まる音がするので、あの女が映画を観ていた途中だったのだろうと、何かを察した。ドアを開けるつもりはなく、窓を私は開けることにした。すると大きな湖が見えた。風と枯葉が何千枚も水面に落ちている

          摩天楼

           昨日、突然彼女に振られた。風邪の日にキスをしてくれるひとだった。春のカーテンのようにやさしいひとだった。僕のような余所者と付き合ってくれた、ただそれだけで彼女が聖者だという証明になる。東京に来てからかれこれ3年になる。ちょうど18の頃、大学1年のときに彼女と出会った。図書館でドス・パソスの『USA』という小説を探しているときに出会った。僕から声をかけたと思う。彼女は僕より人見知りだし、なにより彼女はあまり喋るのが得意ではない。だが彼女には文才があり、小説家志望だ。すごいのは

          手紙

          絶望した時心の支えになったのはあの人の便りだった。 私は10年前のその頼りを毎日持ち歩いている。 麻薬のようにそれは私を酔わせてくれる。 過去の亡霊が蛇になった私をゆっくりとゆっくりと死へと誘う。 もう支払い済みの切符は行き先がわからない。 首を吊った馬鹿が古を信じる。 片道だけの冒険旅行。

          欲しがり

          君の言葉君の感覚君の鎖骨全て麻薬欲しいわからないから傷つけてほしい折りたたみの業務用の刃物で。