紀伊大二朗

すべてフィクションです。

紀伊大二朗

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最近の記事

自殺者

 深い深い眠りのなか自殺者は悴む手をまっさらなハートで温めて、やはり死ねなかったと後悔し、君の名前を呼んだり呼ばなかったり、すると、あたりは豪雨になり、それでも死ねないのだと悟ると、晩になり、君は結局は単純な子供時代を思い出し、ジャン・ジュネの名前を口ずさむ。リズムに乗りダンスを踊る。映画にさようならを告げ、また、どこかで会いましょうと空き部屋のなかなら泣き出した子猫を盗んだり盗まなかったり、ぐーぱんちが音を立てて、聞き耳を鳥が通ると、おそろいの偶然が横を抜けると、涙が出て、

    • 一言

      嫌な過去はフリマで売ればいい

      • 録音技師

         ある日曜日、彼は渋谷の映画館に乗り込み機関銃をぶっ放し人々を殺そうとした。ちょうど映画は西部劇が流れ、エンドロール寸前だった。トイレに行こうとした老人が最初に倒れた。次に叫び声が一斉に起こり、映画を盗聴していた少年によって次のような犯人と観客の音声が残っていることがわかった。 「おれは自分の人生を自伝的に捉えると、このままちっぽけな人生はいやなんだ。だから正義をぶっぱなす必要性がある。主張する必要があるんだ。こんなくだらない映画を観ているブルジョワども!」 …ノイズが混

        •  停車したその駅の名を君は言うことができない。無視されたつもりで、いつものようなそぶりで、明らかに、ゆっくりと、君は名前を言おうとするが、そっと舌を出したり、戻したり、もう忘れている。良いことがあった日は日本語を吐き出す…死にたいと思う…それが口癖の君はリスポンスする。君は惜しいことをしたと思い出すだろう。何を思い出しているのだろう、あの日の温泉の日の思い出か? 違うとしたら何だろう。君はあの日のその温泉の日の名前すら忘れている。笑われたり、フォローされたりするのが嫌な君はそ

          ワンダーウォール

           蠢く虫どもが毒を吐き出しながら、壁を伝い、僕のクソみたいな生活を脅かしている。鼠人間が大学院で時間爆弾を制作し、奨励賞を貰ったらしい。ある時そいつは僕の部屋に来て、君はその虫どもをどうしたいんだ、と聞かれたので、共存を望んでいると答えた。  世界平和を望んだある国のある王様は暗殺され、白昼夢を愛人のように抱きながら死んだ。ニュースでその王様の暗殺が伝えられると、鼠人間はひどく興奮して、くそ俺が先に殺すはずだったのに、と何かに取り憑かれたようにテレビをまじまじと見つめ、破壊し

          ワンダーウォール

          理由

           暗闇の中でベイべーが囁く「お前はここにいていいんだよ」 つまりここは…終点。あるいは若き詩人の言語化できない病を治す病棟。年配者にヘイコラつって奴隷になるなんて腐った考えだ。僕らは僕らのままでいいんだ。傷つく時は堕落していいんだよ。少しサボるぐらいがちょうどいい。缶コーヒー飲んで毛布にくるまり死なない理由探そう。嫌な過去はフリマで売ればいい。ほら、明日は雨だ。

          べいびーべいびーあんたなんか

          てか、さ、致死量の毒でも飲んで死ねたらいいのに。病み垢作ったけど別に使う用ねぇし、やっぱうち死んだ方がええやんねって松っちゃんor浜ちゃんみたいな口調で言ってみるけど、やっぱ死ねないし、うちを振ったサッカー部の野郎はサッカーボールで遊ぶみたいにうちのことをコロコロと遊んでいたんだね。あの時のコンドームはピエロの鼻みたいに膨らんでいたね。寝たふりしてうちの教科書貸してよーっていう甘い甘い声さもう無視でまじオワターって感じかい。股がヒリヒリするね。コマネチしたい。それは古いか。わ

          べいびーべいびーあんたなんか

          青い眼のマリア

           嵐が先に来た。誰かの呼び声が固まり、唾を地面に吐き捨てると、壁をゴキブリが這う奇怪な音がした。この木屋で生活して3年になる。保安官の安西がいつも私の朝食と夕食をとどけてくれる。死人のように青い顔をした安西は毎夜3時に寝ているらしい。呼び声の主は誰か。安西の来る時間帯ではない。私にはわからない。女だろうか。男だろうか。それさえ検討がつかない。嵐が先に来たのは事実である。嵐は木屋を大きく揺らし、木屋ごと吹っ飛ぶのではないかと不安になった。すると嵐がまた来た。木屋の扉が吹き飛ばさ

          青い眼のマリア

          薄っぺらい誕生日

           彼女の誕生日は薄っぺらい。鳥が鳴き出したので、森にいる。電話越しに彼女と話している。付き合ってまだ一か月。彼女の誕生日は5月の3日。やはり薄っぺらい。不条理な世界を犬が走っていく。その後ろを彼女が駆けていく、サンダルを忘れ、宿題を忘れ、モラトリアムを忘れ、インチキ占い師の助言を忘れ、自分の誕生日を忘れ、それでも駆けていく、夏前の渚は波が心地いい、冒険、戒め、辱め、そんなすべてを忘れて駆けていく。犬の名前はワンコロ。ローアングルのカメラアイで撮影されたワンコロの小さい頃のビデ

          薄っぺらい誕生日

          Andy,応答せよ

          「やあ、andy!そっちはどうだい?こっちは雨だよ!」 そんなメールを送った君はまた純血混血と繰り返す君のバタフライナイフ。鈴木清順のようなスタイルで君は美学を大人たちから切れ切れになるまで守る。そして君は君は痛さと歯痒さと才能を洪水のように溢れさせながらルート33通りを風切り走る。知らないな。知った方がいいよ。言葉は詩になるから。ジャックケルアックで遊ぼう。ビート。ヒント。朝起きて、andyがいないのに気づいた。ボブ・ディランのレコードがなくなっていたから。きっとand

          Andy,応答せよ

          狂った果実

           はじまりはいつもこうだ。みんないかれちまった!! その通り、その通り、リズムが肝心。例えば変態な物語を僕が語ろう。語る資格など僕にはありゃしない。けど、語ることだ。この痛みが少しでも和らいだら良い。それで、いい。  月を小さい頃食べたという女がいてそいつを部屋で犯したことから話し始めようか。デヴィッド・リンチが好きなその女は股が井戸のような臭いだった。白いロープで手足を縛る。犯す手順はまるで新聞の中にチラシを挟むアルバイトより簡単な流れ作業だった。簡単すぎてスーパーマリオの

          ぼくの叔父さん

           ずいぶんむかしの話になるが、ぼくには叔父がいた。フランス風のファッションでかろやかなステップを刻みながら、颯爽と部屋を自由に移動する。それが、ぼくの叔父だ。あるとき叔父はぼくの財布から三千円を平然と抜き取り、こう呟いた。 「源ボウ、数学教えちゃるけん、これその塾代なあ」  どうせ酒代にすべて使うんだろなあ。そして叔父は数学のスの字もわからないとんでもない馬鹿であるときている。これにはぼくもカンカンに怒って母親にチクった。母は自身の弟である叔父に厳しく「あんた源から三千円パク

          ぼくの叔父さん

          悪寒

           悪魔が街にやってくる。新聞配達の少年はそう呟いた。コタンは笑い、誰かは悲しむ。モーゼとアイロンが乾き、水を欲する。しばし、矛盾した思想を持つ老人どもが意味のない葬儀の列を作る。なあ、次はだれが死ぬ? 君はちょうど村から外れた家で特等席を待つ。死ぬならちょうど今がいい。誰かがそういった。筋肉質なラテン系の兄貴はチャンドラーを読んでいる。失語症の彼らはそうやって治療を続ける。さあ、悪魔が来るまでの前座に売れないパンクバンドの演奏はどうだろうか。君はどうだろう? 興味はあるかい?

          エッセイのようなハードボイルド小説のような馬鹿息子的テキスト

          つらつらと書いていくつもりだがなにも思いつかない、ちょうど一時間後にぴったり締め切りが来てしまう、コーヒーでハイになって、盗んだ猫がどこかへ行ったきり帰ってこないので、キャットフードは案外おいしいんじゃないのかなと一粒たべると糞まずかった、カップうどんでも食べようか、そんなときにチャイムが鳴った、誰だろう、カンカンにおこった編集者ササオかもしれない、ササオは僕の小説の世界観の理解者であるが、締め切り締め切りうるさいのでたまにタイキックを喰らわせたくなる。まだチャイムは鳴ってい

          エッセイのようなハードボイルド小説のような馬鹿息子的テキスト

          列車

           夜、列車を待つきみは震えていた。カンカン坊主が素通りで、先の方では海が続く、岬に面したこの通り、きみは見慣れていたこの風景をどうにか目に焼き付けようとした。ちょうどシャムキャッツの曲がイヤフォンから静かに流れていた。ディズニー映画のエンディングのような明るい未来を信じて桜の花びらをポッケに入れて軽く触れるとインチキな魔法を使える気がした。気がした、そう、気がした。きみは幼い。きみは何も知らない。きみはガキだ。  ちょうど、列車が来た。  きみはこの終電に乗って書きかけの小説

          日記

           僕がたとえば女子高校生とすれ違う。するとあの日が蘇る。耳の底では執行人が僕に自殺を促す。遺言は2通、処刑台のスイッチは3個あって、どれかを押すと、次には首を吊った僕のシーンが挿入される。あの日の話をしようと思うと、サイレンが鳴る。すると、レコードが現れる。レコードは無秩序を好む。ビートルズの叫び声。ロックンロールの衝動。君に再びあの日の話をしよう。あの日僕は毎日ようにクラスメイトの女子から執拗なイジメを受けていた。生々しくてあまりこんな場所で言えるような内容でない。酷い。特