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第10回「側室をどうする!」3月12日

今回も前回に引き続き、神回でした!
大河ドラマって歴史ドラマと思われがちですが、実は過去の作品は歴史小説(創作)の原作があるものが多くて、史実というよりその時代の価値感や旧来の定説(人気の逸話)を反映したフィクション要素が高かったと思います。
ところが近年は原作をやめて、脚本家と時代考証に入る歴史研究者が最新の学説を採り入れるので、昭和の頃から大河ドラマや歴史小説を楽しんできた人たちは、すごく違和感を覚えてしまう。
『麒麟がくる』で戦国時代の着物が水色や黄緑色(萌黄色)だったときに、従来の大河ドラマの褐色や灰色の着物を見慣れていた人たちは、戸惑っていました。また、女性が正座ではなく片膝立ちで座っているのも「はしたない」って、かなり怒っていました。
でも、史実では戦国時代の着物や甲冑はかなりカラフルであり、片膝立てて座るのも高貴な女性の作法であり、『麒麟がくる』の時代考証はとても正確でした。
『鎌倉殿の13人』も従来の定説をかなり引っ繰り返して話題になりましたが、研究者かコアな歴史ファンくらいしか知らないような最新研究をふんだんに盛り込んでいて、私としては凄く楽しかったです。
『どうする家康』も『鎌倉殿の13人』に引き続いてエンタメ要素は高いですが、やはり旧来の定説を最新研究で引っ繰り返しているところは、随所に見られます。
第8回のタイトルを「三河一向一揆」ではなく、最新研究の通り、「三河一揆」としていたところも、制作陣のこだわりを感じました。
他の地域の一向一揆のような新興宗教勢力への弾圧という一面だけでは評価できないということは、時代考証の平山優先生が研究として発表されています。
ドラマでも三河の家康敵対勢力が一向宗を利用していた様子が描かれていました。こういうのも従来の大河ドラマでは、あり得なかった視点ですね。

それで今回の「側室をどうする!」です。
LGBTQに斬り込んできましたね。
これに違和感を覚えた視聴者も少なくなかったかもしれません。とくに私のまわりでも、高齢者の方はその傾向が強かったようにみえました。
でも、これも昭和時代の大河ドラマや時代劇の影響なので、仕方ないことだと思います。
昔は日本の美徳や武士道とLGBTQは関わりのないものだと、明治維新以降のキリスト教的価値感の移入で植え付けられてきましたから。
2020年の電通の調査ですが、LGBTQの割合は、8.9%と調査結果が出ています。最近では性自認についての理解も進み、この割合は10%を越えているとの研究もあります。つまり、日本人の10人に1人はLGBTQということです。
生物学的な進化は、何万年もかけておこります。
数百年程度で人間の生物学的な特徴が大きく変化するものではありません。戦国時代も現代も、人間の性自認や性的指向は、それほど大きな違いはなかったはずです。
実際に戦国時代は貴族や武士などでは、男性同士の性愛は衆道として、男女の関係よりもむしろ高貴なものと見られていました。けっして現代のように忌み嫌ったり、他人に隠すようなことではありません。
では、女性同士はどうだったのか?
残念ながら女性については、ほとんど記録としては残っていません。そもそも公式文書や貴人の日記などでも、文書に女性の名前すら残す文化がありませんでした。
織田信長の正室の「濃姫」は美濃の姫様という意味だし、徳川家康の正室の「築山殿」は築山御殿の婦人という意味だし、今川氏真の正室の「早川殿」は早川御殿の婦人という意味です。このクラスの大名の正室の本名でさえ、まったく記録に残っておらず、信長も家康も氏真も奥さん(正室)の本名はいまだにわかっていません。
それくらいなので、女性についての細かな記録は、残念ながらほとんど残っていないのです。
女性同士の性愛は、「記録がほとんどない」というのが真実です。せいぜいが江戸時代の浮世絵に、女性同士の性愛が描かれているくらいが主だったものでしょう。
しかし、前述のように、現代人のおよそ1割がLGBTQであるという日本人の生物学的な特性は、たかだか400年くらい前で、大きく変わっているはずがありません。実際に男性のゲイは変わっていないどころから、戦国時代や江戸時代のほうがむしろ盛んでした。
にもかかわらず、今までの大河ドラマでは、恋愛は男女だけのものとして扱ってきており、日本の歴史を学んできた者からすれば、すごく違和感を覚えていました。
それが『どうする家康』では、初めてその部分に本気で斬り込みました。
今回の「側室をどうする!」を観て、政治的なメッセージだと言っている人もいますが、もちろんNHKなのでそれがゼロとは思いませんが、私はむしろ「やっと大河ドラマが正しい日本の歴史を描いた」という認識のほうが強かったです。
昭和や平成の時代でしたら、もしからしたら多くの視聴者が嫌悪感を持ったのかもしれません。
日本の文化を冒涜したと、NHKに抗議の電話をするような老人もいたかもしれません。
これも令和の現代でLGBTQに対する認知が高まり、社会が許容する意識が醸成しつつあるので、やっとここまでドラマにすることができたのだと、時代の変化を感じています。
私個人としては(あくまで個人の見解です)、正しい歴史に踏み込んだ「側室をどうする!」は、まさに「歴史的な神回」だったと思っています。

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