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クーポン券配りのバイトをしたら、かわいい子からお茶に誘われた

私が高校三年生の頃
高校近くに新しいメガネ屋さんができた。

大学デビューに備え
私はそこで使い捨てコンタクトと新しいメガネを購入した。

 
 
私が大学二年生の頃、同じ系列のメガネ屋さんが駅ビルにできた。
それに伴い、求人情報誌にバイト募集が載っていた。

メガネ屋さんのクーポン券を配るバイトだった。
土日限定(長期休暇時は平日もあり)で
一日5時間
制服支給で
時給はなかなか高かった。

 
平日は家庭教師をしていた為、土日限定のバイトはありたがたかった。
ガッツリ8時間ではない辺りが私には好都合だった。
大学は遠いし、レポートは多いし
何より私は体力に自信がなかった。

私は制服があるバイトに憧れていたので
制服ありというのも惹かれた。
家庭教師のバイトは私服だったからだ。

 
 
私はその駅ビルがある駅まで、定期券を持っていた。
大学に向かう途中の駅だったからだ。
交通費も全額支給だった為
なかなか高い時給に交通費が加わると
高い時給になった。

定期券代は親負担だった。

 
私は求人情報誌片手に、担当者に電話をした。

履歴書を書いて指定場所に行った。
家庭教師の面接時はスーツだったが
メガネ屋クーポン券配りなら私服で大丈夫じゃないかと言われ
シンプルなモノトーンコーデで面接した。

「何日から来られる?」

面接は志望動機等は尋ねられず
具体的な労働の話中心であり
私はチャッチャとバイトは決まった。

 
 
バイトは10時からだった。

メガネ屋さんのスタッフルームに、チラシ配りの方は集合し 
チラシ配りの制服に着替えた。
上は赤いポロシャツで、寒い日は赤いジャンパーが配られた。
確か赤い帽子も配られた。
下は自前で、チノパンかジーパン、スニーカーだった気がする。

荷物を空いているスペースに置き(ロッカーはない)貴重品と携帯電話だけ、ポケットに入れる。

 
その控え室は狭く、空気が悪かった。
チラシ配りの方は私含めて四人。
あっという間にギュウギュウになった。

荷物置き場は鍵がかからないから非常に怖くて
私は安いバッグに必要最低限の物しか持参しなかった。

 
駅には西口と東口があり
お店の人に指示され
ランダムのメンバーと成り行きで場所を指定される。

基本的には二人組でチラシ配りを行う。

 
一人は、控え室に置いてあるのぼり旗を運び
もう一人は二人分のクーポン券を持った。
クーポン券は確か、一日ノルマ300枚だった。
一応のノルマが300枚なだけで
残っても給料は減らされないし
配りきったら追加分をメガネ屋さんからもらう。

早く配り終わればバイト終了、とはならない。

 
 
初日、私は西口を担当した。

メガネ屋さんのロゴ入りの旗を通路に邪魔にならない場所に設置し
一人はエレベーターや階段付近
もう一人はロータリー側をまず担当した。

お昼休憩は一時間で
二人で話し合い、11:30~12:30か12:30~13:30のどちらがよいかをその場で決める。

 
 
そこまで終わったら、いよいよクーポン券配りだ。
それはコンタクトレンズの割引き券だった。

 
私は通行人の進路方向を一歩分塞ぐように前に進み

「●●のコンタクトレンズクーポン券です!」

と、営業スマイルでジャンジャン渡す。 

 
ある程度やると、人の流れや様子が掴めてくるので
ひたすらに図々しく
けれど営業スマイルで明るい挨拶や声でクーポン券を配る。

チラッとしか見ない初めての方が
コンタクトかコンタクトではないかなんて分からない。

とにかく渡す。渡す。渡すしかないのだ。
断られてもめげない。
ひたすらに渡す。

 
ティッシュ付きならばまだもらってくれるのだろうが
時間帯や場所によっては苦戦を強いられた。
いくらノルマなしとは言え
8割以上は配らないとあまりいい顔はされない。

 
立ちっぱなしで営業スマイルで声をかけ続けるので
休憩タイムは素に戻る。
制服を脱ぎ、私服に着替え
マックやたこ焼き、おにぎり、クレープなどを食べたりした。

その駅ビルは飲食店がたくさんあるので
食事には困らなかった。

 
大学の親友が、その近くに住んでいた為
たまに私のバイト姿を見に来たり
お昼休憩に一緒にご飯を食べたり
バイト終わりに落ち合ってお茶をしたりした。

「クーポン券貸せよ。上手くやっとくから。」

と、親友が何十枚も持っていってくれたこともあった。
持つべき者は友達である。

  
私と反対側の担当をした方は、女子トイレにまとめてクーポン券を捨てたのがお店に発覚し
その方はお咎めを受けた。
私達バイト生全員にご忠告もあった。

バカめ…
やるなら上手くやるんだよ。
捨てるなら、そんな目立つ場所はダメだし
分散させたり
何かで包んで捨てるんだよ。

 
私は内心、そんなことを思った。

 
 
料理屋のクーポン券でもなく、ティッシュ付きでもないせいか
ノルマ300枚はなかなか厳しかった。
 
ペアの子や私の手腕のせいではなく
コンタクトレンズクーポン券ということと
毎週配っているということと
ティッシュ付きではないということと
単純に、駅を利用する人がいなかった。

 
そこで私は、人が少ない時のみ、裏技を使った。
クーポン券を二枚重ねにして配ったのだ。

新聞のチラシからヒントを得た。
チラシも時折、二枚自宅に配られることがある。

 
全て二枚セットで配ると足がつきそうだから
私は時間帯によって
二枚セットを何組作り、配るかを計算していた。

道行く人みんながみんな、二枚セットだと怪しまれてしまう。

 
 
あくまで

うっかり二枚渡しちゃいました(てへっ)
悪気はないんです(てへっ)

というポーズが必要である。

 
 
この作戦は上手くいった。
メガネ屋さんにバレなかった。
お咎めはなかったのだ。

また、配られたクーポン券は大抵あちこちのゴミ箱で捨てられていたので
お昼休憩時、私服に着替え、ドサクサに紛れて私も2~3枚捨てる作戦も行った。
ゴミ箱は点在していたのと、ゴミ箱の位置は把握していたので
一箇所につき、2~3枚にした。

足がつくのを防ぐ為である。

 
こうして私は客足が少ない場合のみ悪知恵を働かせ
自分で手を汚したり
親友に協力してもらい
なんとか日々乗り切ってきた。

毎回ノルマクリアは怪しまれるので
反対側の人達に中間報告でさばいた量を聞いたりし

全て配りきる日
8割配る日
割と余ってしまった日を
絶妙なバランスで調整した。

 
嘘を吐く時は本当を混ぜるといいし
なるべく嘘は吐かない方がいい。

あくまで裏技を使うのは、最終手段だ。

 
 
私はクーポン券の残量で咎められることはなかった。

なるべく裏技を使いたくないから
配りやすいポイントや人の傾向も研究していた。
時に悪知恵も使うが
基本的には真面目にクーポン券を配るバイトを頑張っていた。

 
やがて夏休みに突入し
私が高校時代にメガネやコンタクトレンズを買った店舗のヘルプも任され
別のエリアでもクーポン券を配るようになった。

クーポン券を配る場所は基本的に日陰エリアだし
水分補給が許された。
氷らせたペットボトルをよく持参した。
トイレは自分のペースで行きやすく、ありがたかったし
別のエリアの方が人通りは激しく
クーポン券は配布しやすかった。

 
交通費は普通にかかるからちょっと残念だが
普段の場所も夏休みヘルプの場所も
自宅から同じくらいの距離だったし
どちらもお店がたくさんある場所で
バイト後は寄り道しやすくてよかった。

一度だけ、外国の方からお昼休憩中にいきなり話しかけられ
宗教に勧誘されたのも、今となっては思い出の一つだ。

 
 
親友は、こちらにも数回遊びに来てくれて
やはりクーポン券をさばいてくれたし
昼休みに一緒にご飯を食べたり
私がバイト終わりに待ち合わせをして
一緒に遊んだりした。

 
 
余談だが
後に親友は、自分のバイト先(塾)に私を紹介してくれた。
朝から夜まで毎日メールを何十通何百通して
大学では講義だけでなく、大抵行きの電車から帰りの電車まで一緒だし
よく二人で遊んだし
時には長電話さえしていた。
誕生日にはアクセサリーを贈り合った。

私のバイト中にも親友は顔を見せに来たり
自分のバイト先に私を誘ったりと
ある意味私達はカップルのようにベッタリだった。
積極的なのは親友だが
まんざらでもなかったのは私の方だった。

 
親友は大学受験生に英語や数学を教えられるレベルの学力で
私は中学や高校受験生を対象に家庭教師をしていた。
親友のバイト先の塾長からは、私と親友の学力の差が酷すぎて失笑され、不採用になったことは
今でもよく覚えている。

もともと人手不足と時給の高さ、一緒に働きたい旨で親友から誘われて行っただけで
私はこれ以上バイトを増やしたいわけではなかったから
不採用はまだいいのだが
失笑されたのはショックだった。
プライドは傷ついた。

 
国語ならば、大学受験生にも教えられた自信はある。
だが、さすがに大学受験組に英語や数学はレベルが高すぎた。
大学偏差値はピンキリあるのだから。

 
 
 
私はクーポン券を配るバイト仲間と、特に仲良くなることはなかった。

着替える際に多少は話すが
二人一組の仕事とはいえ
クーポン券はお互いに見えない場所で配る。
休憩時間はズレてとるし
クーポン券を配るメンバーは固定ではなかった。
その日限りの方もいたし
名前さえ分からない人さえいた。

  
そんな中、私は彼女に出会った。

 
当時、専門学校一年生だった彼女は、途中からバイト仲間に加わった。
身長は150cm未満で小柄、ストレートな茶髪、クリクリとした目、バッチリとしたメイクは

私のめちゃくちゃ好みだった。

私は小柄な小動物っぽい女の子が大好きだった。

 
「ともか先輩、やり方教えてください。」

 
彼女は素直な子だった。
そして私に何故か懐いた。
連絡先交換をしたバイト仲間は初めてだったし
バイト後に一緒にお茶をしたり
プリクラを撮ったのも初めてだった。

今まで家庭教師として生徒とは交流をしてきたが
バイト仲間というカテゴリーの方と仲良くするのは不思議だった。

仕事に人間関係が絡むと面倒だから
私はどこかでそういった仕事を避けてきた。
飲食店やコンビニ等のバイトを避けてきた。

 
だから、そんな風に心を閉ざしているというか
バイトだと割り切り
その日その場でのやりとりしか求めていない私に
私好みの子が私に懐いたのは
意外な展開だった。

 
バイト後にお茶をしながら、プライベートな話をした。
彼女には彼氏がいるらしい。
そりゃあこれだけかわいければいるだろう。
いいなぁ。

「ともか先輩だって優しくてかわいいから、すぐ彼氏できますよ~。」

彼女は羨ましがる私に笑顔で言った。
こんなにかわいいのに
私をかわいいと言うなんて心が澄んでいるな。

 
見た目だけではなく、性格もいい。

 
彼氏ができるのはこんな子なのだろう。

 
 
 
同じユニフォームを着て、同じバイトをして
同じ女性で
だけど私と彼女には違いがある。

彼女はキラキラして見えた。
愚痴を言う姿や仕事の失敗さえ
一生懸命な彼女はかわいさしかなかった。

 
私は彼女が羨ましかった。


 
  
 
メガネ屋のクーポン券を配るバイトは楽しかったが
一年くらいしてから
このバイトがなくなることを通達された。

クーポン券を配るのをやめてからしばらくしてメガネ屋さんは閉店し
私がメガネやコンタクトレンズを買ったお店も
そこを追うようにやがて閉店した。

 
 
時代は変わっていった。

昔はメガネは3万円以上の時代だったが
どんどん安く作れるようになっていった。
1万円で作れるお店も進出してきた。

メガネ戦国時代に突入し
私のバイト先のメガネ屋はその際に破れたのだ。

 
以前はメガネ屋と、メガネ屋兼コンタクトレンズ屋は棲み分けをしていたが
徐々にコンタクトレンズを取り扱うお店も出てきた。
当時は、視力矯正のコンタクトレンズしか販売していなかったが
段々とカラーコンタクトが市場に出回ってきた。

 
私が学生の頃、カラーコンタクトは
ヴィジュアル系のバンドマンやファンの一部くらいしかしていなかったが
女子中高生が日常的に使う存在になった。

 
 
カラコン女子が当たり前になったのは
私がクーポン券を配るバイトを辞めてからの話だ。

もしもカラコンがもっと早く流行っていたなら
クーポン券を配るバイトは
もう少し長続きしたかもしれない。

 
 
私はバイトを辞めてから
バイト仲間と再び会うことはもうなかった。

 
 
 
 
   
今年、ショッピングをしていたら
フェイスガードをしてマスクをつけた方が
手袋を着用し
アームを使用し
その先にティッシュを挟み
私に渡してきた。

コロナ禍でのティッシュ配りは大変だなぁとしみじみ思った。





 

 
 






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