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「やめて!」と言われた日

先日のことだ。

 
利用者Aさんを送迎した際
Aさんがなかなか車から降りず
グズグズしていた。
いつものことだ。
Aさんは場面切り替えが苦手で
毎日毎日車から降りる時に苦戦する。

 
その際、利用者BさんはAさんの後ろに乗っていて
椅子を何度も蹴ってきた。
ふざけてだ。
これも珍しいことではない。

 
「やめて!」

 
Aさんの親はBさんが嫌いだ。

Aさんは我が子を特別に思い
周りの障害がある方を見下しているような
言動や素振りをする場面がある。

 
確かに我が子の椅子が後ろから蹴られたら不快だろうが
「やめて!」という言い方はいかがなものかと思ってしまう。

 
「Aちゃん、かわいそうに。痛かったよね。痛かったよね。」

 
その日は私が立ち去るまで
ずっと言われた。

 
施設に戻ってから周りに話すと
「いつもだよ。」と同僚が言い
「早く降りない方も降りない方よ。」と施設長が言った。

 
 
それから数日後
再び私はAさんやBさんを送迎することになった。

 
やはりAさんはグズグズしてなかなか降りないし
Bさんは相変わらず蹴っている。

 
保護者の目線が怖かった。

 
焦った私は
普段…今までは一回もしたことはないが
広げていたAさんの足をとじ
体の向きを入り口側に変えた。

 
「やめて!」

保護者は私に言った。

 
「うちの子にはやめてちょうだい!」

「心の準備をする時間が必要なのよ!」

 
私は平謝りした。

 
 
先日と同じような展開にならないようにした結果
私が責められることになってしまった。
先日の利用者と私は同レベルだ。
空回りとはこのことだ。

 
私は平謝りした。
Aさんらにいつまでも平謝りした。

 
別れてからも
心臓がバクバクして
ぼんやりしてしまった。

 
やってしまった…
やってしまった……
やってしまった………

私は心が真っ暗になってしまった。

 
次から次へと
今まで仕事でやった失敗や保護者からの苦情が浮かんで仕方なかった。
ただただ自信をなくした。

 
…こんな時に同僚に話せたらどんなにか楽だろう。

私は同僚にも
まして施設長になんて言えず
暗い気持ちで残りの業務をこなした。

 
施設長は保護者とLINEでやりとりをしているから
LINEの音が鳴るたびに
私はビクビクしていた。

 
関係ない話をしても
関係ない仕事をしても
私は上の空だった。

 
 
定時になってから
逃げるように私は帰った。

 
心臓がバクバクした。

 
 
帰宅後
家の中に入るとエビカツ巻きが置いてあった。

それは私が「久しぶりに食べたい。」と言っていたものだった。

 
その日は私が両親より先に帰り
そのエビカツ巻きを一人食べたら涙が込み上げた。

人は何故悲しい時にご飯を食べると涙が出てくるのだろうか。

 
そのうち、両親が帰ってきて
私は一部始終話した。

 
「次の人の送迎もあるのに、心の準備をいつまでも待てないよね(※Aさんは送迎トップバッター)。」

 
「適当に話を合わせておけばいいんじゃない?そういう親なんでしょ。」

私はフッと今日気づいた。

 
Aさんは場面切り替えが苦手で何かを促されるたびに「やめてよ!」と怒鳴っている。

 
そうだ…
それは母親の口癖なのだ。

子は親に似るのだ。

 
「待たせて申し訳ありません。」
「いつもなかなか降りなくて申し訳ありません。」

という気持ちはないのだろう。

 
これからは親に任せよう。

どうせ私は無能な職員なのだ。

 
心の準備とやらができた時に
保護者が率先しておろしてください。

他の人の送迎もあるので
その点をどうかよろしくお願いしますね。

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