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ビーズのブレスレット

新年会で利用者Aさんが手品ショーを披露した。

その際、何もないところから花やビーズのブレスレット等を出し
観客席にいた他の利用者にプレゼントしていた。

 
ブレスレットをプレゼントする際
利用者BさんとCさんが「ほしい。」手を挙げた。

 
AさんはBさんにプレゼントした。
BさんがCさんの手前にいたこともあるだろうが
CさんがよくAさんに意地悪をしているから
なんとなく渡したくなかったのもあるだろう。

 
手品ショーはまだ続いたが
CさんはずっとAさんを睨んでいた。

Bさんは笑顔だった。
Bさんはアクセサリーが大好きだし
Aさんが好きなので
ブレスレットはなおさら嬉しいのだろう。

 
新年会が終わった後
更衣室で衣装を着替えた。
新年会はほとんどの方が着替えて出し物を披露していた。

 
私はBさんの着替えを手伝った。
すると、目を離した隙にブレスレットがなくなっていた。

 
Bさんはそれはもう、それはもう慌てて
探し回った。
だが、ないわけないのだ。

着替えを手伝った私は絶対の自信があった。
確かに机に置いたのだ。
ないわけない。

 
私はCさんと二人きりの時に「ブレスレット、知らない?」と尋ねた。

 
すると、Cさんはポケットさらブレスレットを取り出した。

今までもCさんは施設の物を色々と自分の筆箱やロッカーに勝手にしまいこむことがあった。

だが
人の物をとったのは私は初めて見た。

 
「なんでポケットに入れちゃったの?」

「だってほしいから。」

「ほしいからって、Bさんのブレスレットを勝手にポケットに入れるのはよくないよ。」

 
私はブレスレットをBさんに渡した。
Bさんは喜んでいた。

 
BさんとCさんは仲良しなので大事にはならなかったが
むしろ仲良しなのにブレスレットを奪ってしまうことが悲しく感じた。

 
私は周りの同僚に一部始終話した。
これで終わりだとは思わなかったからだ。

 
案の定
帰り際、同僚がBさんにブレスレットについて尋ねると
「Cさんにあげちゃった。」
と答えた。

 
「でも、Bさんはブレスレットほしかったんでしょ?」

「私は他にもブレスレットあるから。」

「でも喜んでいたじゃない。本当は渡したくなかったでしょ?」

「私は大人だから。大人の女性は譲るものよ。」

そんなやりとりがあったと
私は後で聞いた。

 
Cさんは職員が見ていないところで
他の利用者とのトラブルが多かった。

ほんのちょっとした隙を狙ったのだろう。

 
 
次の日
Cさんの連絡帳には「手品ショーでもらったブレスレット、喜んでます。」と書かれていて
心底嫌な気持ちになった。

もらったじゃなくて、奪った、だ。

 
でも、Bさんが了承している以上
職員は何ももう言えない。
終わったことなのだ。

 
新年会はずっとビデオカメラを回していたので
ブレスレットをCさんがもらっていないことも写っているはずだが
もう何も言えない。

結局はCさんの勝ちなのだ。

 
Cさんの保護者にありのままを話せば叩かれるのは大抵施設だし
Cさんもそれをよく分かっているから
言葉巧みに保護者に話す。

要領がいい。

 
でも 
Bさんはブレスレットを手に入れられなかったけど
人としてとても立派だった。
そして心が美しい。

私はBさんを尊敬する。

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