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施設長の復帰

前施設長が約一年ぶりに仕事に復帰することになった。

 
約一年とはいっても
その期間中、新施設長や事務長はよく仕事の関係で会いに行っていたようだし
仲の良い同僚はたまに会いに行っていたようだし
そんな彼等から話を聞いてはいたので
一年はあっという間だった気がする。

 
そもそも復帰する二ヵ月前から職場に顔も出す回数も増えていたから
ようやく、といった感じさえある。

 
顔を出しても
現場には入らず、役職のついた人同士で色々話したり、その仕事をしていたので
現場には入っていなかったが。

 
前施設長の前では緊張する私にとっては
前施設長のいない期間
ある意味気が楽だった。

 
新施設長は施設長になる前より立場上色々言うようになり
前より気を遣う存在になったが
それでも
前施設長の方が私は気を遣っていた。

 
前施設長が休むと決まってから
新しく職員は来なかったし
同僚の勤務時間や日数は増えなかったから
それは時に負担にはなったが
それでもそれは大した負担ではない。

仕事に文句を言わないできた人達が集まり
ベテランが集まっているうちの職場では
何人か職員が不在でも回っていた。
争うことなく。 

 
前施設長は復帰するが、時短勤務である。
しかも土日祝日の勤務はない。

だから完全に前と同じように働くわけではない。

おそらくもう、8時間勤務に戻りはしないだろう。

 
新施設長は復帰日に「今日からまたよろしくね。」と、ウフフと笑った。

「私がいない間は長かった?」と、ウフフと笑ったので
「みんなが施設長の話をしたりしていましたし、施設長の存在は大きいですから。」と伝えた。

 
一年ぶりなのに、新施設長が現場にいる姿は違和感がなかった。

懐かしさが込み上げた。

 
結局、赤ちゃんの具合が悪くなって途中で早退したが
それでも正式に復帰するとなると心強さがあった。

 
私は羨ましかった。

こんな風に自然体に元に戻れて羨ましい。

私もサラッと自然体に戻れたらよかったな。

 
その日、私は販売で使う値札を新たに作り直していた。
リーダーがラミネートをしてくれた。

後で切ろう…そう思っていたが
それを前施設長が切ろうとしてくれたらしい。

「真咲さんに余白のこだわりとかあるでしょうから、下手に切らない方がいいですよ。」

リーダーはそう前施設長に言ったそうだ。

 
おいおい、やめてくれ。
私は特にこだわりはないし、前施設長の方が手先が器用なのだから上手に切りそうじゃないか。

施設長の親切を無碍にしてしまったなんて
陰でどう思われるか。
  
はぁ、とため息一つ。

 
そんな前施設長復帰初日だった。
 

 
余談だが
前施設長は復帰日に有名なケーキ屋で1個1個中身が違うお菓子の詰め合わせを買ってきた。

 
私は骨折後、復帰日にお菓子5個詰め合わせを作り、紙袋一つ一つに職員の名前を書き、ビニール袋に入れて渡した。

対照的だなぁと思った。

 
「真咲さん、どれ食べる?」

先輩にあたる同僚が言う。

そう同僚に言われても
下っ端の私は気を遣う。
他の人が選んでからにしようと思ってしまう。

今回はお菓子の種類が全て違ったから尚のことだ。

 
リーダーは甘いものが好きではないので遠慮していた。

 
だから私は、自分のやり方がよいと思った。
選べる自由はこうしたことが起こりうるから。

渡すなら同じ品か、名入りがいい。

 
もちろん、1個1個中身が違うのもよいとは思うが
仕事が絡むと
仕事の人間関係が絡むと
それは少しややこしくなる。

私の持論、だが。

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