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利用者とおばあちゃん

歩いて施設に通っている利用者がいる。

だが、今年の夏は暑い。
心地良い風が吹く春や秋ならまだしも
夏の熱風の中歩くのは大変だということで
期間限定で送迎希望の話があった。

 
初日はちょうど私が送迎担当だった。

待ち合わせ場所に立っているだろうか。
少し緊張しながら指定場所に行くと
遠くから歩く影が二つ見えた。
利用者とその祖母だった。

 
「わざわざすみません。これからよろしくお願いします。いってらっしゃい。」

利用者のおばあさまが頭を下げる。

 
利用者より遅い歩幅で歩くおばあさま。
額に汗をかいている。

私達はこのまま車で移動だが
おばあさまはまたこの暑い中、歩かなければいけない。
うちの施設は自宅には迎えに行かず、停留所に迎えに行くシステムだからだ。

 
どうか倒れないように。

そう願いながら
私は頭を下げて送迎車を出発させた。

 
泣きそうになった。

このおばあさまは利用者を、孫を大切にしている。
行事の時はよく顔を出すし
いつも低姿勢で穏やかだ。

 
利用者や家族に言わせれば
「ボケばーちゃん」らしいが
私はこのおばあさまが好きだった。

 
亡くなった祖母を思い出す。
無償で私を愛し、かわいがって、尽くしてくれた祖母。
優しかった、祖母。

 
ボケばーちゃんでもいいから
今でも生きていてほしかった、祖母。

おばあちゃんが生きている利用者が羨ましい。

 
祖母を思う。
どれだけ私に優しくしてくれただろう。
どれだけ。どれだけ…。

私にとって自慢の、世界一の祖母だった。
祖母にとって私は、世界一の孫だった。

 
もうおばあちゃんは心の中や思い出の中にしか生きていない。

 
おばあちゃん。
私は元気でいるよ。

今日も私なりに頑張っているよ。

偉いねって褒めてくれるかな。
頑張ってるねって褒めてくれるかな。
まだ結婚していないのかって心配してくれるかな。

 
おばあちゃん。
会いたいよ。

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