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最後の手紙

今度利用者が退所することになった。
退所日に利用者はもう施設に来ない。正確には、来れない。

 
退所をする利用者は
退所発表前にしばらく休むか、休みがちなケースも多い。

 
その利用者もしばらく休んでおり
もうすでに何人かから、何回か尋ねられていたくらいだから
誰一人驚いたり、泣いたりはしなかった。

 
私自身も退所予定は数ヶ月前に聞いていたため
涙は出なかった。

最初、退所予定を聞いた時は泣いたが
もう別れを受け入れているのかもしれない。

 
 
みんなで最後にメッセージカードを書くことになった。

退所が決まれば
荷物は返却になるし
退所の手続きをしなければいけない。

本人には会えなくても
保護者の誰かしらには会うことになる。

 
「体に気をつけてね。」
「頑張ってね。」

利用者のメッセージカードにはそんな言葉が並ぶ。
手紙を書くのは話す以上の能力を求められる。
文字や手紙が書けず、絵を描いただけの人もいた。

 
そんな中、利用者Aさんが「書けたよ。」と私に渡してきた。
だから私はそれを読んだ。

「あなたは覚えてる?
私達は学校から一緒だったね。修学旅行では動物園でパンダやキリンを見ました。楽しかったね。
ここを離れてもずっと仲間だってこと、忘れないでね。」

 
…私はそれを読んで泣いた。

 
 
私の施設は
学校が同じだったり、同級生もいて
学校からの長い付き合いの利用者が複数人いた。

施設の思い出を書くのではなく
それ以前の、私が知らない思い出を書くとは思いもしなかった。

 
もしも私が退所側の人間なら嬉しいと思う。

 
今はコロナ禍で気軽に旅行に行けなかったり、行きにくくなった。

だからきっと修学旅行の思い出を
退所する利用者も大切にしていると思う。
旅行やお出掛けが好きな方だったから、尚更だ。

 
私は退職した当時を思い出した。

「ここを離れてもずっと仲間だってこと、忘れないでね。」

あの頃私はそう言われたり、思われたかった。

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