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鬼が笑う11月

その利用者は時計が読めない。
日付もよく分からない。

時間の概念が分からないから
あと少しとかまだま先ということも曖昧すぎて理解が難しい。

待つことが苦手で非常にせっかちだ。

 
11月1日
利用者は私に「来週は節分だね。」と言い出したのでずっこけた。色々飛ばしすぎている。

何か(10月)が終わったことやハロウィンが終わったことは理解しているのかもしれない。

 
そもそも、9月頭くらいから毎日毎日ハロウィンハロウィン騒ぎ、仮装をして登所していた方だ。
普段の動きを見ると、ハロウィンが終わったから来週は節分という発想も本人にとっては至って真面目な考えなのだろう。

 
「節分は来週じゃないよ。冬の終わりにやるんだよ。今はまだ秋だよ、秋。」

私は季節を伝えた。

 
本来ならば、これからクリスマスがあり、お正月があり、節分はその後だと言いたいが
クリスマスにこだわりがめちゃくちゃ強い方なので、そのワードを私から言うわけにはいかないのだ。

 
「じゃあ鬼に電話しとく。まだ節分じゃないよ、まだ来ないでね、って。」

「そうした方がいいね。」

「今来たらぶっ殺す!って言っておく。ぶっ殺す。」

鬼に電話までは無邪気だが
言葉遣いは悪いなぁ、と内心思う。

 
鬼にぶっ殺すなんて言ったら返り討ちにあうだろう、とも内心思ったが
面倒なので言わなかった。

 
「今頃工場で鬼のお面作ってるんだね。」

「そうだね、作ってるよ。」

「看板作ろうかな。節分はまだです、お待ちくださいって。」

「お母さんに聞いて作ってみたら?」

「カレンダーにも書かないと。節分はまだです、って。」

今年のカレンダーは11、12月で終わりだ。
2月のカレンダーはまだない。
それもまた、時間や日付の概念がない利用者にとっては理解が難しいのだろう。

 
イベントが楽しみな利用者が羨ましかった。
私はイベントが憂鬱だった。

 
今月も行事が多いし
12月のクリスマス行事も頭が痛いし
2月にも大きな行事が控えている。

大きな行事では上から求められることが増える。
仕事ができない私は言われる回数がもれなく増える。ストレスも。

 
「来週は節分だね。」

利用者は私の憂鬱さにちっとも気づかず、なおも繰り返していた。

 
行事が憂鬱な私と楽しみな利用者。まるで正反対だ。

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