ー詩と形而上学ー27.0
七月の唄
ひとひらの心音が、鳴かなかった夜。新種の紫陽花の名前のない色の名前を思い出す。六角形の響きを残した月。くぐる雲の名残が、矛盾のない冷たさの、頬の横を流れていく。半袖とピアノが、反射している。南アフリカの、水色の鉄道が震えている。斜め下から、きみを証明する、手品の仕組みを眺めてみる。
柔らかくなった縞馬の骨を白いテーブルに並べて、黒砂糖の溶けた名残のような泪の跡と重ねている。 灰になったそれは二回目の遺骨となって、グラスのミルクの中で甘味を纏い、泳いでいる。息を沈めて、唄を歌うふりをして 水色を忘れたような手慣れた手つきで、頬が少し痺れた理由を探している。
意味のない現代詩を、丁寧に、几帳面に破り捨てて、 つじつまの合わない言葉の行と行のあわいに、雲を浮かべた。六月のちぎり損ねたカレンダーを、足跡がわりにして、もう一つの空を思い出しては、姪っ子の背丈を気にしている。グラスのサイダーと、冷やされた、炎。確かにそれは、色づき始めている。
未熟な陽炎を追いかけている。完璧な静けさに、身を任せている。音楽は 音もなく崩れ去って、ト短調の構造を記憶したままでいる。七月の向日葵は 種子のままで、金魚鉢の透明を屈折させている。なにもなく、虚ろな景色を 色鉛筆で描いている。始まった七月は、既に、終わり始めている。
Written by Daigo Matsumoto