自前主義からの脱却、オープンイノベーション2.0とは?
「イノベーション」という語句は以前からメディアでもよく聞き、ビジネスのシーンでは特にリーダー層との会話から出てくる印象を受けます。
私が所属する大学でも、イノベーションといった語句は文科省をはじめ、学術研究でもよく使われています。
とはいえ、イノベーションは一人では起こせないというイメージがあったので、概念やその仕組みなどについて調べたいなと思いました。
ちなみに、第5回産業構造審議会 2050経済社会構造部会の資料によると、日本企業の稼げる力は、平均して13歳~14歳頃から下降していく傾向にあるようです。
一方、アメリカはというと、大きな減少はないものの成長を維持しています。
これには、整理解雇というアメリカならではの文化や、新たなビジネスを生み出すために組織をオープンにする、といったことが要因としてあります。
しかし、日本では終身雇用制度という弊害、ビジネスよりも課題解決、モノづくりを得意とする国民性といったことから、国内のイノベーションは、社内資源によるクローズド・イノベーションを源流としていました。
ただ、上図からも分かる通り、本質的に日本はオープン・イノベーションを取り入れるべき過渡期に差し掛かっています。
そこで今回は、主にオープンイノベーションが必要とされている背景、またイノベーションを加速させる環境などについても触れ、自身の感想も交えながらまとめていきたいと思います。
※今回の記事では、書籍やHP内で使用されている用語をそのまま引用しているため、「共創」や「協創」といった用語に整合がありません。若干、見ずらいかもしれませんが予めご了承ください。
1、イノベーションとは
イノベーションの概念は、経済学者であるヨーゼフ・シュンペーター氏が20世紀初頭に唱えたとされています。ちなみに、彼の主張を現代風に要約すると次のようになります。
「イノベーションとは新たな顧客価値を作り出し、経済価値を得ることである。技術革新はイノベーションの一部にしか過ぎず、プロセス、仕入れ、販売、ビジネスモデル、価値基準、組織形態など幅広い要素を対象にしたイノベーションが存在する」
(新たな価値サービスなら何でも有りってことかな…)
他方、尾崎教授いわく一概にイノベーションといってもその種類は大きく2つあり、その意味の違いを放置すると大変な認識違いを起こす可能性があるそうです。
【イノベーションの種類】
①既存事業のイノベーション:
既に収益を生んでいる事業をベースにして製品やサービスの改良、コスト削減などによって経済的価値を生むこと。
②新規事業のイノベーション:
自社技術を使って新市場に参入する、ベンチャー企業から技術を導入して新製品・サービスを開発するなど。
ちなみに、①既存のイノベーションは、現状の延長線にあるため成功する確率は比較的高く、成功した時の寄与度は大きいが、継続するかどうかは技術の優位性や市場によって影響されやすく都度チェックし経営的判断をすることが必要。
一方、②新規事業のイノベーションとは、未経験の市場でほぼ手探り状態で、かつよく知らない分野や技術へジャンプするため成功率は低い。そのため、予算の達成率を細かくチェックしてもあまり意味がない。
これだけを見ると、「①だけでよくない?リスクも少ないし」といったように感じます。
にも拘らず、昨今では②の新規事業イノベーションを起こすため、産官学といった多様なステークホルダーと協業し、自社つまり自前主義から脱却し、いわゆる組織を開く”オープンイノベーション”を進める企業等が多く現れています。
ちょっと調べたら、ダイキン工業株式会社でもCSR活動の一環として、東京大学をはじめ、多くの大学と協創イノベーションを図っているようです。
さらに同社は、開発促進のための施設の他、フューチャーラボといった協創の場も設けています。
それらの背景には何があるのでしょうか。
2、オープンイノベーション1.0⇒2.0の時代へ
そもそも何故イノベーションが求められ、さらには開かれたオープンイノベーションまで必要とされているのでしょう。
ちなみに、オープンイノベーションとは、80年~90年代にヘンリー・チェロスブロウ氏によって提唱された考え方です。
今野氏によると、現在はオープンイノベーション1.0から2.0に移行しており、その要因として、国内外の大きな変化が影響していると次のように述べています。
(オープンイノベーション1.0とは)
企業が自社技術を外部パートナーに公開し、協業を前提としたオープンな開発手法によってサービスを提供する。
(オープンイノベーション2.0とは)
大学や自治体、市民が積極的に参加し、よりより生活環境や社会を共に共創することを目指す。
続けて、オープンイノベーション1.0と2.0の比較は下表の通りまとめられており、目的や関係するステークホルダーが異なることが分かります。
(国内の変化)
市場の成熟化が進み、それまで日本の経済成長を支えてきた「大量生産」や「品質管理」といった日本的ビジネスモデルの陳腐化が進んだこと。さらに人口減少や地方の衰退によるマーケットの縮小。
(国外の変化)
国際的な市場経済の停滞、格差の増大、地球温暖化やエネルギー問題といった閉塞状況が続いていること。さらに、AIといったテクノロジーによる急激な市場変化。
つまり、現状に安住していたらコストが低い新興国等による企業に突き上げられ、自社製品はコモディディ化し、転落してしまうといったこと。
くわえて、SDGsといった持続可能な社会実現のためには、社会的意義をもったサステナベーションの必要性。また、それにはAIやテクノロジーも欠かせないといった状況が考えれます。
このような国内外の市場が目まぐるしく変化していく状況下で、企業らは自らを変えていかなければ生き残ることができず「未来を切り開く全く新しい価値が求められている」といったようです。
その価値を生み出すには、自社自前でのイノベーションでは限界があり、その限界を突破する取り組みこそがオープンイノベーション2.0であると理解しました。
なお、尾崎教授いわく元々自前主義の文化が根強い組織が、オープンな組織へ変わるための要因に、知のダイバーシティ化とプラットフォームの進化をあげており、ここでもイノベーション2.0の定義が裏付けられたともいえます。
(言われてみればそうなんでしょうけど、どうやったらうまくいくのか…🤔)
3、「場」によるイノベーション加速支援環境
プラットフォームには、オフラインあるいはオンライン(ECサイト等も含む)の「場」が存在します。
一般社団法人FCAJ(以下、FCAJ)では、イノベーションを実現するためにプラットフォーム空間としての「場」を生み出すことを提唱しています。
その「場」の環境について、次のように説明しています。
未来の一部をとり入れ、試行錯誤を通じて新たな価値を生み出す様な「場」と仕掛けが、変化の激しい時代においてイノベーションを起こしていくために有効であると考えました。それが、イノベーション加速支援環境(Innovation Acceleration Environment)と呼ばれるものです。
続けて、イノベーション加速支援環とされる代表的な「場」として、以下のような施設があります。
○イノベーションセンター:顧客とソリューションを共創する場
○リビングラボ:プロダクト的に社会実験のための場
○フューチャーセンター:社会変革を伴なうテーマを創出していく場
会員制のコミュニティベースで協働・共創を前提とした、コワーキングスペースもカウントされるようです。
くわえて、イノベーション加速支援環境を持つ「場」は、アナログとデジタルが融合する他、多様なステークホルダーとも連携を促す場となることから「WISE PLACE=賢い場」とも定義されているようです。
(サードプレイスなら聞いたことがありましたが、こういった場も存在するんですね)
もちろん、場さえ作ればイノベーションが起こるのであればそんな簡単な話はありません。
他方、今野氏らはイノベーションの起因として「知識創造」プロセスの有用性についても触れ、そのプロセスには、SECIモデルが有効であるとしています。
当モデルは、一橋大学の野中郁次郎氏と竹内弘高氏らが提示した広義のナレッジ・マネジメントのコアとなるフレームワークです。
当モデルは、知識変換モードを4つのフェーズに分けて考え、それらを下図のようにグルグル~とスパイラルさせ組織として戦略的に知識を創造し、マネジメントすることを目指します。
○共同化:暗黙知から暗黙知=創発場
共同化とは、経験を共有することによって、メンタルモデルや技能などの暗黙知を創造するプロセス。暗黙知を共有する鍵は“共体験”。
○表出化:暗黙知から形式知=対話場
表出化とは、暗黙知を明確なコンセプト(概念)に表すプロセス。表出化は、対話(ダイアローグ)・共同思考によって引き起こされます。
○連結化:形式知から形式知=システム場
連結化とは、形式知同士を組み合わせてひとつの知識体系を作り出すプロセス。この知識変換モードは、異なった形式知を組み合わせて新たな形式知を作り出します。
○内面化:形式知から暗黙知=実践場
内面化とは、行動による学習と密接に関連したプロセス。形式化されたナレッジが、新たな個人へと内面化されることで、その個人と所属する組織の知的資産となります。
(最初は、んん?なんじゃこりゃって思ったんですけど)
○暗黙知は、「自分だけがもつ経験による技術や知識」(料理で例えると、一流のシェフが多くの経験を積んで得た技術や知識のこと)
○形式知は、「組織的に共有されるようになった手法や事例・マニュアル等」(料理で例えると、レシピ本などコンテンツ化されたもの)
と聞くと、このエコサイクルが出来れば最高だなぁと感じました。
確かに、「組織」対「組織」で連携してイノベーション起こしましょうといっても、ミクロでみれば「個人」対「個人」によるやり取りで、対話によって情報交換して相互主観が補完されないと話も前進しないもんなぁ…なんて。
4、人は「目的」により駆動する
これまでイノベーションを起こすための場や知識創造のプロセスについて触れてきましたが、今野氏いわく人が動く理由は「目的」であると述べています。
さらに、それは「善い目的」でないと人の駆動力は十分に発揮されないとも指摘しています。
「善い目的」とは、例えば、2項でも触れた国内外の市場や地球環境の変化において、地域経済の振興や地球環境に配慮したサステナビリティを背景とした改善や提案などがあげられるでしょう。
その目的が具体的であればあるほど共感人材が現れ、協力者といった関係人口が増えることも考えれるかもしません。
多くの企業あるいは大学等も、新しい時代に向かって何を目指せばいいか悩んでいる現代において、いかに全体を俯瞰して『善い目的』を創れるか、ということは現代のテーマともいえます。
一方で、例え「善い目的」があったとしても知識創造させる仕掛け(プロセス)がなければ全体を駆動させることは難しいかもしれません。
◆あわせて読みたい記事
FCAJで実際に場の研究を行っている「きびゆりえさん」の記事では、目的の明確さや「場」を起点とした具体的な取り組み手法についても触れらています。
そのため、自社あるいは自学が保有するリソースから、本当に必要なサービスを届ける人は誰か、あるいは支える人達は誰か、といった課題の本質を捉え、それに応える必要がある思いました。
5、まとめ
以上、今回はオープンイノベーションが求めれる背景から目的までを述べてきました。
今回、書籍をまとめる上で、イノベーションやそれをドライブするための場は、企業だけでなく大学にも必要ではないかと感じました。
大学は元々、社会や地域における知の拠点であり、ダイバーシティやパブリックを基礎にしています。一方で、その活動をさらに推進するために産学連携を進めています。
例えば、大学の取組を企業に対して紹介するため、文科省・経団連・経産省とともに「大学ファクトブック2020」を公表しています。
このファクトブックの目的は、大学と企業のマッチングが一層促進され「組織」対「組織」の取り組みが本格的に実装され、産学連携を拡大していくことです。
とはいえ、マッチングするにしても目先の研究シーズと掛け合わせるだけのサービス開発だけでなく、出来れば大局的な視点で善い目的を立てた延長線上によるイノベーションを考えられればいいのかなぁ…なんて思いました。
そのため、例えばイノベーション加速支援環境の一つであるリビングラボ機能を学内に設置し、そこに「善い目的」を纏わせ、今後のオープンイノベーションを振興していく姿勢を内外に示すことも出来るのではないか、とも思いました。
そして、そういったプロダクト的に社会実装できるエコシステムこそがVUCAといった不確実な現代において正解を導き出す手法の一つなのかもしれませんね。
今回まとめるにあたって参考にさせていただいた書籍はこちらの2つです。
◆著者:今野登氏,一般社団法人FCAJ・目的工学研究所
実際にイノベーションを起こす上で必要となる手法を「目的工学」として位置づけ、その実践について事例を踏まえ述べられています。
◆著者:神戸大学大学院 尾崎弘之教授
自前主義からの脱却、オープンイノベーションの必要性とそれらを実践する日本企業の事例について解説されています。
最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。
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