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なぜ科学者は研究不正をしてしまうのか?

ここ数年の間に、少し思い出してみるだけでも

医学部不正入試問題や研究費の不正受給など、大学による不正行為が立て続けに起きたなぁという記憶があります。

以降、大学運営に関してマスコミをはじめとする追求や、世論からの興味関心もより一層増しているように感じます。

そういえば、大学を舞台にした松坂桃李さん主演のNHKドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』が以前ありました。

ドラマでは、大学における「財政難」「ねつ造・改ざん」と様々な不祥事や問題が発生する、といった大学に勤める身からすると胃がキリキリするような内容を取り上げており、なんか暗~いドラマそう…

と思ったら、シビアな問題をコメディタッチで描いている一方で、「確かにそうかも…」と納得するところもあって、すごく面白いです👏

ちなみに、大学には自治があるといえど、例えば文科省による公的な競争資金は税金によるものですので、その研究費等を不正使用あるいは受給することは当然許されません。

また、日本国内における論文の「ねつ造・改ざん」といった研究活動における不正行為に関しても同様で、研究者へのペナルティが情報公開されています。

職業柄、私も科研費サポートをすることがあります。

「なぜ研究不正をしてしまうのだろう?」と考えるようになり、

何か分かりやすい書籍はないかな…と調べてみたら色々あった中で、レビュー評価が高いと思った以下の書籍を購入。

著者:黒木登志夫
出版社 : 中央公論新社
発売日 : 2016/4/19
ページ数: 302ページ

本書は、特に論文撤回における『ねつ造・改ざん・盗用』といった42個もの事例を取り上げたケーススタディ本となっています👀

あのSTAP細胞事件についても触れており、事例を読み進めるうちに、本当にあった怖い話のように感じてきて、少し背筋が寒くなりました…。

また、文末の章では「研究不正を防ぐにはどうしたらいいか?」といった組織防止策の提案も含まれており、大変参考になりました。

では、今回もアウトプットしていきたいと思います。


世界の論文撤回数ワースト・ランキング

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白楽の研究者倫理」のブログによると、研究不正による『世界の論文撤回数ワースト・ランキングTOP10』に日本人が4名もランクインしています。

さらに上位では、2位を除き1位、3位、4位が日本人の方です(2021年4月30日時点)。

中でも、生命科学を専門分野とする研究者の方が多いようです。

そして、2000年代以降は論文の撤回頻度も急速に増え、例えば2014年の論文撤回数は500報だった数が翌年には684報にも増えたようです。

これだけの論文が撤回されていると聞くと非常に残念ですが、、、

一方で、研究不正が摘発され、確かでない論文がそのまま世に残らないことは、ある意味で浄化作用が働いているとも受け取れます。

その背景について著者は、研究不正における研究コミュニティ間の意識向上が要因であると指摘しています。

ただ、発表した論文データに間違いがあったとしても、ほとんどの場合は訂正で済むことが多く、よって論文撤回のケースは非常にまれということです。

論文の訂正率・撤回率については、黒木登志夫先生による学術フォーラム(2015)「研究不正Scientific Misconducts」の中でも記されています。

では、なぜ論文撤回までいってしまうのか?

それは、研究者が”故意に”ねつ造や改ざんをしているといった事が深く関わってきます。

大学の財政難が研究不正の温床に?

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文部科学省のガイドライン「研究活動の不正行為等の定義」では、以下3つを特定不正行為として位置づけています。

(1)ねつ造
存在しないデータ、研究結果等を作成すること。
(2)改ざん
研究資料・機器・過程を変更する操作を行い、データ、研究活動によって得られた結果等を真正でないものに加工すること。
(3)盗用
他の研究者のアイディア、分析・解析方法、データ、研究結果、論文又は用語を、当該研究者の了解もしくは適切な表示なく流用すること。

(その他、不正行為には、論文の重複投稿や不適切なオーサーシップなどもあります)

なお、アメリカ研究公正局の調査において、生命科学系の事例133件のうち、重大な不正が行われたとされる分布が以下の通りまとめられています。

◎改ざん:40%
◎ねつ造+改ざん:27%
◎ねつ造:22%  
◎盗用:6%    
◎改ざん+盗用:4%
◎その他:1%

この数値で見ると、「改ざん」が最も多く、次いで「ねつ造+改ざん」、「ねつ造」と続き、この3つを合わせれば約90%にも昇ります。

著者は、このような研究不正が助長された原因の一つとして、「2004年(平成16年)からの国立大学法人化」後の大学の財政難が考えられると指摘しています。

文科省(2020)『国立大学法人運営費交付金を取り巻く現状について』によると、法人化となった2004年以降、国立大学の運営費交付金は常に減少し続けています。

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(この数十年で10%も減少していることが分かります)

よって、より高度な研究となれば自前での資金繰りでは厳しく、科研費などの競争的資金へ頼ることになります。

しかし、科研費採択率は30%以下で常に採択されるわけではない上に、申請数・競争率は年々増加しています。

(▼科研費については、過去の記事でも触れています)

以下では、研究不正をはたらいてしまう極端な例を示したいと思います。

ケース(1)研究費ほしさのため
運営費交付金の減少により教員(研究者)人材を増員出来ない⇒よって研究以外の業務(例えば教育)に充てる時間が増え、研究時間を十分にとれない⇒このままでは科研費がとれない⇒申請書類にありもしないことをねつ造してしまう

ケース(2)自身の出世欲のため
科研費がとれず論文数が増えない⇒自身の出世に響く⇒教授によるパワハラが研究室内で続く⇒教授の期待に応えるデータが揃わず不機嫌に⇒大学院生や研究員が追い込まれる⇒期待に応えるため、あるいは指示によってデータを改ざんしてしまう

このように、大学の財政難が研究不正の温床になっている可能性があるかもしれない一方で、もちろんほとんどの研究者は不正をしていません

しかし、研究活動における不正行為の事案が後を絶たたず、日本はいつの間にか研究不正大国となってしまいました。

これら背景として、文科省は2014年に「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」を定めています。

この中で、研究倫理教育の強化など研究不正に対する体制整備が求められ、今や研究者だけでなく学生にもリテラシー教育が義務付けられています。

一方で、著者は「それでも研究不正はなくならない」として、このような事態が起きる前、つまり組織全体で研究不正を未然に防ぐ風土づくりの必要性を説いています。

研究不正をなくすには

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研究倫理教育の徹底のほか、組織単位で出来ることをいくつか抜粋したいと思います。

○研究不正の「ヒヤリ・ハット」検討会
病院のように医療従者らが「ヒヤリ」とした経験や、「ハット」した症例を持ち寄る検討会を模範し、定期的に開催することで学内の「ヒヤリ・ハット」データを蓄積する。

○風通しのよい研究室運営
先述したケース(2)のようなクローズドな研究室は特に危険で、研究不正予備軍になりかねない。そのため、自由に意見を交換できる研究室を超えた学生と教員の交流の場を設ける。

○共有化の確保
病院の電子カルテの共有化のように、研究データを実験ノートの段階から登録し、論文投稿の際には論文に掲載されているオリジナルデータを提出させ、サーバーで共有管理する。

○研究組織の責任
新たに教授などを雇用する際、人事だけで管理するのではなく、研究公正室のような部署で研究業績に注目すると同時に研究不正、撤回論文、ハラスメントといった情報についても考慮する組織体制を。

研究不正について厳しく問う一方で、著者は、「組織による厳しい統制は、学問を殺すことになりかねない」とも述べています。

つまり、研究とは自由な発想をなくして成り立たない、という矛盾も抱えているのです。

最後に

研究者も人である以上、間違いを起こすことは当然あります。

この書籍を読んでショックだったと同時に、研究不正の恐ろしさ知りました。

故意による不正は当然厳しいペナルティを受け、例えば公的研究費を私的に利用すれば刑事事件の扱いになります。

つまり、良い事は何もありません。

しかし、国が定めたガイドライン以降も、多少ですが不正事案は起きているようです。

ちなみにアメリカでは、特に医療に関する研究不正に対して、刑事事件とすることに躊躇がないようです👀

今後、日本でも不正事案が重篤化していくようであれば刑事事件の判例も増えていくかもしれません。

それはあまりにも悲しすぎますし、それでは研究者を目指す若者や子供たちが減る可能性もあり、日本の将来が危ぶまれることになります。

研究不正を全てなくすことは難しいかもしれませんが、若い研究者へ明るい道を照らすため、組織風土の改善など出来ることから取組み、次代の科学者をサポートしていきたいと思います。

最後に、参考書籍のご紹介をして終えたい思います。

最後までお付き合いいただき
ありがとうございました。
Twitterもやっています。@tsubuman8

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