マガジンのカバー画像

思わず引き込まれた話のまとめ

152
ついつい語り口に引き込まれて最後まで読んで感服した話のまとめ。
運営しているクリエイター

2022年4月の記事一覧

いつだって、甘やかしごはんだった

対面キッチンのある食卓は、実家の東側の一番大きな部屋にある。 食卓に朝日が差し込む前に、支度をはじめるのは、父だった。 私が起きる頃には、すっかり朝の支度は整っている。私は寝ぼけたまま、食卓につき、目の覚めるようなおいしさの朝ごはんを口にして、私の一日が始まるのだ。 父が平日の朝につくるものは、ほとんど決まっていた。 具だくさんのおみそしると魚の塩焼き。鮭とカツオの塩焼きの出番が多かったが、カレイやサバ、ホッケ、サンマ、メバル、メヒカリなどいろんな魚が食卓に並んだ。 ねぎ

乙女心は、永遠に

「名建築で昼食を」という日本のテレビシリーズをアマゾン・プライム・ビデオで鑑賞したのだが、これがとてもよかった。 前々から存在は知っていたのだが、普段、海外のドラマや映画ばかりに夢中な自分はずっとスルーしていたのだ。だが、つい先日夫が「これ君、きっと好きだよ」と言うので試しにみはじめたら、あっという間だ。建築の美しさや背景に惚れこみ、最後は心があたたかくなる。 ストーリーは、カフェ開業を夢見ている池田エライザ演じる藤(ふじ)が、インスタで「ちあき」という人物が撮る「乙女建

雨上がりの夜に教えてもらった、優雅な朝

挽き立ての豆で淹れたコーヒーと、焼き立てのパン、じっくり煮込んだスープに、サニーサイドアップとこんがり焼けたウィンナー。 そんな優雅な朝食をとる休日の朝、思い出す夜がある。 数年前のある夜のこと、私は雨上がりの街中で、Yさんを待っていた。 待ち合わせ時間を少し過ぎた頃、通りの向こうからYさんが、白いロングスカートを靡かせながら歩いてくる。Yさんは、私を視界に認めると、急ぎ足になった。 「雨上がり」というこの夜の天気を私が覚えているのは、濡れた地面がYさんの白いスカート

桜餅の葉っぱ、食べますか?

ナースステーションの受付には「職員へのお心づけは固く辞退申し上げます」と貼り紙がしてある。 しかし、患者さんやご家族から「感謝の気持ちだから、どうしても受け取ってほしい」と言われることも多く、お菓子はありがたくちょうだいしている。 今日もお昼を食べていたら、同僚が高級そうな包装紙に包まれた大きな箱を持って休憩室に入ってきた。午前中に退院した患者さんからのいただきものだという。 「生ものだから、今日中に食べてって言ってたけど……」 と言いながらふたを開けた彼女が「すごーい!」

188 見えない相手の笑顔が見たくて

「リモートワーク」という働き方を始めて、10カ月ほど経った。 私の仕事は、主にコラムを執筆したり、専門用語や法制度の解説文を書いたり、文章の校正を行うことである。知人には「フリーライター」と言われるが、そんな大層なものではなく、頼まれた文章に取り組む「書きもの専門の内職屋」の方が正確だ。数社と契約しているが、どの会社も私の住んでいる地域外にあるため、仕事のやり取りはメールかビジネスチャットで行う。 リモートワークを始めて感じたことは、だれかと直接会わずに仕事をする気楽さで

つれづれ雑記 *幸せの青い鳥が来た、の話*

 メーテルリンクの有名な戯曲に「青い鳥」がある。  チルチルとミチルの兄妹が、幸せをもたらす青い鳥を探して旅をする物語だ。  2人は、過去の国、未来の国、夜の国、などいろんな国を探してまわるが見つからず、結局、家に戻ってみると兄妹の家に青い鳥がいた、というお話だったように思う。  実は、我が家(の近く)には「幸せの青い鳥」がやって来る。    大きさは、鳩より少し小さい。  雄は、頭から背中、翼にかけてきれいな青色をしていて、おなかは鮮やかなオレンジ色している。  カワセ