見出し画像

【1分小説】ニワリーとパンケーキの国



ある朝、ニワトリのニワリーはお腹を空かせて目を覚ましました。エサ箱を覗いても、やはり今日も空っぽでした。

今はニワリーしか住んでいないこの古い鶏小屋も、かつてはとても賑やかで、毎日山盛りのエサが配給されていました。そして沢山の仲間達と広大な庭に出て一緒に虫を見つけたり、歌を歌ったりして遊んでいました。

今日もひとり、ニワリーは広い庭を散歩していました。
「はぁ、今日は何を食べようかな」とため息をつきながら、歩いていると、空から突然何かが降ってきました。
「何だろう?」とニワリーが見上げると、ふわふわとしたパンケーキが舞い降りてきました。
「パンケーキだ!」
ニワリーは大喜びでパンケーキに駆け寄り、夢中でつつきました。何度もつついていると、パンケーキの中から小さな妖精が現れました。
「こんにちは、ニワリー!私はパンケーキの国の妖精、スフレだよ」
ニワリーは驚き、羽をバタバタさせました。
「驚かせちゃってごめんね」
スズメくらいの大きさの小さな妖精スフレはパンケーキの上に座って微笑んでいました。
「パンケーキの妖精が私に何の用なの?」
「ニワリーが毎日お腹を空かせているのは知ってるよ。それでね、私たちの女王様がニワリーをパンケーキの国に招待しなさいって。ねぇニワリー、パンケーキの国に来ない?」スフレはにこやかに言いました。
「パンケーキの国?私パンケーキの国に行けるの?」
「もちろんよ!さぁ、行きましょう」

スフレは魔法の杖を振り、ふたりはあっという間にパンケーキの国へと移動しました。そこには、巨大なパンケーキの山やシロップの川、ベリーの森やホイップクリームの雲など、スイーツでできた甘い世界が広がっていました。


「わあ…凄い…」ニワリーは辺りを見渡しながら目を輝かせました。
「全部食べられるの?」
「もちろん!」


するとパンケーキの住民たちがニワリーの元へ一斉に集まりました。妖精たちは小さな羽をパタパタさせながら、ニワリーの周りを舞い踊り、甘い香りの花びらを撒き散らしました。
「こんにちは、ニワリー。パンケーキの国へようこそ!」と彼女たちは口々に歓迎の言葉をかけ、笑顔で出迎えました。

その時、中央に立っていた美しい妖精が進み出てきました。彼女はパンケーキの王冠を頭に載せ、ふわふわのドレスをまとっていました。
「私はパンケーキの女王、シフォーヌよ。ニワリー、私たちの国に来てくれて嬉しいわ」シフォーヌは優雅に微笑みました。

「あ、ありがとうございます女王様。招待してくださって、とても嬉しいです!」ニワリーは少し緊張しながら答えました。

「今日はあなたを特別に歓迎する日よ。さあ、パンケーキの盛宴を楽しんで!」

ニワリーは大喜びでパンケーキを食べ始めました。色んな種類のパンケーキを堪能し、全身甘いソースやアイスクリームまみれでベトベトにしながら夢中で食べました。
「こんな日が来るなんて夢みたいだなぁ」生まれて初めて味わう至福の時間にニワリーは心もお腹も心地よく満たされました。
そしてお腹いっぱいになるとニワリーはパンケーキの上に横になり、甘い眠りに誘われるように目を閉じました。



次に目を覚ますと、ニワリーはいつもの鶏小屋にいました。
「あれ?パンケーキの国は?」
辺りを見回しましたが、パンケーキの国の痕跡はどこにもありませんでした。
ニワリーはがっかりしてうなだれました。エサ箱を確認すると、やはり空のままです。

ニワリーは少し元気を取り戻して、広大な庭へと出発しました。
「お腹空いたなぁ」
今日は何を食べようか考えながら、草をつつき、小さな虫を探して歩き回りました。

すると地面に一つのパンケーキが落ちているのを見つけました。
「パンケーキだ!」 

ニワリーは大喜びでパンケーキを口にしました。ふわふわの生地と、とろけるような優しい甘さは、夢の中で食べたパンケーキと同じでした。パンケーキには小さな文字で「Dear ニワリー」と書かれていましたが、ニワリーは字が読めず気付きませんでした。
そして小さなパンケーキはあっという間に無くなってしまったのでした。

ニワリーは古い鶏小屋と広大な庭で、またひとり静かな生活が始まりました。エサ箱は相変わらず空のままです。
ニワリーは時々かつての仲間たちと過ごした日々を懐かしく思い出しながら、毎日虫や雑草を食べ、木陰で休みました。
そしていつかパンケーキの国からの招待が再び訪れることを待ち望んでいましたが、その日が来ることはありませんでした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?