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ドル建て保険を買う人、売る人

「ドル建て(一時払い)保険を勧められました」

という人が多い。勤めていた会社を退職すれば退職金が入る。それを目当てに銀行の窓口の人が勧める商品のトップバッターがこれのようだ。一昔前なら毎月分配型の投資信託「グローバル・ソブリン・オープン」だったかもしれない。銀行の窓口の販売員はリスク商品(元本の保証のない商品)の販売が得意ではないため、本部や支店レベルで作られたマニュアル通りに勧めているだけではないか、と勘繰りたくもなる。

私を含め、金融機関で専門的な仕事(商品開発など)に従事した経験のある人ならば外貨建て(その多くがドル建て)保険は「買う人も、売る人もちょっとなあ」と思うような商品なのである。

為替に依存した外貨建て保険のリターン

金融庁の2024年4月に公表された資料を引用する。

https://www.fsa.go.jp/news/r5/kokyakuhoni/202403/01.pdf

この資料の3ページ目にあるように、外貨建て保険の円建てに換算したリターン(収益率)は、解約時あるいは満期時の為替レートに大きく依存している。満期まで持つ例が少なく販売員に契約後4-6年で「ターゲットに達した」と途中で解約させられる、その時、解約のペナルティが差し引かれるが、円安になったから少し儲かった、ほぼそれだけなのである。それだけのことに、なぜ長期に資金を固定させ、保険契約に伴う不要なコストや解約時のペナルティを払う必要があるのだろうか?

そんな商品、必要ない。定年後には不向き。

そもそも日本人の大半がそんな商品、必要ないでしょう。特に定年退職した60-65歳当たりから一時払いで10年の間資金を固定させるなんて愚の骨頂だ。定期的な収入が減る状態になれば、資金は長期に固定させないのが資金運用の鉄則。だから定年を過ぎれば株式などリスク資産は徐々に減らしていくものだとされている。

「ドルで元本が戻ってくる」「ドルで〇%回ります」

しかも「ドルで元本が戻ってきます」「ドルで〇%程度回ります」って言われて喜んでしまう方がいるようで。それは別に高度なテクニックでもなんでもない。契約者から受け入れたドル建ての資金を10年ドル建ての投資適格債に塩漬けにして償還まで持っていれば、発行体のデフォルトがないと仮定すれば素人でもできる投資だ。ドル建て債券そのものは証券会社で買える。保険商品の場合に差し引かれる内部コストもない。ドル建て債券は途中で売却もでき売却時の「ペナルティ」はなく、保険契約より割安だ。

ついでに言っておくと「ドルで元本が戻ってきます」は「円では元本が棄損する恐れがあります」の言い換え。そんなリスクを取るだけの余裕があるなら、NISAで世界株式インデックスファンドでもやれば、と突っ込みたくなる。10年以上資金を固定し海外投資するリスクを取れるなら、株式投資の方がはるかに期待リターンは高い。定年後の人にはあまりお勧めしないが。

より有利な代替商品があることに気づいて!

銀行員や生保の営業員がなぜドル建て保険を「アメリカの金利の方が高いですよ」と売り込んでくるか。理由は複数あると考えている。
1)ドル建て保険は売る側にとって儲かる。保険金の数パーセントは売り手の懐に入る仕組みになっているが保険商品には法的なコスト開示義務が課されていないので、販売員はコストの説明を省略できる。顧客は説明がないのでコストを意識しないで契約を結んでしまう。
2)アメリカの金利が高いので(為替変動リスクをとっても)それを享受したい、という顧客に勧めるのに都合がいい。証券会社であれば米ドル債そのものを販売できる。銀行は証券仲介でないと売れない。また、証券会社には証券会社の社員も(儲からないので)積極的には薦めない「外貨MMF」がある。銀行には外貨預金があるが、外貨預金は長期に資金を固定できないので保険と預金なら保険を勧める。
3)日本人は保険が好き。「保険」と聞くだけで金融商品へのガードが緩む。一時払い保険は本来保険というより投資性の金融商品なのだから、より安価で流動性リスク(資金固定リスク)の少ない代替商品を検討すべきだ。

「資金固定リスク」に敏感になって!

将来ドルでお金を使う予定があるわけでもないし、為替が円高に振れて為替差損の恐れもあるかもしれない、それがわかったうえでも、まだドル建ての「金利商品」に投資したいという固い決意を抱く人には、どうぞ、としか言えない。だが「保険契約で資金を長期に固定する必要があるか?」だけは考えて欲しい。

上記のように、米ドル建て長期債を直接買う方法も、短期金利に連動するドルMMFを買う方法もあるのだ。いずれもネット証券で購入できる。ドルMMFに至ってはいつでも解約自由だし、運用会社によるが一か月以上経てば解約時のペナルティはゼロ、収益に対する税金がかかるだけ。米ドル債もいつでも購入・売却できる。ただし米ドル債といってもその発行体は様々で信用リスクも幅があるので、投資経験のない方はまずドルMMFからがいいだろう。

とにかく人間、60歳を超えたら「10年以上資金を固定させ、中途解約したら元本が棄損する」ようなペナルティありきの契約はしないこと。定期的な収入が減る、または途絶える時期に、資金を長期に固定するリスクはNGである。これだけ覚えていただければ合格点!(終わり)



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