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「分配」はただの念仏。(その1)

「未来を変える選挙」なんだろうか?

来週末は衆院選挙ですね。私は正直、今回どの政党にも投票したくない気分です。というのも、程度の差はあれ、どの党も「より多くの分配を行う」という公約を掲げているからです。

有権者の中には、物事の本質をわかっている方もいると思います。ですが、この選挙が「未来を変える」選挙だという誤解のもとに、張り切って投票に足を運ぶ有権者は、いったい政治に何を期待しているのでしょうか。

日本はすでに「分配大国」です

野党が言うのは「分配を増やす」です。どうやら彼らが言うには日本は「分配が足りてない」らしいです。貧富の格差があって、アベノミクスがそれを強めたって言ってます。本当でしょうか?

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2021年度の国家予算です。社会保障費は33.6%となっています。さらに、生活保護の財源になっている地方交付税交付金等が15%。これだけで48%超を占めています。もちろん地方交付税のすべてが生活保護費ではありませんが、少なくとも国家予算の3分の1がすでに「所得の再分配」に使われているのです。

このうえ、どの程度を「分配」に回せと言うのでしょうか。日本は巨額の財政赤字を抱えているため、超低金利のいまの環境でも、予算の2割以上が国債費になっているのが現実です。増税をせずに国債を増発すれば国債費は当然増えます。

平均給与の低迷の方が大問題

野党が「格差」「格差」と言いますが、日本でそれほど格差が広がっているのでしょうか?答えはNOです。なぜなら、格差を主張する野党はどこも具体的な数字を出してこないからです。それもそのはず、実際には日本は全体として世界で貧しくなっており、購買力を加味した実質給与は20年間下がり続けているのです。

この記事がいうように過去20年で日本以外の先進国ではおおむね平均給与は上昇していますので、日本人は相対的に「貧乏」になっているといえます。また、同時に円の購買力も落ちていますので、外国人から見れば日本で化粧品や家電の買い物をするのが理にかなっていると同時に、海外旅行が日本人にとって割高なものとなったり、最近のエネルギー価格の上昇などの一因にもなっているのです。

「分配」では解決できない

「分配」とは「お金のあるところから税金をとって、ない人に分け与える」ことですが、この方法では日本全体の実質給与が世界の中で低下している問題は解決できません。私はずっと外資系金融機関で働いており、世界と比べた日本の雇用慣行の問題を肌で感じていますので、一般的なサラリーマンよりはこの問題を理解していると思います。

東洋経済の記事の著者は様々な要因をあげていますが、その中でも大きいのが①人材流動性の低さ ②給与の上方硬直性 だと思います。またこの筆者は否定していますが「正社員の(能力を理由にした)解雇ができない」というのは実に大きな問題です。例えばリーマンショックなどの大きな減収要因があれば正社員の雇用調整も可能になりますが、そうでなければ、会社に来ているだけでほとんど仕事をしていない(あるいは給与に比して仕事ができない)正社員を辞めさせることは至難の業なのです。

一方、働き者で優秀であっても、非正規雇用の従業員は容易にリストラされます。結果として「働かない正社員」が残り「優秀な非正規」が辞める。これでは企業の生産性は上がりません残業も減らないし、士気も下がります。実際、外資系であっても、明らかに問題のある社員を解雇して会社側が裁判に負けた例をいくつか知っています。労務問題については、共産党系の弁護士が非常に優秀なのだと聞きました。

アリよりキリギリスが得する社会

私は、この状況を「アリよりキリギリスが得をする社会」と呼んでいます。いったん正社員になってしまえば、よほどのことがない限り首にはならないし給料も下がらないということを悪用する、あるいはそれに甘える層がおり、非正規の人あるいは誠実な社員たちがその犠牲になっているのです。

日本の社会保障制度も同じ矛盾をはらんでいます。「第3号被保険者」という言葉を知っていますか。年金の保険料を一切払わずに、しかし満額を受け取ることのできる「主婦」(主夫も)がそれです。彼女たちは払えないから払わないのではありません。年収が平均より高い世帯も含めて、二人分の年金をもらうために一人分の保険料を払うだけで済むのです。では彼女たちへの支払い分は誰が負担しているのでしょう?年金基金全体で「共助」すると同時に、公的年金の場合は不足分を国家予算から(つまり税金から)補填しているのです。これ、変だと思いませんか?

第3号被保険者は年間130万円まではパートなどで稼ぐことができます。これは税金の「扶養控除」と似た仕組みです。つまり、結婚あるいは内縁関係にあり相手が第2号被保険者なら第3号被保険者の分の保険料は納めなくても満額保険料をもらえ、税控除も受けられるのです。これは完全な共働き家庭や単身者からしてみれば、全く納得のいかない不公平な制度です。何しろ働いて税金と保険料を満額納めた方が損をするのですから。

日本で結婚しているカップルのうち片方が必ず第3号被保険者というわけではありません。しかし一時期であれ、扶養の状態になっている妻は一定割合いることでしょう。このような不公平に加えての少子高齢化で、日本の公的年金制度は税金からのミルク補給なしにはやっていけなくなり、上の円グラフのような矛盾をはらんだ「分配」を続けているのです。

政治家は不公平を正そうとはしない

しかし、選挙でこのような不公平に言及する政治家は一人としていません。もし不公平を認めれば、与党はいままでやってきたことを自己否定することになりますし、何より既得権益を守りたい主婦層やその配偶者からの票を丸ごと失うことになります。一方の野党も、キリギリスがより得をするベーシックインカムだの、子育て応援金だのと景気のいいことばかり言って有権者の機嫌をとることしか考えていません。

これ以上の分配は、より多く働いて税金をより納める「働きアリ」から一層の搾取をすることに他なりません。岸田総理は「金融所得課税」も将来的に考えているようですが、それこそ「自分で稼いで自分の老後は自分で守る」と決めている働き者のアリたちを馬鹿にしていませんか。これでは、NISAやイデコを導入して、国民の老後の自助を促そうとしてきたこれまでの政権の努力も水の泡で、いよいよキリギリスを増やすだけです。

なぜ「もっと分配を」という話になってるの?

日本では労働法制が正社員をがちがちに守っているので、企業で働くこと自体が「共助」になっています。諸外国では会社の中でできない人とできる人が支え合うような仕組みはありません。しかも、第3号受給者に見られるように、パートでお小遣い稼ぎをする程度の余裕のある家庭に対してなぜか「共助」で年金が払われています。(余裕のない家庭なら主婦も130万以上かせごうとするはずですよね?)

なのに、今の日本で「もっと公助を」「もっと分配を」という政治家がいるのはなぜでしょう。いま、日本の平均給与が上がらないのは「企業内の行き過ぎた共助」のせいだというのに、それを正そうとしないのはなぜでしょう?それは「もっと分配を」という時、有権者が「自分がもらえる」と思っているからだと思います。しかも「分配」と言われると複雑な社会の仕組みについて考えることなく、「好き」か「嫌い」で投票でき、頭を使わないで済むのです。そのため、政治家が難しいことを説明せずに簡単に票を集める手段として使っているだけです。

しかし国家による分配は結局は税金から出ていくものであり、自分が得をするとは限りません。上記のように、必要としない人(主婦層)に共助が行われ、知らない間に自分が損をしている例もあるからです。私はむしろ今後は自助をする人を優遇するNISAやイデコを恒久化すべきだと思います。それが頑張った人ほど報われる仕組みだからです。

次回は「分配」はもうできないし、できたとしても成長にはつながらないことを述べていきたいと思います。(続く)


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