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クリスの物語(改)Ⅲ 第二話 下校

 部活を終えた紗奈は、着替えを済ませて教室に向かった。
 バスケ部は、いつも女子の方が終わるのが早い。それもあって近頃はクリスと一緒に帰ることがなくなり、同じバスケ部に所属する姉のあずさと帰ることが多くなっていた。

 その日も、女子が後片付けを終えて体育館を後にしたとき男子はまだ片付けさえ始めていなかった。
 でも放課後職員室へ呼ばれたクリスが気になり、紗奈は男子バスケ部が終わるのを待つことにしたのだった。

 教室には、男子がふたり残っていた。机を挟んで向かい合って座り、紙を広げて何かしている。
 別の小学校から上がってきた生徒で、あまり話したことはない。たしか、演劇部に所属していたはずだ。

 教室に入ってきた紗奈を見て、ふたりは焦ったように広げていた紙を仕舞うと、いそいそと立ち上がった。
 それから「松木さん、バイバイ」と、はにかみながら手を振った。咄嗟に紗奈が「バイバイ」と手を振り返すと、ふたりは顔を赤らめ嬉しそうに教室を出て行った。
 紗奈は首を傾げてから、自分の机の端に腰かけた。

 部活を終え、同じバスケ部のクラスメイトと教室へ戻ったクリスは、紗奈の姿を見て驚いた。
 『どうしたの?』と思念で語りかけると、『ううん』と紗奈は小さく首を振った。

 それから『今日一緒に帰ろう。玄関で待ってるね』と思念で返した。そして無言で教室を出て行った。
 クリスは何があったのだろうと不審に思いながら、体操着を脱いだ。

 中学に入ってから、紗奈と一緒に帰ることはあまりなくなっていた。部活が終わる時間が違うというのもあったが、理由はそれだけではない。
 中学に入ってから、紗奈の人気が更に高くなっていた。そのため、紗奈と仲良くしていることで変に勘違いされたり、先輩たちからも紹介しろと言われたりすることが多くなったのだ。

 そういったことがクリスには疎ましかった。そして一緒に帰るのを避けるようになっていく内に、自然と別々に帰るようになっていた。

 制服に着替え終えると、クリスはバスケ部の友達に別れを告げてから急ぎ足で玄関へ向かった。紗奈は、下駄箱に寄りかかって待っていた。
 クリスが「待たせてごめん」と謝ると、紗奈は小さく首を振って先に歩き出した。クリスは急いで靴に履き替え、後を追った。

 一緒に下校するふたりの姿を、校舎の2階の窓からじっと見つめる1人の生徒の姿があった。

 2年のサッカー部員、サカモトナオヒロだ。背も高くスポーツ万能で、少し悪びれた雰囲気もあって女子からの人気も高い。
 以前、クリスに紗奈を紹介するよう言ってきた先輩のひとりだ。

 サカモト先輩の視線に気づいたクリスは、なんとなく頭を下げた。
 紗奈もそれに気づいてちらっと上を見上げたが、特に挨拶することもなく知らんぷりをした。


第三話 紗奈の疑念

お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!