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クリスの物語(改)Ⅲ 第六話 紗奈の失踪

 部活中、紗奈はちら、ちらと男子バスケ部の様子を伺った。いつまで経ってもクリスが部活に出てこないからだ。

 部活が始まる前、クリスがサッカー部の先輩に呼ばれて少し遅れるとクラスメイトのナカジマ君が部長に報告していたのを紗奈も耳にしていた。

 サッカー部の先輩と言えば、サカモト先輩で間違いないだろう。あの人はまたクリスを使って何か伝言しようとしているのかと、紗奈はいら立った。
 もし何か伝言されたのだったら、もうこれからはそんなもの無視するようクリスに言うつもりだった。しかし、クリスは一向に現れなかった。

 しばらくして、顧問の山田先生がやってきて部長に何かを伝えた。紗奈はすかさず山田先生の思念を読んだ。

 クリスは体調不良で帰宅したと先生は部長に話していたが、どうやら実際にはサッカー部2年の数人ともめ事があったようだ。

 山田先生も詳しくは知らないみたいだった。それにあまり興味もないらしく、「今日は金曜だし、あとは生徒に任せてもう帰ろう」という怠慢な思いだけが先生の思念から伝わってきた。

 クリスの身に一体何があったのかと、紗奈は部活中気が気じゃなかった。

 部活を終えると、紗奈は一目散に部室に向かった。そそくさと制服に着替えると、校門を出てスマホの電源を入れた。
 それから電話アプリを開き、クリスの自宅に電話をかけようとした。

 すると突然、頭の中をドタドタと足音が駆け巡った。何十、いや何百人もの足音だった。
 それと同時に低いうめき声が頭にこだました。そして目の前が闇に包まれた。

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 夕食後、期末テストの勉強をしようと思ってクリスは机に向かった。
 するとそこへ、ノックもせずに母親が勢いよく入ってきた。

「今、松木さんから電話がきたんだけど、紗奈ちゃんがまだ帰ってきてないんだって」
 慌てた様子で母親が言った。クリスは机の時計を見た。もう8時を回っていた。
 下校時刻は6時半だから、どんなに遅くても7時には家についているはずだ。

「携帯電話も電源が切られたままみたいで。クリス、何か知らない?」
 クリスは首を振った。

「紗奈ちゃんのお姉ちゃんは?一緒に帰ってないの?」
「梓ちゃんは、今日塾なんだって。梓ちゃんにも聞いたらしいのだけど、知らないって。とにかく、おかあさんちょっとこれから松木さんに行ってくるから。何か心当たりがあったらケータイに電話して」
 そう言い残すと、母親はドタバタと部屋を出ていった。

 何があったのだろうか?
 紗奈の家は、門限だけは厳しいと小学校の頃からいつも愚痴をこぼしていた。真面目な性格の紗奈が、連絡もせずにその門限を破ってまでして遊びに出かけるなんてことは考えられなかった。

 クリスたちの通う学校は携帯電話の持ち込みが禁止で、ばれると先生に没収されてしまう。だから、持って行っても帰る時までは電源を切っていると紗奈は言っていた。電源が切られたままだということは、まだ学校を出ていないのかもしれない。

 ふと、クリスの脳裏にサッカー部の先輩の姿が頭に浮かんだ。もしかして、サカモト先輩たちに何かされたりでもしたのだろうか?

 クリスはいてもたってもいられなくなり、自転車の鍵をつかんだ。
 それから引き出しを開けて懐中電灯を取り出した。その時、引き出しの奥で光る銀の腕輪が目に入った。クレアからもらったミラコルンだ。

 クリスはそれも手に取って、右の腕にあてがった。ミラコルンは、ヘビのようにくるくると腕に巻き付いた。

『ぼくも行く』
 部屋を出ようとすると、ベッドに寝そべっていたベベが駆け寄ってきた。

 たしかに犬は嗅覚が優れている。ベベがいた方がいいだろう。クリスは『分かった』とうなずいて、ラックにかけたショルダーバッグをひっつかんだ。
 そしてその中にベベを入れ、家を飛び出した。


第七話 旧校舎裏倉庫

お読みいただき、ありがとうございます! 拙い文章ですが、お楽しみいただけたら幸いです。 これからもどうぞよろしくお願いします!