見出し画像

第45号 若いマウスの脳脊髄液を移植すると記憶力が回復する、汎用AIを作るために必要なものは何だと思いますか?

// 2022年5月31日 第45号
// 1. 注目ニュース:若いマウスの脳脊髄液を移植すると記憶力が回復する
// 2. 質問コーナー:汎用AIを作るために必要なものは何だと思いますか?

こんにちは、東京大学医学部附属病院で医師として勤務しつつ、池谷裕二研究室と松尾豊研究室で脳や人工知能の研究をしている紺野大地と申します。

先日発売したデイヴィッド・イーグルマン著脳の地図を書き換える: 神経科学の冒険の解説文を書かせていただきました。
この本では、「感覚追加」という神経科学における新たなパラダイムや、イーグルマン自身が立ち上げたベンチャー企業Neosensory社の取り組みなども書いており、贔屓目なしにかなり面白い一冊だと思います。

私が書いた解説文が以下のnoteで全文無料公開されているので、ぜひご覧いただけると嬉しいです😊

では、今週も始めていきましょう!

1. 今週の注目ニュース:若いマウスの脳脊髄液を移植すると記憶力が回復する

今回扱うのは、
「若いマウスの脳脊髄液を老化マウスの脳に移植すると記憶力が回復する」という論文です。

これだけでもインパクトが大きいですが、この論文ではそのメカニズムとしてオリゴデンドロサイトFgf17(Fibroblast growth factor 17)の関与を明らかにした点が素晴らしいと思います。

以下で、まずはこの研究の背景を確認します。

背景

この論文では「若いマウスの脳脊髄液を老化マウスの脳に移植すると記憶力が回復する」ことを示していますが、これは外科的に2つの生物を結合し、生理学的システム(血液など)を共有する「パラバイオシス」と呼ばれる研究の拡張版にあたります。

パラバイオシスの代表的な研究は2005年に発表された「若い個体の血を年老いた個体へと輸血すると若返り効果が得られる」という報告です。
この研究では、若年マウスと老化マウスの血管を外科的に結合して血液を共有することにより、脳細胞の増加や記憶力の向上、筋量増加や持久力向上が見られることが示唆されました。

(なお、アメリカ国食品医薬品局は2019年に若者の血の輸血で若返り効果が得られるというエビデンスは存在せず、「推奨できない」という警告を出しています。)

パラバイオシスは複数個体を外科的に結合するという点でハードルが高いため、その拡張版として「若い個体の何らかの体成分を老化した個体に投与することで、老化を回復する」という取り組みが複数行われてきました。

そして今回紹介する論文では、若い個体の「血液」ではなく「脳脊髄液」を老化した個体に投与することで記憶力が回復するということを発見しました。

従来の研究と比べて、今回紹介する研究はどんな点が優れていて、どんな点で劣っているのでしょうか?

ここから先は

3,484字

¥ 250

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?