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NPO経営者としての10年の旅路を6000字で振り返る

今日2021年5月3日で、NPO法人クロスフィールズは創業10周年を迎えた。自分としても、NPO経営者としてのキャリアを始めて10年が経ったわけだ。

尊敬するNPO法人かものはしプロジェクトが2012年に10周年を迎えたとき、創業2年目の自分たちには遠い遠い世界の出来事だと感じたのを、いまも鮮明に覚えている。でも、いよいよその日が来た。

いま、どんな心境なのか。

正直、もっと感慨深いのかなと思っていたし、何かしらをやり切った感とかがあると思っていた。でも、感慨深さなど微塵もないし、まだまだこれからだなぁという想いしかない。

ただ、それでもやっぱり、多くの方に支えられて10年間なんとかやってこれたし、その間に色々なことを経験させてもらった。その感謝の気持ちに代えて、この10年間で経験したことと、そこから得た学びを書き残したい。

節目の日だし、関係者へのあふれる感謝の気持ちを中心にセンチメンタルに書き綴ることも考えたけれど、せっかくなら誰かのためになる文章にしようと思い直した。特に非営利やソーシャルと呼ばれる分野で近しい旅路を歩むかも知れない人にとって、少しでも参考になれば幸いだ。

はじめに

僕が経営しているのは、「社会課題の現場」と「働く人」をつなぐ様々な活動を展開するクロスフィールズというNPO法人だ。ビジネスパーソンを発展途上国のNGOに派遣する留職や、国内外の社会課題の現場を体感するフィールドスタディ、最近ではVRを活用した事業なども手掛けている(詳しくはウェブを)。NPOではあまり多くない、対価性のある事業収入を主な収入源とする「事業型NPO」と呼ばれる組織だ。

創業者は松島由佳(当時25歳)と僕(当時28歳)の2名。成長スピードは緩やかながら、おかげさまでコロナ禍も含め過去10年間はずっと黒字で経営してきた。いま現在は、20人強の仲間が働くチームだ。

創業期

創業時の松島と僕。他のスタートアップが出ていったあとのスペースを期間限定で間借りしたりしながら過ごしていた。2人とも、さすがに若い、、、

そんな僕たちがどんな軌跡を描いて10年間を過ごしてきたか、4つのフェーズに分けて振り返ってみる。

①スタートダッシュ期(創業1~3年目/2011-2013)

<事業規模0~5,000万円、組織規模2~6人>

相当に実現難易度の高い「留職」という事業モデルを掲げて創業した僕たちだが、ゼロ→イチのフェーズは、まさに想いと勢いだけで突破した感覚だ。

なんの実績もなく、これからどうなるか分からないところに(おまけに金銭的なリターンなど全く存在しない)、超優秀な猛者たちが集まってくれ、日々を駆け抜けるように過ごした。ランナーズハイという言葉がピッタリで、僕自身も、寝ている時間以外はずっと仕事をしていた記憶しかない。


当時はまだ社会起業家ブームとも呼べる時期だったこともあり、青年海外協力隊・マッキンゼーという異色のキャリアを持つ僕は、よくメディアに出た。週に何回かはビジネス誌からのインタビュー取材が来ていたような印象で、新聞とか雑誌への露出も多かった。(以下は東洋経済さんの記事だけど、タイトル見て分かるように、こんな感じで色々と面白がられていた)

ちなみに、ちょうど9年前の今日は、ワールドビジネスサテライトに40分間ほどゲストコメンテーターとして出演している。(ちなみに僕が出演した翌日のゲストはZOZOの前澤社長だった)

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まぁなんというか、創業期の熱量と勢いをベースに、時代にも運にも味方されながら、多くの人たちの力を借りて、世に出ていくことに成功したという感じだ。

◎スタートダッシュ期からの学び


・改めて、やはりスタートダッシュの勢いは肝心だ。運でも時流でもコネでも、なんでも使って全速力で走り抜けるのが大事。こうした創業期のチャンスや高揚感は二度と来ないから、健全に勘違いしながら、とにかく行けるところまで突っ走るべし


・全力で走り出すのと同時に、初期の段階でビジョンやミッションを創業メンバーで話し合って明文化しておくこと。これがないと非営利組織の経営は簡単にぶれるし、また、途中で作り直すのは非常に困難になっていく


・株式会社と違い、外部VCが成長に向けたロードマップを描いたりしてくれない。なので、良いアドバイザーや理事を自ら巻き込んで経営参画してもらうべき。ETIC.SVP東京が運営する社会起業家の支援プログラムに応募し、そこで良い人と出会うのも良いかもしれない。NPO向けではないが、最近ではボーダーレス・ジャパンもこの分野の人材輩出機関として評判が高い

・クロスフィールズでは全くできなかったが、事業ではなく組織の側を見てくれる人材を初期から内部に置いておくべき。副業やパートタイムでもいいので、役職および志向性として組織を見ることができる人がチームにいることは、その後の成長を考えると生命線だ

②カオス期(創業4~6年目/2014-2016)

<事業規模0.8億~1.2億円、組織規模8~12人>


絵に書いたような混沌の時期。ランナーズハイの状態が終わり、組織への不満や、事業運営上の葛藤やモヤモヤが一気に表面化。僕のリーダーシップのあり方がチームの成長にそぐわなくなり、自分の強みがむしろ弱みとして発揮されるようになっていった。メンバーの入れ替わりも激しくなり、2016年頃は組織要因で事業の成長スピードを落とさなければいけないほど、チームはガタガタだった。

この時期に創業ストーリーやビジョンを記した本を出版したことは、なんというか、生き地獄のようだった。社会に向けて自分が語る理想と、目にしている日常での現実とが乖離していく感覚。出口のない暗闇のなかを彷徨っているようだった。思えば、創業5年目頃が一番しんどかったかもしれない。

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2016年9月にオフィスで開催した、ささやかな出版記念パーティー。真ん中にいる僕も笑顔だけど、裏側には同時進行でめっちゃ辛いドラマがあった

この状況から組織が立ち直るのには、ものすごく長い時間がかかった。多くの仲間たちが状況を打開しようと奮闘したけれど(この時期を一緒に戦った戦友的な存在には感謝しかない)、何か抗えない悪いスパイラルが働いていていて、上手くいかないことばかりだった。結果的には、創業期のメンバーが離れ、徐々に組織にコミットしてくれる仲間が増え、少しずつチーム力が取り戻されていったという流れだ。このプロセスに、数年かかった。

それでも、この間も組織としての挑戦を完全に止めていたわけではない。ここぞのポイントでは組織として起業家精神を発揮できるよう努めた。留職に次ぐ新規事業である「フィールドスタディ」をこの時期に起ち上げられたことは、次のフェーズに移行する上で大きな一手になった。

◎カオス期からの学び


・組織的な混乱は、特に非営利の組織で起きやすいように思う。定量的な指標でゴール設定ができず、また、IPOなどの時限的なマイルストーンもないため、組織がどこを向かうのかで一枚岩になるための難易度が高いからだ。こうした混乱を避けるための絶対の答えはないけれど(答えがあったらぜひ知りたい…)、僕の経験では、時間をかけて愚直に組織内での対話を繰り返すことと、自分自身のリーダーシップのあり方を見つめ直すことしか道はない

・クロスフィールズがカオスに陥った主因は、僕自身のリーダーシップのあり方だった。組織を率いる立場の人は、コーチングや360度評価などを通じ、自分の特性に対するAwarenessを早期に高めるべきだ。当然ながら、このプロセスは信じられないほど苦しい。でも、10年間で自分が1番成長したと感じるのはこの時期なわけで、いつかそう思える日が来ると思って逃げずに向き合って欲しい…


・こうした苦しい時期、心身の健康管理は本当に大切だ。リーダーがバーンアウトしてしまったらゲームセットなので、自分1人で抱えこまず、チームの仲間はもちろん、悩みを吐露できる経営者仲間や先輩を頼った方がいい

・実はこの時期、過労で倒れて救急車で運ばれたことがある。この経験で、体力自慢で走り切るスタイルがどれだけ危険かを思い知らされた。特に非営利組織のリーダーには、社会課題の当事者を大切にするのと同じか、それ以上に、ぜひ自分やチームの仲間のことを大切にする姿勢を持って欲しい


③組織構築期 (創業7~9年目/2017-2019)

<事業規模1.5億~2億円、組織規模15~20人>

創業6年目、人間で言えば小学生に入ったくらい。

カオス期のさまざまな痛みを乗り越え、徐々にチームがしっかりとしてきた。僕自身も自分の特性をようやく受け入れ、少しずつ周囲に頼れるようになった。だんだんと「互いを尊重し、弱さやもやもやを認め合えるチーム」へと進化していった。

最近は「しくじり先生」的にチームマネジメントを偉そうに語る機会もあったりする。なお、対談相手のcotree平山さんは僕より一回りくらい若いけど、10倍くらいは良いこと語っている

そして、2つ目の事業の柱が順調に育った。事業全体の規模が2億円に近づくなか、これまでほぼ留職の一本槍だったところ、フィールドスタディも1億円くらいの事業規模に成長した。事業構造が変わり、少なくとも内部的には「留職のクロスフィールズ」という呪縛を脱皮できた感覚があった。


この時期は調査研究にも力を入れた。これまでの実績から見えてきたことを、有識者の力をお借りして社会に発信し、近しい業界に影響を与える動きに注力した。ご縁があり、ハーバード・ビジネス・レビューでリーダーシップについての連載を執筆させてもらったりした。

それから、JANIC新公益連盟といった業界団体の理事を務めさせてもらうようになったのも、この時期だ。団体としてインパクトを出すことを志向しつつ、組織外への影響も意識するようになった。

◎組織構築期からの学び


・自分の特性を理解した上で、できれば自分とは違うタイプで、自分よりも優秀だと心から思える人と一緒に働くことが大切だ。僕がもっと早くからこれができていたら、組織の成長をあと3-5年は早めることができた

・2本目の事業の柱を育てられたのは良かったが、このプロセスも自前主義にこだわった。このことは組織のDNAをより濃くしたが、良くも悪くも、組織としての勝ちパターン(とても労働集約的なモデル)を強化する結果になった。外部組織とコラボしたり、自組織とは違う成功体験を持った人材に事業開発を任せることをすれば、事業の方向性はもっと広がったかもしれない

・リーダー自身が目線を変えたり、視座を高めるための努力を怠らないことは、組織が成長を続けるために必要不可欠だ。組織が安定的な状況に入ったと感じたら、そうした努力をするタイミングだと考えると良い。僕の場合、外部組織の役員を務めることや、大学院に通うことで自分自身に刺激を与えられるよう工夫していた

④危機克服期(創業10~11年目/2020-2021)

<事業規模2~2.5億円、組織規模20~25人>

順調に事業と組織が成長段階に入ったと思っていたところに、コロナ危機が直撃した。既存事業は壊滅的なダメージを受け、当初は絶望的な状況にまで陥った。ここをどう乗り切ったかについては昨年末にnoteを書いたので、そちらをご覧いただきたい。

noteで書いたことを一言で表せば、コロナという外的要因に受身的に反応する形で、事業と組織とが大きく変革することになったということだ。

そして、なんとかコロナの短期的な衝撃を乗り越えたいま、目下、リブランディングや事業戦略・組織体制の再構築に時間を投下している。今回は受け身ではなく、これからの10年間を見据えた主体的な変革だ。もちろん一筋縄ではいかないだろうけれど、せっかくコロナで色々なことがリセットされたので、いましかできない大きな変革を起こしたいと思っている。

本当は10周年を迎えるこのタイミングでリブランディングの方向性も発表したかったが、残念ながら間に合わなかった。このプロセスは本当に大事なので、納得いくものにできるよう、時間をかけてチームでの対話を深めたい。

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コロナ前に実施したオフサイト合宿の様子。コロナ禍の制限はあれど、チームでの対話と議論を積み重ねて、今後の方向性を紡いでいきたい

とはいえ、リブランディングのプロセスは来年の今頃まで続く10周年イヤーのうちにはしっかり固め、対外的にも発表するつもりだ。10周年という節目の情報発信やイベントなどは、そのタイミングでまとめてできればと思っている。乞うご期待!

◎危機克服期からの学び

・コロナ危機からの学びは上のNoteにまとめたので、そちらを参照あれ

・外的な要因に対応した変革は、少しの時間差があって、組織の疲弊感へとつながる。この疲弊感をいかにして前向きで主体的な変化に変えていくかが、経営としては非常に大切だ。今回のリブランディングは現在進行形なので結果がどうなるか分からないが、自分としては過去にもないほどの覚悟で、大きな変革に挑む所存だ

10年間の旅路で大切にしてきた3つの姿勢

こうして振り返ってみると、やはり組織も自分も、10年の月日を経て少しは成長したんだとしみじみ思う。今日くらいは、少しは自分を褒めてあげてもいい気がしてくる(笑)。

最後に、僕がこれまでの10年間でNPO経営者として大切にしてきた姿勢を3つに絞って書いてみたい。これらは、これからも自分が大切にしたい姿勢でもある。

その1.向き合い続ける覚悟を持つこと


事業を興すということは、自分たちを信じてくれる仲間や受益者、そして応援者を巻き込むということ。特に非営利の事業では、周囲からの期待は大きいし、決して軽くない。その期待に応えるには、自分の弱さに向き合ったり、痛みに耐えたりと、吐き気がするようなことを沢山経験する。だから、これから挑戦する人は、決して中途半端な気持ちで始めないで欲しい。周囲にも自分にも真摯に向き合い続ける覚悟を持って、この道を進んでほしい。

その2.感謝の気持ちを忘れないこと


非営利の世界での事業運営は、多くの人との繋がりと支えがあってはじめて成立する。一緒に働く仲間や応援者、そうした周囲への感謝を大切にして欲しい。どんなに大変な状況に追い込まれてたときにも、「この状況に挑戦できているという有り難さ」という感謝の念が湧き上がると、それが自分を前に進めるパワーにもなってくれる。

その3.山頂に向かう旅路を楽しむこと

何かに挑戦する人は、誰しも何かしらの目的や大義があって、それが実現する日を夢見ながら旅路を進んでいる。でも、山登りと一緒で、山頂に到着するのと同じくらい、山頂に至る旅路を楽しむことも大切だ。僕もまだまだ道半ばだけど、旅路を一歩一歩踏みしめ、嬉しいことも辛いことも、全部をひっくるめて味わうことで前に進むことができている。道中の美しい景色や新たな出会いや発見を楽しみながら、歩を進めたいものだ。

次なる10年を見据えて

正直、団体も自分ももう若くない。起業当初は28歳だった自分ももうすぐ40代を迎える。子どもも2人いて、家庭や地域のために使う時間も大切にしたい。もうスタートダッシュ期のような、向こう見ずな全力疾走はできない。

でも、やっぱり思う。ここで安住するのはクソ喰らえだ。

自分自身の人生を後悔しないよう、また、一緒に挑戦してくれる仲間や応援してくれる人のためにも、これからも道を切り拓く気概を持ち続けたい。

NPO経営者としての誇りを胸に、これからもより野心的な挑戦を続けたい。

過去の成功パターンから脱却し、10年後には、より非連続な進化を成し遂げていたい。これまでとは違う山の登り方をして、結果として、もっともっと、世の中に対して価値のある変化を生み出していきたい。

僕はまだまだ貪欲に、これからの10年の旅路も楽しみたい。

2021年5月3日
NPO法人クロスフィールズ 共同創業者・代表理事
小沼大地


※ クロスフィールズでは5/9(日)締切で、職員を募集しています。険しくも楽しい旅路を、ぜひともに歩んでいきましょう!


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