見出し画像

根抵当権の登記 事例シリーズ①

▷根抵当権とは

根抵当権は、「一定の範囲」に属する「不特定の債権」を「極度額の限度で」担保する抵当権です。
 
根抵当権によって担保される被担保債権は、極度額・債権の範囲・債務者の三つの構成要素で特定され、このうち債権の範囲と債務者は、根抵当権の元本確定前にのみ変更することができます。

 事 例 
第一太郎さんは、副業でアパート経営を始めました。
餃子銀行から融資を受ける話がまとまって、令和4年3月31日に1,500万円を借り入れてアパート建築用地を購入し、さらにアパート建築資金として令和4年6月30日に2,500万円を借り入れました。アパートの土地と建物には極度額1億円の根抵当権が設定されました。



この時点で、餃子銀行の根抵当権によって担保されている債権は、 

・太郎に対して有する4,000万円の貸金債権

 です。

令和4年9月1日、太郎さんが死亡しました。
相続人は、妻の第一花子さん、長男の第一一郎さん、次男の第一二郎さんの三人です。

一郎さんと二郎さんはサラリーマンとして働いており、アパート経営に参画する考えはありませんので、今後のアパート経営は妻の花子さんが引き継ぐことになりました。太郎さんがこれまでに借り入れたアパート取得費用の債務も、あわせて花子さんが引き受けることとし、一郎さんと二郎さんは負担しないことに決まりました。

令和4年11月1日、花子さんは餃子銀行から500万円を借り入れて、アパートの修繕費用に充てました。また、根抵当権の枠にまだ数千万円分の余裕があるので、これを利用して新たにアパート建築をしようと計画を立て始めています。

これを登記記録に表すためには、次の3つの根抵当権の登記を行なうことになります。
 
3-1)相続による債務者の変更登記
3-2)指定債務者の合意の登記
3-3)債権の範囲と債務者の変更登記


3-1)相続による債務者の変更登記

元本の確定前にその債務者について相続が開始したときは、根抵当権は、相続開始の時に存する債務(……略……)を担保します。(民法第398条の8第2項前段)
 
そして、被相続人の金銭債務は法律上当然に分割され、可分債務として、各共同相続人がその相続分に応じて承継するものとされています。



太郎さんの債務が、相続人3名に承継されたことを表す変更登記です。
 

この時点で、餃子銀行の根抵当権によって担保されている債権は、

・花子に対して有する2,000万円の債権(太郎からの相続債務の2分の1)
・一郎に対して有する1,000万円の債権(太郎からの相続債務の4分の1)
・二郎に対して有する1,000万円の債権(太郎からの相続債務の4分の1)

です。
 

3-2)指定債務者の合意の登記

また、上記の3-1)の相続債務のほか、(……略……)根抵当権は、(……略……)根抵当権者と根抵当権設定者との合意により定めた相続人が相続の開始後に負担する債務をも、担保します。(民法第398条の8第2項後段)
 
これを、「指定債務者」といいます。
根抵当権者と根抵当権設定者との間の合意によって「指定債務者」が定められると、今後は「指定債務者」が、根抵当権者との取引をする地位を承継することになります。
 
なお、債務者の相続開始後6ヶ月以内に指定債務者の合意の登記をしないと、根抵当権の元本が確定してしまいます。


指定債務者を花子さんとする合意の登記です。

 
 
この時点で、餃子銀行の根抵当権によって担保されている債権は、

・花子に対して有する2,000万円の債権(太郎からの相続債務の2分の1)
・一郎に対して有する1,000万円の債権(太郎からの相続債務の4分の1)
・二郎に対して有する1,000万円の債権(太郎からの相続債務の4分の1)
・花子に対して有する500万円の貸金債権
・今後、花子との根抵当取引で貸し付ける貸金債権など

です。
 

3-3)債権の範囲と債務者の変更登記

一郎さんと二郎さんが相続した債務は、花子さんが引き受ける約束ですので、そのように根抵当権の債権の範囲と債務者について変更を加えます。
 
以下の債権すべてが餃子銀行の根抵当権によって担保されているのが、目指すべき完成形です

・花子に対して有する2,000万円の債権(太郎から花子が相続した債務)=債権a
・花子に対して有する1,000万円の債権(一郎が太郎から相続した債務を花子が引き受けたもの)=債権b
・花子に対して有する1,000万円の債権(二郎が太郎から相続した債務を花子が引き受けたもの)=債権c
・花子に対して有する500万円の貸金債権=債権d
・今後、花子との根抵当取引で貸し付ける貸金債権など=債権e



債務者を花子さんに変更しました。
この変更により、債権a・債権b・債権cが担保範囲から抜け落ちます。債権d・債権eは担保されています。
 


債権の範囲に、「令和4年12月5日債務引受(旧債務者 第一一郎、第一二郎)にかかる債権」を追加しました。
これで、債権b・債権cが担保範囲に加わります。



債権の範囲に、「令和4年9月1日相続による第一花子の相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権」を追加しました。
これで、債権aが担保範囲に加わります。
 
「~の相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権」がまわりくどい表現ですが、これをうっかり「令和4年9月1日相続による第一花子の相続債務」としてしまうと、「餃子銀行主催のチャリティーパーティの席で、第一太郎が買ったあやしげな壺の未払い代金60万円」なども加わってしまうので、注意が必要です。
 
 
これによって、餃子銀行の根抵当権によって担保されている債権は、

・花子に対して有する4,500万円の債権(太郎からの相続債務をすべて引き受けた4,000万円と、自ら借り入れた500万円)

となりました。
 
実際には、上記の債務者の変更と債権の範囲の変更を一括して登記申請します。
 
 
 抵当権・根抵当権の登記のお手続きをご希望の際は、当事務所へご相談下さい。

【おわりに】

最後までご覧いただきありがとうございます。
第一事務所では、不動産登記・会社法人登記などの各種登記手続きや、相続手続き、債務関連のご相談を承っております。
ご相談がございましたら、お気軽にご連絡くださいませ。
 

司法書士法人第一事務所

お問い合わせはこちらから👇

この記事が参加している募集

企業のnote

with note pro

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?