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物語における「雨」の美しさを語る

この季節、夕方から夜にかけての雨の降り方が凄まじい日がありますよね。昨日(8月19日)の関東地方もヤバかったです。雨だけならまだしも、雷がセットで付いてくるのが本当に怖い。
子供の頃は雷が鳴りだすとテンションが上がっていたのですが、もうそんな元気はありません(笑)。

リアルだと大雨は困りますが、個人的に、雨が好きという側面もあります。
それは映画やドラマにおける「雨のシーン」が好き、というものです。

「雨」の効果と、その美しさ

脚本の勉強をしていますと、天候も意識しましょう、という話がよく出てきます。意識していないとどんな場面も大概晴天で、昼間は日照り、やがて夕焼けという画に決まってしまいます。雨が降っているとそれだけで際立つ場面になりますし、映える画面にもなるんですね。
圧巻なのは、黒澤明監督の「羅生門」で、冒頭からまさに昨日のような夏の夕立、叩きつけるような雨が降っています。ただ絵的に映えるというだけでなく、登場人物の心情ともリンクしていてラストシーンでは止んでいるという演出上の意味もあります。
この映画の4年後に、稀代の傑作「七人の侍」が公開されますが、この大作の決戦シーンでは大雨の中、野武士と侍たちの戦いが描かれます。

作中の設定は初夏ですが、撮影は2月。これはもう過酷なんてレベルではありません
戦国時代に行って撮ってきた、といっても遜色ない迫力の場面です
全てのシーンが絵画のようです

黒澤監督曰く、この映画の着想は西部劇からもきているそうで、しかし西部劇では雨がない。ならば日本の時代劇では雨を降らせよう、という考えのもとこの迫力のある、悲しくも美しい合戦シーンが生み出されたのでした。

天候と心情を重ねる、という手法は定番であり近年の作品でもよく見られますが、最近印象的だったのは「ボヘミアン・ラプソディ」ですね。

去っていく妻を見つめるフレディ

奥さんとの別れの場面で、雨に濡れるフレディの姿がとてもマッチしていました。まぁこれはあなたが悪いでしょって思ったので、同情はできませんでしたが(笑)。

この手法でさらに凄かったのは、小説「十二国記」の最新章にあたる「白銀の墟 玄の月」での描写です。

十二国記は、コロナ禍の際に全巻読みました

戴の国は年中厳しい気候の国ですが、行方不明になった王を探す過程、状況の悪化に伴いどんどん豪雪で行動も難しくなっていく、その絶望感、悲壮感が凄いと思いました。天候による心理描写の極みといっていいでしょう。小説ですが、これもまた美しい画を想像させる作品です。

そして、特撮ドラマにおいても

この雨による心情描写、特撮作品において最も効果的に使われたと思っているのが仮面ライダークウガの47・48話です。
クウガの最終3話はまとめて一本の映画の様だ、と思っていますがダグバとの決戦に臨む五代の決意、周囲の人達との別れをこれも土砂降りの雨で表現しているのが見事でした。

決意、別れ。ドラマのお手本のような「雨」ですが、
ここまで徹底した作品はなかなかありません

そして有名な最終決戦ですが、吹雪の中なんですね。

もう被写体が見えないレベルです
涙ではなく、悲しみを表現しているのがこの雪のように感じます
その無邪気さで、五代の心を抉ってきた最凶の敵、ダグバ。
初代の首領のように「もう負けた!死ぬ!」みたいな人なら五代も泣かずに済んだのでしょうか

「さぁ、コイツを倒せば終わりだぞ」みたいな高揚感は皆無の、儚く悲しい最後の戦いを彩った、猛吹雪です。「普通のヒーロー物には絶対しない」と高寺プロデューサーは仰っていたそうですが、そんな意志を如実に感じるこの演出でした。画作りがあまりにも見事で、24年経った今でも語り継がれているのだと思います。


現実の土砂降りは憂鬱になりますが、映像作品、物語における悪天候は必ず意図があり、見る者の心を打つものになることが多いんですね。
個人的に好きな雨のシーンを列挙し、その美しさを語ってみました。もっともこういう場面は撮影は大変で、出演者・スタッフにとっては総じて苦労話として語られることが多いんですけどね(笑)。
自分の創作でも、効果的に雨を降らせていきたいと考えています。

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