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「オッペンハイマー」観ました…善悪では語れない、悲劇の記録

本日(4月4日)、アカデミー賞で話題の映画「オッペンハイマー」を観てきました。

ノーラン監督作品は、ダンケルク以来の鑑賞だと思います

原爆の父、と言われたJ・ロバート・オッペンハイマーの第二次世界大戦下での「戦い」を描いた実録作品ですね。
日本での公開には賛否があったそうですが、日本人こそ観るべき作品だったと思います。

Filmarksより、鑑賞直後の感想文

オッペンハイマー(2023年製作の映画)

3.8

古典アカデミー賞作品の「地上より永遠に」に通ずる、太平洋戦争を米国側から描いた映画として教養を得る意識で鑑賞した。

原爆の父・J・ロバート・オッペンハイマーの「公職」を描いた歴史物、オスカーを獲った功績も相まって話題になっている。
核兵器を「威力の大きい爆弾」程度の認識で描かれる事の多い外画がここまで実直にその脅威を表現し、また映画自体が評価されていることは賞賛したいと思う。
被爆国としての視点だと実験成功の場面が特に苦々しく映ったものだが、今のように実態が映像で残ったり伝わったりしない時代であるがゆえに幻想に苦しめられるその後の描写には「使った側」の傷を感じることが出来て、意義のあるものだと思った。

ダンケルクよりはいくらかマシだったが今作も時系列が分かりづらい。聴聞会と裁判?が絡み合うのは長尺を保たせる手法でもあるのだろうが史実としてこの先にオッペンハイマーの勝利は無い事が分かっているだけに「もっとコンパクトにしろよ」という気分にはなった。
戦争は外交手段の一つ、とは言われるが結局戦勝国にも消えぬ爪痕が残るもの。それをぼかしていない点でアカデミーに相応しい反戦映画だったと思う、見応えはあり時代に翻弄される主人公を取り巻く主役級キャストの演技は見事だった。

だが、結論としては国家は「正義の奴隷」として過ちを正せないのだな、と80年後の世界を見て物悲しくなってしまう…そんな作品でもあった。技術や能力が意思に反して戦争に利用されてしまう、これも日本のアニメが40年前から描いているし、軍拡競争は破滅の道だと、60年前の特撮ドラマが伝えている。

どこまで忠実か知る由もないが、映画のメッセージが人類の進歩に繋がれば良いな、という願いを込めて「ただの記録」だと伝えていきたい、そんな映画であった。


「人類は、今日という日を忘れない」

例の舌出し写真の印象が強いアインシュタインですが、この映画では
主人公の師にあたるポジションで強い存在感を放っていましたね

日本からも、米国からも描かれる意義のある題材

※記事内の動画に当時の映像が含まれています。視聴にご留意ください。

日本は敗戦国、そして世界唯一の被爆国として核兵器根絶を世界に訴え続けられる国です。原子爆弾によって戦争と関わりの無い民間人が大量に命を奪われ、また癒えない傷を負った事実は世界中から傷ましいものと思われています。個人的な話で恐縮ですが、私も小学生の頃からこの近代史への関心は高く、学校の図書室で戦前、戦時中のことをよく勉強していました。純粋に、戦争をしない国・日本に生まれたことに安堵感を得ながらこの時代を昔話、ある種御伽噺のように感じていたのだと思います。実際には常に世界のどこかで戦争があり、過去の話だと言えるのは日本だけなのかもしれませんが。

そして現在も、戦争によって日常が破壊される悲劇は地球上の何処かしらで続いています。核の影も見えているのは周知の事実でしょう。
10年前に、宮崎駿監督の「風立ちぬ」が公開されました。これも戦時中にその技術を兵器に使わされた人間の悲劇を描いた作品です。今作「オッペンハイマー」は、そのアメリカ版とも言うべき映画でした。
間もなく第二次大戦から、原爆投下から80年が経ちます。実体験を持つ方々が少なくなっていく今、核兵器の悲劇を描く作品を作り世界に訴えていくのは日本、アメリカの両国に課せられた使命だと感じます。そう思える程に、戦争、兵器開発を決して賛美していないこの映画には大きな意義を感じました。

米国は戦勝国ではありますが、「地上より永遠に」などで描かれた真珠湾攻撃の惨状が語るように、戦禍に見舞われてもいます。戦争を仕掛けたのは日本であることも事実です。空襲、原爆を以て被害者の顔をするのも間違っています。確かなのは、戦争は双方の国が傷付くという現実だけなんですね。そのことを物語っているのが、「仕事に取り組んだだけ」で幻影にうなされる、この映画のオッペンハイマーの姿といって良いのではないでしょうか。

戦争を終わらせた英雄、の目ではありませんよね

映画として見ると、鑑賞の敷居はとても高い作品

アメリカ発の作品として価値あるものだと評価は出来ます。
が、一本の映画として観ると3時間という長尺、またこの監督の個性とも言える時系列、場面転換の複雑さからとても疲れる作品で、他者に薦められる映画ではないな、というのが私の感想です。
インセプションなどは何番目の夢か、というのがいくらか解りやすかったのですがこの作品は後半、二つの時期が違う場面が絡み合うので意識が少し振り回されてしまうんですね。大戦が終わるまでの場面はノーマルに展開するので観やすかったのですが。

マットデイモン、ロバートダウニーJrなどが脇を固めるキャスト陣はとても豪華で、それぞれがオッペンハイマーの味方側、敵側の人物として強く迫ってきます。見応えのあるものでした。

ストローズは敵役ではありますが、悪役というよりは
ただオッペンハイマーと相容れなかった人物という印象です

オッペンハイマーも決して品行方正な人間ではなく、女性関係には「それはダメだろ」という部分がありました。そういう弱さを持つ主人公を踏まえて、「非常時」を生きた人々の人間ドラマ、何が正しいのか間違っているのか、観た人それぞれが感じ取るもの…そういう作品でしたね。

戦争は悲劇、これだけは心の中に常に抱いていたい。
映画館を出た後の思いは、これに尽きましたね。

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