私の知らない世界とあなたの知らない世界 Part1
「れみちゃんは大学を卒業したら、おじいちゃんの会社で事務でもやりなさい。」
私に対しては温厚な祖父だが、経営となると鬼の義隆会長と言われる
義隆おじいちゃんは自動車製造会社の代表取締役会長兼社長だ。
私は、そんなおじいちゃんの直系の孫だ。
父はグループ会社の社長、兄もグループ会社で管理職をやっている。
大学4年の私は大した学も資格もなく、企業にエントリーしては落ちてしまうという風に面接にも取り付けなくて、就活に苦しんでいた。
一族は花嫁修業をしなさいと言うのだけれど、私はOLとして人生を謳歌したかった。
なぜなら、大学の初めの頃、祖父の紹介で付き合っていた彼氏は、お金がある家に生まれたからこそ、家族みんな傲慢で奢り昂っていた。
彼とデート行くと、いつもバカにされる。
親のクレジットカードで全てお支払いする癖に偉そうにする。
「れみは箱入り娘だから世界を知らない。」
鼻にかけるように毎回そう言う。
彼だって箱入り息子だと思うのに。
私はそんな彼に嫌気が差して、最後高級レストランでお食事しているときに、一言
「私は新しい世界を知りたいから、あなたを手放します」
そう書いた手紙をテーブルに叩きつけて、私は去った。
高級レストランでお食事するのに、何だかお腹が空いてなくて、レストランを出た瞬間にお腹が鳴るほど空腹になって、私は初めて、しばらく歩いた先で見つけた牛丼チェーン店へと足を運んだのだった。
それは今までどんなお料理よりも私にとってはインスタ映えしてる、美味しい丼ご飯だった。
この経験から、私は働くことによって自分の世界を広げようと思い、祖父に相談したのだった。
それしか方法がなかったから。
4月1日になった。
16年間同じ景色だったのに、今年の春からはいつもの桜が別の花に見えた。それが私にとっての新入社員だ。
しかし入社した私は、ほかの新入社員に向けられるものとは違うものを周りの上司や先輩たちから感じた。
「義隆会長のお孫さん。触らぬ神に祟りなし…」
本社の経理課に配属になった私は、さほどお仕事をさせてくれなかった。
なんだかお家にいるように、手厚く扱われていて、上司たちから壁を感じた。
同期たちとも仲良くなれなかった。みんなグループLINEの話をしてるのに、私は招待すらされなかった。
ある日のことだった。新入社員研修のために、湘南の工場へと何人かで向かった。
会社を知るための工場見学。
私はワクワクした気持ちでいっぱいだった。
あの窮屈な、パソコンしかない殺風景な環境から抜け出せるのだから。
GWを迎えるちょっと前
焦げ臭い匂いと油の匂い
大声を出さないと伝わらないくらいの騒音
そんな所で私は君と運命の出会いを果たしたのだった。
ほかの新入社員はつまらなそうに作業工程を見てる人が多い。
私は工場の方々が自動車を作り上げていく姿に胸を躍らせていた。
幼い頃、義隆おじいさんに連れられて、ここの工場へと来たことがある。
「どうだ!れみちゃん!こうやって自動車が作られるんだ!」
作業服を着た方々は逞しく見えてみんなかっこよくて、私の憧れ的存在に見えた。
だから、私は工場見学ができ、
複雑な工程をこなして1台の車を作り上げる。
そんな職人みたいな彼らを見れて嬉しかった。
浮かれながら歩いてる時だった
あっ
足が滑って転ぶ。
あれ?痛くない…
私は誰かの腕に支えられて転ばずにすんだ。
その瞬間、胸に何かが刺さった感覚。
帽子のつばの奥には、
男らしそうで優しそうな君がいた。
はるとくん。
この瞬間に君に恋をした。
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