シェイクスピア「テンペスト」感想

◇筋書

●開幕前状況
・ミラノ大公プロスペローが、ナポリ王アロンゾーと自分を裏切った弟アントーニオによって追放され、娘ミランダと共に孤島に漂着する。
・その孤島は魔女シコラクスの持ち物だったが、彼女は既に死去していた。残された彼女の息子、獣人キャリバンは言葉も知らない野生児として暮らしていた。
・その孤島の樹木に妖精エアリアルが封印されていた。
・プロスペローは、獣人キャリバンに教育を施すが、上手くいかず、魔術で束縛し、下僕として使役することにした。結果として、キャリバンから母の遺産である島の所有権と魔女の呪文書等を奪う形になる。
・プロスペローは、妖精エアリアルの封印を解いたが、魔術で束縛し、使い魔として使役することにした。
・プロスペローを裏切ったアントーニオは、ナポリ王の支援の下、ミラノ大公に就任する。

●開幕時状況
・プロスペローは妖精エアリアルに命じて「嵐」(テンペスト)を起こし、ナポリ王アロンゾ―とミラノ大公アントーニオらが乗った船を自分の住む孤島の近くまで誘導する。
・妖精エアリアルは幻覚や眠りの魔法を用いて、船員や水夫を眠らせ、船が座礁したように見せかけて、主要人物たちを船から逃げ出させ、孤島の別々の場所に漂着するよう誘導する。
・別々の場所に漂着した人たちは、それぞれで、自分たち以外が死んでしまったと錯覚する。

●話線1:ナポリ王アロンゾ―
・孤島に漂着する際、息子の王子ファーディナンドが死亡したと錯覚し、絶望する。
・臣下ゴンザーローに励まされるも、気落ちしたまま。
・プロスペローと出会い、自分の所業を反省して和解する。
・王子の生存を知らされ、プロスペローの娘ミランダとの結婚を承認する。

●話線2:ナポリ王子ファーディナンド
・孤島に漂着する際、自分以外が死亡したと錯覚し、絶望する。
・プロスペローの娘ミランダと出会い、恋に落ちる。
・プロスペローにミランダとの結婚を申し込み、試練を受ける。
・試練に真剣に取り組む姿勢を認められ、プロスペローからミランダとの結婚を承認される。

●話線3:ナポリ王弟セバスティアン
・孤島に漂着する際、兄の息子である王子ファーディナンドが死んだと錯覚する。
・兄が絶望して無気力になるのを見て、自分が王位に就くことを考え始める。
・同行するミラノ大公アントーニオに唆され、兄を暗殺することを決意する。
・兄の暗殺を決行しようとするが、妖精エアリアルに妨害されて失敗する。

●話線4:獣人キャリバン
・プロスペローに命じられて薪拾いに出かける。
・ナポリ王の臣下、執事ステファノ―と道化師トリンキュローと出会う。
・三人で酒盛りしている間に気が大きくなり、プロスペローを暗殺して島の所有権を取り返すことを決意する。
・プロスペローの暗殺を決行しようとするが、妖精エアリアルに妨害されて失敗する。

●話線5:プロスペロー
・妖精エアリアルに命じて、自分が望む人々を、分断して孤島に誘導する。
・妖精エアリアルに命じて、各集団に介入し、行動や意志を誘導する。
・ナポリ王に自分の追放を反省させ、和解する。
・ナポリ王子と自分の娘を結婚させる。
・自分の弟とナポリ王弟の暗殺を妨害する。
・獣人キャリバンの自分への反逆を阻止する。
・役目を終えた妖精エアリアルとの契約を解除し、自由にする。

●話線6:エアリアル
・プロスペローの復讐が終わったら、自由を得る約束を取り付ける。
・自由を得るために、各集団に介入して、プロスペローの思惑に沿うよう誘導する。
・プロスペローとの約束を果たし、自由を得る。

◇感想

 シェイクスピア単独の執筆としては最後の作品と言われ、魔法のような人知を超えた力が重要な役割を果たす「ロマンス劇」の代表作がこの「テンペスト」です。

 「復讐から和解へ/呪縛から解放へ」という普遍的なテーマを扱っていること、妖精エアリアルが「真夏の夜の夢」の妖精パックのようにコメディ的に活躍すること等から人気の高い作品ですが、様々な登場人物の思惑が交錯する複雑な構成になっています。

 主人公プロスペローは自分を追放したナポリ王と和解しますし、プロスペローの使い魔として活躍した妖精エアリアルは約束通りに自由を得ることができたという意味ではハッピーエンドと言えます。

 しかしながら、プロスペローを陥れた弟のミラノ大公も兄の暗殺を試みたナポリ王弟も反省したとは言い難いですし、プロスペローに魔女であった母の遺産を奪われた獣人キャリバンは下僕のまま幕を閉じるので、彼らの心境や処遇を考慮すると、「和解と解放」というテーマも何処までが本当なのか甚だ疑問に感じるのが正直な所です。

◇「水星の魔女」との比較

 ガンダム最新作「水星の魔女」が、本作をモチーフにしているのは確実だと思います。ただ、単純な翻案ではなく、主要人物の立場や役割を上手く換骨奪胎しながら、より効果的になるように組み替えていると考えるべきでしょう。

 まず、主要人物の対応は、以下の通りになるでしょう。

・魔術師プロスペロー(前ミラノ大公)≒プロスペラ・マーキュリー
・プロスペローの娘ミランダ≒スレッタ・マーキュリー
・妖精エアリアル≒ガンダム・エアリアル
・プロスペローの弟アントーニオ(現ミラノ大公)≒ベルメリア・ウィンストン+ペイル社
・ナポリ王アロンゾ―≒デリング・レンブラン
・ナポリ王子ファーディナンド≒ミオリネ・レンブラン
・ナポリ王弟セバスティアン≒ヴィム・ジェターク+ジェターク社
・ナポリ顧問官ゴンザーロー≒サリウス・ゼネリ+グラスレー社
・獣人キャリバン≒エラン・ケレス
・執事ステファノ―+道化師トリンキュロー≒グエル・ジェターク+シャディク・ゼネリ

 次に、勢力としては、前日譚「プロローグ」時点では、

・ミラノ公国≒ヴァナディース機関≒オックス・アース
・ナポリ王国≒カテドラル

という対応になると思います。

 ただ、本編開始時点となると

・孤島≒水星=シン・セー開発公社
・ミラノ公国≒オックス・アース消滅→残党の一部がペイル社に合流。
・ナポリ王国≒カテドラル→ベネリットグループ

となり、勢力関係が微妙に異なるため、所属や立場が変わっていると考えられます。

 とは言え、

・プロスペローの娘ミランダとナポリ王子ファーディナンドの結婚≒スレッタとミオリネの契約による疑似婚約関係
・プロスペローとナポリ王の和解≒プロスペラとデリングの和解
・現ミラノ大公とナポリ王弟によるナポリ王暗殺の試み≒ジェターク社とペイル社によるデリング暗殺の試み

等のように、機能的には同じ構造を踏襲している模様です。

#読書 #感想 #戯曲 #演劇 #水星の魔女  

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?