カロル・タロン=ユゴン「美学への手引き」感想

◇要約

○美学前史
●テクネー/アルス
・制作に関わる実践的知識と技量の総体。
→芸術と技術や職人技が未分化。

●プラトン
・芸術の二面性=神の賜物↔️二重の模倣
・美の形而上学=真・善・美の一致→美=知性的なこと≠感性的なこと。

●アリストテレス
・芸術=規則と共に生産する能力。
・模倣描写=「可能なもの」を扱う↔️「存在しているもの」を扱う。

●トマス・アクィナス
・美の3つの特性=完全性+調和+光輝。

○美学の誕生
●趣味の発明
・味覚の比喩的用法→趣味。
・趣味=美を把握する第六感。

●カント
・美的=表象と主体との関係についてのもの。
・美的経験=事物の感覚的緒性質を統合する際に快を感じること。
・カント美学=感覚的な美的経験を表明する趣味判断についての超越論的分析。

○芸術の緒理論
●ロマン主義
・芸術=自己の超出=主観の限界の外に出ること。
・詩=「宇宙の自意識」=「生の現出」
→哲学の詩化=芸術の姿をとった宇宙の構想。

●ヘーゲル
・精神の遍歴=芸術→宗教→科学。
・芸術=「絶対精神」の感覚的呈示。

●ショーペンハウアー
・意志からの離脱=美的→倫理的→形而上的。
・芸術=意志の観照=意志からの解放。

●ニーチェ
・芸術=創造的次元における力への意志。
→存在の美学化
→生=根本的な芸術的現象

●ハイデッガー
・芸術=作品(はたらき)≠製品(もの)
・作品であること=存在者の存在の真理の到来。

●芸術と哲学
・芸術=存在論的次元を持つ→高次の認識の手段。
・芸術の新しい地位=存在論的次元+認識論的射程+救済者的役割。

○芸術の脱定義
●3つの確信の揺らぎ
・作品
・ジャンル
・芸術

○フランクフルト学派
●ベンヤミン
・アウラ=いかに近くにあろうとも、ある距離を持ったものの一回きりの出現。
・礼拝価値=作品の唯一性=真生性=権威。
・複製技術=作品の無限増加可能性。
→アウラの喪失=礼拝価値→展示価値。
・感性の形=歴史的変化→知覚の仕方の変化。

●アドルノ
・芸術の批判的理論=歴史と社会の産物としての芸術という視座
→「芸術の自律性」への批判。
・芸術の批判的機能=支配的現実への抗議としての芸術。
→前衛芸術=資本主義的生産に対する抵抗手段。

○現象学的美学
●メルロ・ポンティ
・芸術=「生の感覚の布地」の源
→原初的な「感じること」を顕なものにする。

●ミシェル・アンリ
・生=自分自身で自分を感じとること。
・芸術=美的経験という拡張された生。

●美的視座≒現象学的視座
・純粋な美的経験=現象学的還元の達成。

○分析美学
●芸術の定義
・「芸術とは何か?」=「芸術という言葉を我々はどう使っているか?」
・家族的類似=様々な特性の束≠本質
→開かれた概念

●美的経験
・無関心性の是非
→関心/無関心ではなく、注意/注意の不在
・3つの特徴=統一性、複合性、強さ

○来るべき美学
・近代美学=美×感性×芸術。
・現代美学=近代美学への批判
→「美×感性×芸術」の統合体系の解体
・3つの課題=芸術論、感性論、審美論。

◇感想

 美学を前史、近代、現代の三期に分けて概観し、美・感性・芸術という基礎概念を中心に解説する入門書。

 古代や中世において、「知性>感性」≒「観照>制作」というエピステーメー(知の枠組)が感性や芸術を巡る哲学的思考を制約していたという指摘は参考になりました。

 また、存在論や認識論の変化によって、近代において、感性の独自性や美的経験の基盤である趣味判断への注目が始まったというのも納得の行く説明でした。

 その意味では、古代における「真・善・美」体系への批判として、近代における「美・感性・芸術」体系が生まれ、現代はその体系への批判がなされているものの、未だ新たな体系は現れていないと言えるでしょう。

#読書 #感想 #哲学 #美学


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