マガジンのカバー画像

書評など

11
運営しているクリエイター

#江國香織

誰かの夏を読む 江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』(角川春樹事務所)

誰かの夏を読む 江國香織『なかなか暮れない夏の夕暮れ』(角川春樹事務所)

 夏といえば思い出す小説が、いくつかあります。
 たとえば、神吉拓郎の「ブラックバス」で、少年が今はなきテニスコートを前にして耳を澄ます、幻のテニスボールが跳ねる音であったり。
 あるいは、ヴァージニア・ウルフの「サーチライト」で、クラブのバルコニーに腰掛けて歓談する男女のそば、石畳の遊歩道を照らす円形の光であったり。
 それらは夏の日の一瞬を鮮やかに切り取り、その空気までも文章のなかに封じこめま

もっとみる