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飛び跳ねる理由
自閉症について、片っ端から調べ上げる日々が始まった。ASD ADHD サヴァン症候群 カナー型 〜〜〜 うちの次男はいわゆるカナー型らしい。3歳児検診では、精神年齢がおよそ1歳半、身体能力はおよそ2歳、など、いかにも「遅れている」文脈で診断が下りる。精神年齢に関しては、言葉が出ないことがだいぶ診断に影響している様子だった。
義母や義祖母はまだまだ状況を受け入れきれてない様子だった。義祖母はわかりやすく「そんなはずはない、そのうち育つから大丈夫だ」と言い張る。こういう発言は前向きだと、今までは思っていたがそれは違うのだ。ここでしっかり状況把握して今後を「大丈夫」にしていかないといけない。義母は「機械触るなら、これは将来はエンジニアだね」これもエンジニアを甘く見ている。現代のエンジニアはただ物作ってれば良いのではない。どのカテゴリのエンジニアかどうかで状況もやるべきこともまったく違う。
町役場の近くで、障害者施設で作ったパンを売っているお店がある。一度買ってみた事があるがなかなか美味しい。しかし値段があまりにも安い。もっと普通に売ればいいのに。収益を上げる商品として価値のないパンをひたすら作る生活は、次男にはなるべくやらせたくない。
閑話休題
息子と会話が出来ない。それは深い深い絶望である。長男長女がパパ、と口に出すたび脳がとろけるような感触を覚えた。次男が口に出すパパは、ただの破裂音の羅列。物音と変わりない、と言うのか?
これはとてつもない絶望感である。目の前が真っ暗になった。
そんなとき、NHKである特集を見た。
25~30歳くらいの自閉症の男性が、母親に連れられてピョンピョン飛び跳ねている。奇声を上げながら手をバタバタさせるその姿は次男の仕草とよく似ていた。むしろ次男より、症状が重いような印象だった。おそらくこれが次男の将来か、といたたまれない気持ちでテレビを凝視していた。
次のシーンで、その男性が自分の鼻を机の上にある紙きれにこすりつけては離し、その紙にはひらがなで文字が50音で書かれていた。隣で母親が文字を読み取る。その文字を並べると、整然とした文章になっていた。その男性は、文章を書いていたのだ。体に電流が走った。
その手法で男性はインタビューに答えている。その言葉はとても流暢で、高い知性を感じた。考え方がいささか独りよがりな面もあったが、しっかりとした会話が成立していた。その男性は、「自閉症の僕が飛び跳ねる理由」という本を出版し、自閉症である自分がコミュニケーションが取れないのではなく、そのツールが乏しいだけでちゃんと感情も知見もあるのだ、自分と同じ境遇にある人も、まわりと心を通わせる事が出来るはずだということを、身をもって伝えようとしていた。
深夜の番組を録画して、すぐに奥さんに見せた。次男はきっと、自分たちの言葉も愛情も受け取っている、そして自分なりに言葉を発しているがそれが日本語とはちょっと違うだけだ、と。テレビの前で僕は少し泣いた。
次の日から、次男の目を直視できるようになった。今までも見てはいたが、こちらの愛情が伝わっているという実感を込めて次男の顔をしっかりと見つめた。両手を引っ張り上げて「ジャンプ!!」と叫ぶと、次男は満面の笑みで飛び上がった。引っ張り上げるタイミングにピッタリあわせて飛び上がる技術は雑技団にでも入れそうな身体能力だ。補助付きだが垂直飛びで7~80cmは飛んでいる。3人の中でジャンプが1番上手なのは、次男である。5〜6回ジャンプを繰り返して、そのままぎゅっと抱きしめた。少し疲れて下ろすとまだ催促してくる。もう疲れたから今日は勘弁してくれ。
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