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貸しっぱなしの「アイツ」

ずっと貸したままのマンガがある。
今から15年くらい前に週刊少年マガジンで連載されていた、真島ヒロさん作の「RAVE」である。
海原に浮かぶ小さな島で育った王族の末裔の少年が、「RAVEマスター」の後継者として、記憶喪失の少女や数々の仲間たちと共に世界を旅しながら、世界を闇の力で支配する「デーモンカード(DC)」に立ち向かうストーリーである。
ネタバレを避けるためにもあらすじはこれくらいにして、今でもこのマンガが自分に強烈な印象を残していることを交えつつ、読者感想文を書いていきたい。

まず、このマンガの登場人物は、多くの場合幼い頃の「傷」を抱えている。
主人公も母親を亡くし、ヒロインも幼い時からの記憶がない。
そのあと加わる仲間たちも、親族を殺されたり(実際は後に生きていることが判明する場合もあるが)、友人を殺されたりなどで、闇や傷を抱えている。
同様に、敵キャラもなんらかの傷を抱えていることが多く、最終決戦を交えることになる敵方のボスは、主人公と同じように母親を殺されている。

さらにいうと、作者である真島ヒロさんも、幼い時に父を亡くしている。
これは真島ヒロさんの短編集「ましまえん」で語られている。
その後、中学から高校卒業に至るまで、真島ヒロさんは“グレた”そうだ。
ただ、父も好きだった「絵を描くこと」は辞めなかったという。

「RAVE」の作中にも、真島ヒロさんの座右の銘として「空には好きな色を塗れ」という言葉がたびたび登場するが、
なんでも真島ヒロさんが5歳の時に父親に言われた言葉なのだとか。
それくらい、真島ヒロさんに父親が与えた影響は大きいのだと思う。

話を作品のことに戻すと、「RAVE」の中の登場人物が何かしらの闇や傷を抱えているのは、もしかしたら同じように傷を抱えている真島ヒロさんからのメッセージなのかもしれない。
登場人物のセリフひとつひとつが、真島ヒロさんの心から語られているような気がしてならないのだ。

特に印象的なのは、最終決戦のときの会話である。
「この世界は間違っているだよ!正しいって言えるのかよ?」と悪のボスが主人公に語りかけるのに対し、
「この世界でも生きていかなきゃなんだ。今ある者たちは何も間違っていない」といったメッセージを主人公が返すのだが、
どちらも真島ヒロさんが語っているように聞こえてしまう。
ただ、きっと悪役の方が「ヒロ少年」で、主人公が今の真島ヒロさんなのかもしれない。


真島ヒロさんはもちろん、「自分の少年時代を反映しました」なんて言っていないし、ここで書いたようなメッセージ性は持たせてないのかもしれない。
だけど、このようなバックグラウンドを連想させるからこそ、名作なのだと自分は思う。

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