「シカ遅延」のカラクリ

今朝、中央線が「シカとの衝突」で大幅に遅延した。
影響を受けた人も多いのではないだろうか。

詳細をご存知ない方に、誤解がないように少しだけ説明すると、列車がシカと衝突したのは中央線内ではなく、青梅線内である。
それも、東京のイメージとはだいぶ離れた、青梅より西の山間の区間である。

実際に訪れたことがある人にとってはそこまでの驚きはないかもしれないが、
一方で字面だけ見れば「東京都でシカ?」という印象を受けるかもしれない。
しかしながら、シカが出ても当たり前のような山岳地帯であることは間違いない。
実際に、年1、2回はシカと衝突しているような区間である。


では、なぜこのような山奥のシカ衝突が、新宿や東京などの大ターミナルを貫く中央線にまで影響したのだろうか。
そのカラクリを、このnoteで書いてみたい。


①シカとの衝突が数少ない東京行きに影響を及ぼした

青梅より西の区間が山間部であることはすでに述べたが、この区間も東京都である。
中央線と線路が繋がっていることを活かして、平日早朝には2本、東京行きの直通電車が最奥の奥多摩から運行されている。
・参考: 奥多摩駅時刻表(平日)

今回、シカとの衝突がこの電車に影響してしまった。
実際、今朝6:50頃にJRのアプリで確認したところ、1本目の東京行きは約25分遅れ(この時の走行位置は青梅駅付近)、2本目の東京行きは約20分遅れ(この時の走行位置は宮ノ平駅付近)だった。
この遅れを引きずって中央線に突っ込むと、ただでさえ本数が多い中央線の合間を縫って走らせるため、前後の列車にも遅れが波及してしまう。


②青梅駅の折り返しに混乱が発生した

合間を縫うとはいえ、影響・遅れのあった列車が上記の2本だけであれば、今朝のような混乱にはならなかったであろう。
ところが、実際には他の多くの列車に影響してしまった。

その原因の1つが「青梅駅の構造」である。
青梅駅は、東京方面⇄青梅駅と青梅駅⇄奥多摩方面の区切りとなる駅で、上記の直通列車などの一部を除いて多数の列車が折り返す主要駅でもある。
その一方でホームが1本しかなく、2つの番線(乗り場)で両方向の列車を捌かなくてはならない。
1番線に奥多摩方面の列車が停車していたら、東京方面の列車のホームとして使えるのは2番線だけである。
参考: 青梅線配線図

さらに、このリンクを見ればわかるが、青梅駅の両隣の駅まではどちらも単線であり、すれ違いができない。
したがって、どちらかの番線から列車を発車させても、すぐに次の列車をホームに入れることができないのである。

例えば、上記の奥多摩駅から来る東京行きが遅れた場合、反対の奥多摩方面に向かう列車はその列車が青梅駅に到着するまで発車することができない。
遅れている東京行きを青梅駅の1つ手前の宮ノ平駅で待たせ、そこですれ違うこともできるが、そうすると東京行きがさらに遅れてしまうことになり、これは避けたい。

一方で、奥多摩方面行き列車か東京方面行き列車のどちらかを出発させないと、東京駅方面から青梅駅に向かう列車を到着させることができない。
奥多摩方面ではなく東京行き列車を出発させてホームを開ける場合、青梅駅に向かう列車は、単線区間での衝突を避けるために1つ前の東青梅駅で待機する必要がある。
すると、さらに後ろを走る、青梅駅に向かう列車は、東青梅駅に入れないことになり、そのうち待機する列車がどんどん隣駅へと数珠つなぎになってしまう。
この繰り返しで、全くシカと関係ない列車にも影響が及ぶ。


③青梅線→中央線への列車を無理矢理割り込ませた

②の理由で青梅線の他の列車にも影響が及んだ結果、シカとは無縁だった東京行きにも遅れが生じる。
東京行きは立川駅から中央線に合流するが、相手は中央線だけあって八王子方面から来る列車の本数も非常に多い(こちらがメインだから当たり前だが)。
感覚的に、ピーク時間帯はほぼ1:1の割合で八王子方面からと青梅方面からが混ざっている。
ピーク時間帯の中央線新宿駅での運転間隔は約2分なので、立川駅においては双方が概ね4分間隔で着発していることになる。

ところが一方が遅れるとどうなるか。
実は朝ラッシュ時に遅れが発生した場合、遅れが2、3分程度と軽微でなければ、「立川駅に到着した順番」で東京方面に列車を流している。
タイミングを見計らって、遅れた青梅方面から来た列車を、八王子方面からの2本の列車の間に無理矢理割り込ませる。

すると、タイミングよく割り込めた場合と割り込めなかった場合で、運転間隔がバラバラになる。
青梅駅方面からの列車が遅れて立川駅に来て予定通りの順番(八王子方面→(2分後)→青梅方面→(2分後)→八王子方面)に到着しなかった場合、
片方の八王子方面から来る列車は通常通り動いていることになるので、ごっそり1本列車が抜け落ちる(八王子方面→(4分後)→八王子方面になる)。
すると、東京行きの間隔が2分だったものが4分に開くことになる。
4分空いてしまうと、列車1本分丸々の乗客が後続の列車にシフトするので、混雑が激しくなり列車が遅れる。

ただし、必ずしも八王子方面からの東京行きが綺麗に4分間隔になっているとは限らない。
たまたま八王子方面からの2本の列車が、2分間隔となっている場合もある(八王子方面→(2分後)→八王子方面)。
そこに無理矢理青梅方面からの東京行きを割り込ませる場合、理論上は1分間隔になる(八王子方面→(1分後)→青梅方面→(1分後)→八王子方面)。
しかし、安全上1分間隔で走らせることはできない。
そうすると、割り込ませた列車の次の列車は、予定よりも発車を遅らせないといけないことになる。
こうして次の列車にも遅れが波及し、さらに後続の列車にも遅れが発生して、結局は列車の渋滞が発生する。

だからといって青梅線からの直通運転を中止にすれば東京行きの本数が減ることになり、大混雑からさらなる混乱が発生する可能性がある。
ある程度の遅れには目を瞑って、本数を重視するしかないのである。


④まとめ

こうやって悪影響が重なった結果、「中央線がシカで遅れる」という状況が引き起こされたのである。
…というよりも、今回遅延の原因がたまたま「シカ」であっただけで、今回のカラクリと同じような遅延はよく発生している。
中央線と青梅線は運命共同体であると言えよう。

ところが、ごく稀にあまり遅れないケースもある。
それは「青梅線が完全にストップし、中央線の東京行きだけで頑張っている状態」である。
「そもそも青梅線が動かせないから、中央線だけの約4分間隔で頑張ってね」という時は、非常に混雑が激しくなる一方で、運良く大した遅れにならないこともある。
「青梅線の影響で中央線が運休しています」というアナウンスが早めに流れることで、とっとと迂回する乗客もいるだろう。
混雑も多少は抑えられているのかもしれない。

となれば、今回のような遅れの場合も、早めに「中央線も今後大幅な遅れが見込まれるので迂回をお願いします」とアナウンスしても良かったかもしれない。
あくまで結果論であるが、限られた情報から未来の遅延を予測し、乗客に対する行動変容を提案するのも、今後は必要になってくるのではないだろうか。

最も、遅れを最小限にする設備改良も必要だろうし、実際に青梅駅のホームを増やす施策も行われている。
まずはこの完成を心待ちにしたいところだ。

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