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「魔術はあるよ・・・ここにあるよ」わりとみんな知らない魔術の現在

現代の日本では、アニメや漫画などで描かれる魔法や魔術をモチーフにした作品が根強く人気を集めています。

特に『呪術廻戦』では、主人公たちや対抗勢力がさまざまな呪術を駆使して戦う姿が描かれています。また、ゲームの「Fate」シリーズでは、魔術や魔法が幻想的な演出と共に現実ではあり得ないからこそ魅力ある存在として描かれています。

このような作品は、日本人にとって魔術をファンタジーとして楽しむものという認識から来ているものかと思います。

魔術だ魔法だと言ったところで中世の魔女狩りで不幸な女性達が理不尽な理由で殺された陰惨な歴史はあったとしても過去の歴史に過ぎないし、実在などあり得ない。そういう存在なのだと思います。

しかし、そうではない国というのは依然として現代に存在します。例えば、ハイチがそうです。先般世の中を慄然とさせる事件がそのハイチで起きました。

2024年12月、ハイチの首都ポルトープランスのスラム街シテ・ソレイユで、ギャングによる虐殺事件が起き、高齢者127人を含む少なくとも184人が犠牲となりました。

この事件はギャングリーダーが、自分の子どもが病気になった原因を高齢住民による魔術だと信じたことから発生したと伝えられています。

ハイチとはどういう国?

ハイチ共和国は、北米の南のカリブ海に位置する島国で中米として扱われ、エスパニョーラ島の西部を占めています。

人口約1,140万人で、公用語はフランス語とハイチ語(クレオール語)です。

スペインの植民地として始まり、その後フランスの植民地となりました。プランテーション経営が行われ、多くのアフリカ人奴隷が連れてこられました。

1804年にフランスから独立し、世界初の黒人国家となりましたが、政治的不安定や経済的困難が続いています。

2010年のマグニチュード7.0の大地震が首都ポルトープランスを襲い、多くの死者を出し、社会基盤が大きく損なわれました。この地震による影響は未だに残っています。

現在は復興は進んでいるものの、自然災害やギャングによる暴力が続く中で、政府の統治能力は麻痺状態にあります。また、大坂なおみ選手の父親の祖国としても知られています。

なんでハイチで魔術が現役なの?マジで?

魔術の存在を信じれれているかという意味ではマジです。

ハイチの文化には独自の特色があり、特にヴードゥー教は重要な役割を果たしています。この宗教はアフリカ系住民の信仰とカトリックが融合したものであり、ハイチ人にとってアイデンティティの一部と言って過言ではありません。

ハイチで政治的に利用されてきたブードゥー教

ハイチの歴史において、ブードゥー教は政治的にも利用されてきました。

最も有名なのはフランソワ・デュヴァリエ(パパ・ドク)の時代です。彼は1957年から1971年までハイチの大統領を務め、ブードゥー教を巧みに利用して自身の権力を強化しました。

デュヴァリエは、自身をブードゥーの死神ゲーデに似せた姿で登場し、人々に恐怖と敬意を植え付けました。

また、彼はトントン・マクートという民兵組織を使い、政敵を粛清しました。この組織は、多くの市民に恐怖を与え、その支配体制を強固なものにしました。

このように、デュヴァリエはブードゥー教を政治的プロパガンダとして利用し、その結果、多くの人々が命を落とすことになりました。彼の支配は「デュヴァリエ王朝」として知られ、その後息子ジャン=クロード・デュヴァリエに引き継がれました。

現在のハイチのブードゥー教

現在のハイチでは、アリエル・アンリ首相が辞任し、新たな政権移行評議会が発足しています。この状況下で、ハイチは治安の崩壊やギャングによる暴力に直面しています。

流石に評議会でブードゥー教を政治利用はされていませんし、レームダック(死に体)状態の評議会なので、実質無政府状態です。

そんなハイチで起きたのが冒頭お話ししたギャングの高齢者大量殺害事件です。

この事件はギャングリーダーが、自分の子どもが病気になった原因を高齢住民による魔術だと信じたことから始まりました。

不幸なことにこの子どもは既に亡くなっています。

ギャング団は数日間にわたり、高齢者を中心に住民を襲撃し、多くの場合鉈やナイフなどで殺害しました。

日本人的常識からすると「頭おかしいだろ!」の一言で済むのかも知れませんが、そうは問屋が卸しません。魔術信仰は単なる迷信ではなく、人々の精神的支えとなっている側面もあるからです。

この地域では情報共有も困難であり、多くの住民が恐怖と混乱の中で生活しています。

ハイチ以外でも多くの国で魔術絡みの事件は多発しています

魔術信仰は、特に不安定な社会状況や経済的困難の中で、恐怖や不信感を助長することがあります。ハイチだけでなく、他の国々でも魔術信仰に関連する重大事件が発生しています。

パプアニューギニアの魔女狩り

パプアニューギニアにおける魔女狩りは、近年特に深刻な問題となっています。

主に山岳地方で発生しており、特に女性が「サングマ」と呼ばれる悪意を持った妖術を使ったとして告発されることが多いです。この現象は、1980年代以降に増加し、特に最近では毎年150件以上の魔女狩りが報告されています。

魔女狩りの背景には、地域社会の急速な変化や病気の増加があり、人々は不幸や死の原因を魔術に求める傾向があります。

例えば、心臓発作や糖尿病などの病気による死が、安易に魔術のせいとされることがあります。また、経済格差や鉱業ブームによる嫉妬も、魔女狩りを助長する要因とされています。

実際の事件では、告発された人々は暴力的なリンチや拷問を受けることが多く、生きたまま焼かれるなど残酷な方法で処刑されることもあります。

このような行為は、村全体が関与することが多く、加害者が法的に処罰されることはほとんどありません。警察の人員不足や社会的な恐怖感から、目撃者や生存者が声を上げられない状況も影響しています。

パプアニューギニア政府は、この問題に対処するための法的努力を行っており、2013年には魔術法を廃止しました。

しかし、依然として多くの人々が魔女狩りの犠牲になっており、人権団体やNGOが啓発活動を通じてこの問題の解決を目指しています。

ナイジェリアの魔女狩り

ナイジェリアにおける魔女狩りは、特に子どもたちが「魔女」として告発される事例が増加しており、深刻な人権問題となっています。

この現象は主に南部や中部の地域で見られ、伝統的な信仰や迷信が背景にあります。特に、病気や不幸な出来事が起こると、それを魔術のせいだと考える人々が多く、子どもたちがその標的になることが多いのです。

例えば、ある10歳の少年は教会での集会中に牧師の妻から魔女だと告発され、その後父親から火をつけられるという恐ろしい経験をしました。

このような事件は数百件に上り、告発された子どもたちは暴力や虐待を受け、時には命を落とすこともあります。多くの場合、告発は根拠のないものであり、嫉妬や家庭内の問題が引き金となることがあります。

ナイジェリアでは、「自称」牧師たちが子どもたちを魔女として告発し、悪魔払いの儀式を行うことで金銭を得ているケースもあります。

これらの牧師は、自らの利益のために無実の子どもたちを犠牲にしていると指摘されています。また、教育や医療の不足、経済的困難もこの問題を助長する要因となっています。

政府や人権団体はこの問題に対処するために法的措置や啓発活動を行っていますが、地域社会で根強い迷信や文化的背景から解決には時間がかかるとされています。

タンザニアのアルビノ魔術師狩り

タンザニアにおけるアルビノ襲撃は、深刻な人権問題として国際的に注目されています。アルビノとは、メラニン色素の欠乏により皮膚や髪、目に色素がない遺伝性疾患を持つ人々を指します。

タンザニアでは、アルビノの人々が「魔術的な力」を持つとされ、その肉や体の一部が幸運をもたらすと信じられているため、特に狙われやすい状況にあります。

この迷信は長い間根強く残っており、アルビノの人々は暴力や差別の対象となっています。

近年の報告によれば、2006年以降、タンザニアで173件以上の襲撃事件が確認されており、その中には76件の殺人が含まれています。

また、遺体が墓から掘り出される事件や、レイプ、誘拐も多発しており、アルビノの人々は常に死と隣り合わせの生活を強いられています。

特にビクトリア湖やタンガニーカ湖周辺では、アルビノの子どもたちが狙われることが多く、その体の一部を奪うために残虐な暴力が行われています。

このような状況を受けて、タンザニア政府や国際的な人権団体は対策を講じていますし、国連が「国際アルビニズム啓発デー」を制定し、啓発活動を進めています。しかし、依然として地域社会での迷信や偏見が根強く残っているため、効果的な解決には時間がかかるようです。

後進国だからなどと言えたことでは無いのが実情だったりします

ここまで聞くとアフリカとか南アジアや中米は原始的で頭が悪い人達が沢山いるんだなあと一線を引いてしまうかもしれません。

しかし、その認識はあまりに浅はかというものです。

アメリカン大学の経済学者ボリス・ガーシュマンは2022年11月に「世界の14万人以上のデータを分析したところ、95の国と地域で約10億人がいまだに魔術を信じていると推測される」と発表しました。魔術信仰を隠すケースもあるため、実際はさらに多いと考えられるといいます。

例えば「邪視」や「他人を不幸に陥れる呪いやまじない」について、スウェーデンで9%の人が信じています。確かにチュニジアで90%が信じていることに比べれば遙かに少ないのですが10人に1人はマジでそう考えているって多くないですか?

OECDのPISA調査で上位に位置する国の一つですから、教育の効果は勿論設題であるにしても、それでも払拭できないものなのです。

魔術や魔法とは言わないまでも、それが風水であったり、スピリチュアルであったり少し呼称が変わればごく普通に市民権を得ているのですから、その境目というのは薄皮一つと言っても良いのかもしれません。

政治家が占い師を重宝しているというのは、実際に見られる現象です。例えば、元占い師で現在は脚本家として活躍する中園ミホ氏や、政治ジャーナリストの岩田明子氏が対談した際にも触れていました。

政治家たちが占いを利用する背景やその理由について、占いは単なる「当たる・当たらない」ではなく、人生の選択肢を考えるための参考として使われることが多いそうです。

日本だけではありません。つい先日の2024年の大統領選挙では、カマラ・ハリス副大統領を支持するために「魔女」たちが集まり、ドナルド・トランプ前大統領に対抗するための魔術的な儀式を行ったという報道もありました。

まあ基本的に血なまぐさい話ばかりですよねえ。なので、こうやって存在を知っても大きめの石をひっくり返したらびっしりと気持ち悪い虫がうじゃうじゃしていたのを「見なかったことに」するのと同じ処理をしたくもなります。

ただ、それでも知っているか知らないかで世界の見え方というのは変わります。僕らの持っている常識や文化というのはあくまでごく一部でしか通用しません。

今持っている認識を逆転させる必要はありませんし、そんなことは無意味です。しかし、それでも知るということ、そして事実を確認して自分の中で腹落ちさせて血肉にするということは大事です。

日本とは遠く離れた別の国のことだからと思っていても、実はすぐそばにそれはあるのかもしれないという認識や予測があるかないかは大違いです。

僕らは多様性という言葉をカジュアルに使い、LGBTQ+を見てそういうことも考えなきゃねなどと思ったり、その一方でアメリカの保守主義の台頭に現代から戦前への後退などと極めて安直な決めつけをする人もいます。

しかし、全てはあり得ることですし、相応の背景もあります。また、その認知の外にある様々なことはいくらでもあります。僕はそういうことを出来るだけ学びたいと思っています。

そうそう。なんか木を見て森を見ずになるのを避けるのも大事です。紹介した国は確かに渡航先として危険とされる国も含みますが、勿論良い面も「国によっては」あるんですよ。

皆さんは今回の内容はどう思われましたか?できれば、ちょろっとでもコメント頂けると幸いです。

ではまた

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