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『ダブドリ Vol.6』インタビュー04 色摩拓也(尽誠学園高校)

2019年6月4日刊行の『ダブドリ Vol.6』(株式会社ダブドリ:旧旺史社)より、色摩拓也さんのインタビューの冒頭部分を無料公開いたします。なお、所属等は刊行時のものです。

全国で勝つためには、戦術、駆け引き、ゲームの流れを読む力が大切になってくる。そういう部分は渡邊に教えていったところです。

―― メンフィスでGMやコーチが話してくれたのですが、渡邊選手は戦略的なミスをしないし、正しいところに行ってくれるし、要はコーチの伝えたことを実現してくれるということを褒めていました。バスケットボールIQの高さは尽誠学園で培ったことが大きいと思います。
色摩 もともと頭の悪い子ではないと思います。ただ、うちでもバスケットボールIQという言葉は大事にしています。ゲームの流れを読む力であるとか、何を求められているのかとか、それをただやればいいのか、それ以上のことをやらなければならないのか、練習を止めて話したりします。あの子自身も2年生のときと3年生のときでは、リーダー的な部分であるとか、自分が点を取るだけではなくてリバウンドやディフェンス面でも変わってきたと思います。やっぱり場面場面でそういったことが実現できるようになったことで、結果も出るようになったのかな、とは思います。
―― 先生からすると入学したときと3年生のときとでは全然違いましたか。
色摩 もう全然です。彼だけに限らず、中学校はバスケットの楽しさ的なものが強いと思うんです。単純に点を取ることや、相手をやっつけるような部分が。でも高校で全国で勝っていきたいとなったときに、戦術であったり、駆け引きだったり、ゲームの流れを読む力が大切になってくると思いますんで、そういう部分は教えていったところですね。
―― もうひとつ、とにかく彼は練習にすごく時間をかけているそうです。もちろん量だけをこなせばいいわけではないと思いますが、試合が終わった夜にもスリーポイントの練習をしていて、ハッスルのコーチも彼がチームで一番伸びていてNBAでもやっていけるだろうと。
色摩 はい。
―― 面白いな、と思ったのは、彼は高校のときはチーム練習が長くて、それが終わってから個人練習をやるので時間が全くない。「高校時代は半ば強制的だった」とも話しているんですね。その一方で、大学では自由になる時間があっても自分から練習していた、と話してくれていて。このマインドセットは高校時代に形成されたんでしょうね。
色摩 多分、あの子自身も理解はしてると思うんですけど、僕は自主練習は大事だと思っているんです。でも、うちはチーム的にそこまでのレベルだと思ってないんで、団体練習をしっかりやって、自主練習でできる課題を残した団体練習の終わり方をしたり、肉体的に追い込むべきかなと思ったりもするんですけど、自主練習で選手が何をするのかな、っていうのも僕は見ているんです。団体練習でこういう指導があったのに、なぜ彼はこの練習をするのかな、ということがあるんです。その子は多分ちゃんと考えてないんだと思うんですね。いつもの流れで惰性でシュートを打ったりドリブルしたりとか。
―― 先生も残っているし、何かやらなきゃいけない、とは思っているでしょうけどね (笑)。
色摩 その話は練習の中でもしてるんです。でも自分がマンネリ化したときとか追い込まれたときに素の自分が出ると思うんです。
―― 辛いときに出ますね。
色摩 多分、彼の言ってることの半分は当たってます。自主練という名の、強制的な練習だろうと。団体練習が終わって「自主練に残れよ」とは言わないのですが、僕は帰らないので。
―― 最後までいらっしゃるんですか。
色摩 最後までいます。
―― ということは自主練は先生が全部ご覧になってる。
色摩 はい。自主練中に「今こう考えてやってるんですけど、なかなかうまくいきません」と質問できる。本気でやってる子ならそこで出たアドバイスはすぐ入っていく。でも、いい加減にやってる子には僕が「なんで?」と質問を返したりするので、それを怖がって質問もしない。
―― 考えさせるわけですね。
色摩 そうですね。自分で考えろとは言ってます。
―― 逆に怖くて委縮して質問ができないという子もいるとは思うんですが。
色摩 助けが必要な子には、良いところを伝えますね。例えば、みんながしんどいときに気になる子が声を出そうとしていたら、練習が終わったときに声をかけますね。「頑張って声を出そうとしてたよね。でも、周りに聞かさなければならないんじゃないかな。でも、それまでと違って、みんながしんどかったときに何かをやろうとしたよね」とか。
―― それは嬉しいですね。全部見てくれてるのは。
色摩 全国でも勝負したいと思ってる人間なので、そこばっかり取り上げるわけにはいかないんですけど。ある程度のレベルまで行くと「結果が出せなければ終わり」ぐらいのプレッシャーを自分でかけていかないと、とは言ってます。

自分の子供が渡邊選手みたいになって欲しい。まともな感覚の人間がお前を見たときにそう思ってもらえるような選手になって欲しい。

―― 差をつけるという面で、能力が比較的劣る選手たちがどう思うかちゃんと考えろ、という指導もされていると伺いました。これは自分を相対化することなので、レベルの高いことだと思います。
色摩 特に渡邊には、自分の置かれている立場を理解して行動しなさいと言っていたかなと。特殊能力を持っている子なんで、実際のゲームになったら、あの子がゴール下におる方がええと思うんです。じゃあ練習でずっとゴール下で立っているかっていうと、小さい子と同じ練習をさせます。例えば、彼は足が長いので、動きが少し遅く見えてしまったりするんです。
―― サイズがあるのでゆっくり動いてもついていけますしね。
色摩 でも、自分が意図的に早くしようとしていないのかはわかるんですね。そのとき、渡邊みたいな子がサボってたときに、レギュラーじゃない子達は「あいつはいいよね」と言うと思うんですよ。
―― 普通の選手は妬みますよね。
色摩 だから彼に言ったのは「他の子だったら何も思われないところでも、お前がそれをやると周りはどういう風に思うかな」と。「なんでそこまでって思うかもしれないけど、密に関わっている大人として、やっぱり応援されて欲しいと思う。どこでお前を見たときにでも、渡邊選手っていいな、自分も渡邊選手みたいになりたいなって。親が見たら、自分の子供に渡邊選手みたいになってほしい、そういう風に育って欲しい。まともな感覚の人間がお前を見たときにそういう風に思ってもらえるような選手になって欲しい」って。四国大会で二階の観客席に座っていたときに、彼がぽんと前の席に足を置いたんですね。すると下から見えるんですね、渡邊の足の裏が。それで「偉そうに見えてるよ」って言ったり。
―― お前だからこそ偉そうに見えちゃいけない、ということですね。能力の高い選手にそう指導をされているのかなと思ったんですが、渡邊選手が来て、今のような境地に至ったということですか。
色摩 渡邊の一つ上に笠井(康平。名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)がいて、その上にも橋本(尚明。横浜ビー・コルセアーズ)がいたんですが、橋本という選手はかなり個性的で。
―― そうだったんですね。
色摩 はい、個性的だったんですけど、感覚的なものが凄かった。僕は「その選手の良いところをきちんと伸ばしてあげられる」のが指導力の一つかなと思ってるんです。橋本はふにゃっとしてるんですけど、それは彼の持っているリズムなんですよ。ゆーっくり動きながらぱっ!と動いたときには段違いに動く。運動量が違うんです。ある練習で「ボールとマークマンの位置が分かるように構えろ」って言ったんです。でも橋本が構えると、さっきまでの良い動きがなくなって、真面目に探し出すんですよね。無意識にやれていたことが僕の言うことを聞いてしまったことによって。
―― 「やれ」って言われて考え始めてしまった。そこで気づかれたんですか。
色摩 はい。もともと「なんで俺の言うことを聞かないんだ」っていうのは指導者からの一つの文句で「言うこと聞かせて何したいんかな」って考えたら「チームを勝たせたい。この選手を上手にしたい」。じゃあ僕の言うことを聞いて下手くそになるんだったらやらなくていい。その人間その人間の持っている良いところっていうのを、ちゃんとこっち側が評価してやらなければいけない。

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このあとも、色摩監督が教える「謙虚さ」やバスケットボールの原点、練習での”もたもた”の大事さなどを語ってくださっています。続きは本書をご覧ください。

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