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人事データ分析、半年で営業立ち回り

こんばんは、よしたくです。
2021/6/1に株式会社メルカリに入社して、はや半年ちょい。

メルカリもいよいよデータが貯まってきて、ダッシュボードでそのデータも見えるようになってきて、さぁいよいよデータ活用を加速させるぞー!というタイミングで、ピープルアナリストというゴリゴリにデータを分析する立場でジョインさせていただきました。それまでのメルカリにおける人事データの取り組みは、下記の記事をご覧ください。

入社して半年経った区切りでもあるので、データ蓄積や可視化に続き、分析/ディスカッションによるデータ活用を推し進めてきた半年を振り返ろうと思います。

* 人事でデータ活用を始めたいがどっから手を付けたらいいか分からない
* 費用対効果を求められた時にどうしていいか分からない
* データ分析を始めたが、どう協働を拡大していけばいいか分からない

という方に向けて、何かの参考になれば幸いです。

データ分析は、足を使うところから

さて入社はしたものの「これからデータ分析をしていくぞ」というタイミングなので、当たり前ですが「案件ください!!分析します!!ぼくはやる気に満ち溢れています!!さぁ!!」と声高らかに宣言したところで、なんの案件もありません。メルカリに限らず、人事データに限らず、後からデータを活用しようとした時の立ち上がりとはそんなものです。

そんな状況を例えるとしたら、まず動き出しにおけるピープルアナリストの役割は"営業"です。足を動かして「データってこういう風に使えるんだ!」と興味を持ってもらわないことには、仕事がありません。眼鏡クイッ、エンターキースパーン!みたいなシュッとした動きとはかけ離れたものです。どちらかといえば、日曜日の夕方に住宅街を御用聞きしてまわる酒屋さんのように、ヘルメットを脇に抱えて元気に挨拶して回るようなものなのです。

そういったわけで今回は、入社してから半年間でデータのお土産をいろいろなところに持ち込み、ひとまずは多くの部署からご相談と案件を貰えるくらいに協働が進んだ話を振り返ります。

なので弊社の人事関係部署の方がご覧いただいてるようでしたら、「あっ、あいつのアレ思いっきり営業だったんだな」とお気づきになる前に、そっとタブを閉じていただければと思います。

入社1ヶ月  :  おみやげ生産工場をたてる

他の人事部署に持ち込むためのデータと分析をまず用意するのが最初の動きです。つまり、営業としてご挨拶するための菓子折りを生産しないといけないのです。

今回は技術っぽい話は避けるので詳しくは書きませんが、とりあえず入社して1ヶ月で作った環境はこんな感じです。

* 基幹システム、サーベイシステム、表データもろもろをかき集めた簡易データレイクを用意(ただのCSVを集めたプライベートフォルダ)
* セキュリティレベルを下げるために、社員を特定するキーを名寄せハッシュ管理+個人情報を落としてストック
* クレンジングしたり集計項目を定義したり
* それらのデータ同士には事前にリレーションシップを定義しておき、BIツールでは動的にジョインされるように設定して、データマートには唯一の黄金データがある状態を構築

ややこしい話を抜きにして結果だけ伝えると、とりあえずBIツールの画面にはいろんなデータの項目がズラっと並んでいて、あとは必要に応じてドラッグアンドドロップでそれを引っ張ってくれば、社内の人事データはだいたい即集計できるような状態です。ここまで持ってくれば、分析要件に応じていちいちデータを作成することもないので、分析生産工場の量産体制がスタートできます。

こういう状態に持ち込めるのは人事データならではだと思ってます。なぜかというと、データ量もぜんぜん大したことないからです。しかも、データの鮮度もとりあえずは月イチくらいで更新されれば十分です。そういう意味で、人事データで分析をまず始めようと思ったら、やれDBMSだの分散処理だの大掛かりなシステムを立ち上げる必要はないし、なんならフラットファイルか表計算アプリケーションで十分おみやげは作れるのです。上記のデータ環境みたいなのはガッツリやった場合であって、そうでなくても動き出しとしては表計算アプリの表やグラフで十分なのです。

おそらく、よくある人事データ立ち上げでしんどいパターンが「データ分析のために必要だから」という理由でつい高価なDBMSやETLを導入、あるいはその提案をして「で、費用は回収できてるの??いつ??どうやって??」と経営に詰められるケースだと思います。
自分のいち意見ですが、ハードルを上げて苦しむくらいなら、先に手元のファイルで集計結果を出してみて「おっいいじゃない!データで分かるといいねぇ。この調子でどんどんやってよ」と言ってもらってから「いやぁ、今のやり方だと苦しくて…ちゃんとシステム化されてたらもっと多くの人にデータを渡せたり、分析もいっぱいできるんですけど…」ともったいぶった方がラクだと思いますし、それができるのもスモールデータである人事データの領域だと思います。いくらなんでも、アプリログ分析はスプレッドシートじゃできませんから。

ただし、上記に関しては2つ補足すべきことがあります。

1つ目は、たいしたデータ管理がいらないというのは「データアナリスト本人が自分の領域でデータを扱うなら」という範囲に限定したものです。これが例えばダッシュボードの話になり、自動的にデータ更新されるようにしようとなったらジョブなりの運用が必要だし、特定の人が見れるようにしよう!ということならちゃんと権限管理ができないといけない。つまり、いわゆる"民主化"を始めるならローカルの閉じた権限運用では限界があります。

2つ目は、これを実現する難易度はデータの質に極端に左右されるということです。メルカリの場合は、ここに対する投資と実行がすでになされていたので、なめらかなデータを元に分析環境を構築することができたとそういう話です。プロセスごとデータが管理運用された上で、特定の日付時点での社員リストをエクスポートできる状態がすでにあったので、ここの工数がとても少なかったのです(もちろん、それでもクレンジングは大変なのですが)。

さて、そんなこんなでとりあえずは求められたデータをパパっと集計し、相手と画面を共有してあーだこーだ言いながらドリルダウンできる状態は作れました。

前置きが長くなりましたが、ここからはいよいよお土産を持って営業をしていくことになります。

入社2ヶ月目〜 : 新規開拓営業

ここからは、なにか自主的に分析しては持ち込んでみたり、タイミングを見て飛び込んでみたりと開拓営業です。

* こんな集計結果が出たんですが、結果を見てピンとくるような、組織のできごとやメンバーの反応があったりしませんか?勉強のために教えてほしいです!
* 運用をお手伝いさせてもらっていたこのサーベイですが、データを触ってて気づいた点がありました。何か役に立つかもしれないので共有しますね!
* 分析してみたらこんな結果が出たのですが、これってどういうことを表してるんですかね?どう思いますか?
* そちらで今度実施されるアンケート、もし急いで報告しないといけないようなら、とりあえず分析をお手伝いする手は空いてますよ!

まずは「コイツは多少は役に立ちそうだな」と思ってもらえるために、おみやげを配るところからスタートです。「私を頼ってくださいね」で待つよりは先にこちらからモノを持ち込んだ方が早いし、待っても依頼は来ません。だって、まだ依頼の仕方も伝わっていないのだから。
"やってみせ"のスタンスの方が、「なるほどこういうことをお願いできて、こういう結果をくれるのか」と依頼をするハードルが下がるから後々連携しやすいし、なにより手っ取り早いなと思います。

入社3ヶ月目〜 : お店を開く

おかげさまで少しずつ他の部署の人とできる仕事が増え、意思決定のサポートも始まりました。ただ、いろいろな部署の担当の方に個別にデータを渡したりサポートしていると、少しずつ問題にぶつかりだします。

問題1:他部署の担当者"だけ"が知っている情報が増える

「なるほど、理解が深まりました!!」

と、依頼してくれた部署の方がスッキリした表情で施策を進められているのをみると、お手伝いした側としてはとてもありがたい気持ちになります。ただそこで完結してしまうと、そのデータは直接渡された方のみが知っている、ということになってしまいます。「私もそのデータほしい!」というリクエストに都度応じて、五月雨でデータを配るのはガバナンス的にもちょっとよろしくないし、手間もかかります。

問題2:依頼がかぶりだす

部署は違えど、それぞれの目線で同じことをすごく気にしている…というのはよくある話です。よくある例は、いろんな部署から「退職を分析してくれ」と言われるケースです。労務でも組織開発でも人材開発でも部門人事でも、みんな退職は気にしているのです(なんなら採用/定着という目線でも)。

「いやそこは横で連携してよ!」というときもありますが、やっぱりちょっとずつ目線が違うので、気がついたら似たような分析をちょっとずつアレンジして色んな所に出している…ということも起きます。

問題3:みんなの解釈がズレ始める

そんなこんなでデータを配っていると、不思議なことがおきます。あの人とこの人に同じデータを渡したのに、聞いてると言ってることはぜんぜん違ってしまっているのです。これはデータ、特に解釈のウェイトが高い人事データだと起きやすいことだと思いますが、同じデータを見ても解釈が違えば結論は変わります。なので、同じデータを渡したら目線が揃うかというとそんなことはないのです。

解決策:オープンにやろう

上記の問題は、3つとも同じところに由来します。それは、個別にクローズにやっているというところです。だから、解決策は「みんなで見えるところでやろう」です。

やり方としては社内のSlackでチャンネルを立てて、ポータルに過去の分析事例を集約し、人事関係者でオープンにデータをシェアしたり、それを見た各関係者が「こういうことなんじゃないか」「こういう仮説はどうか」「現場でこういう事象が起きている」などわーわー自由にやれる場を作っている、という状態です。

今もすこしずつこの輪を広げている段階ですが、こうしてデータが共有されることで、分断化しやすい人事のセクションを繋がる役割も果たせる(というか果たせるようになりたい)と思います。

とりあえず興味持ってる人はここに案内すれば、過去のログ見て「これを詳しく」と話を繋げられたり、「こういう風に依頼すればいいのね」とイメージを掴んでもらったり、「いやその解釈は強引じゃないか」みたいなのが自然発生したりと、とにかくラクだなと思います。

ただ、これはメルカリだからできているなーと感じることもあります。それは"Trust & Open"という、情報の透明性を大事にするカルチャーの存在です。

これはなにも人事内だけの話ではなくて、会社全体の文化として「お互いを信頼した上で、情報とやりとりをオープンにしていこう」ということです。人事データで大事なのは「社員がデータを渡してよかったと思ってもらえるようにメリットを還元していこう」だと(個人的に)思っているので、人事データを推進する上でもすごく親和性が高いと感じています。

入社5ヶ月目〜 : 深耕営業

さてこんな風にデータをオープンにしていると、ありがたいことに賑わいを見せてくれるものでして。そうして広くやりとりが発生しているのを見ると、人事全体での共通の関心事や、優先順位の高い分析課題がだんだん見えてきます。そうすると、よりよいお土産が作れるようになります。

こうして、だんだん人事戦略の中心に近づいていったり、本質にぶっ刺さるような議題に踏み込めるようになってきます。

おかげさまで多くの方に関心を持っていただき、今はCHROを始めとして人事戦略に深く携わってる方々とディスカッションさせてもらうサイクルも動き始めています。とても勉強になります。

人事データは、既存の知見>>>>>データ/技術

結局のところ人事データは、技術を駆使して時間をかけてなにかを生み出すよりも、とにかくクロス分析なりかんたんな可視化なりでディスカッションを重ねていった方が意思決定が早く進みます。どうせ頑張ったところでたかがスモールデータが何かを一撃で示せることはないし、それを補うために定性情報とのすり合わせをした方がよっぽど確実です。そういうこともあり、リアルタイムで「こういう切り口で見たらどうなるの?」などの要望があっても応えられる環境を自分の場合はまっさきに構築しました。

そういう不確実さもあり、人事データの役割は”確からしくすること”"説明力を上げること"くらいに留めておいた方が今は健全な気がします。もともと人事はいつでも「それってホント?」とか「なんでそう言えるの?」という質問に悩まされやすい領域なので、そんな中で「確かにそうだ」とデータで肉付けできることだって、十分価値のあることです。

人が働くということには数多の研究や知識が蓄積されていて、いまさら大発見なんてできっこないし、それが人事という領域の特徴であり素晴らしさだと思います。そうして積み上げられたものは、そう簡単にデータが追い越せるものじゃありません。少なくとも、いまのうちは。

人事としての意思決定の精度を高めるところから逆算して、最小限のコストで最大限の成果が出せるよう、あれこれ頭を使っております。

データ分析は"営業"であり"点取り屋"

こうして社内でデータ分析をさせてもらえているのは、それを実現するためにちゃんとデータが社内に貯まっているからに他なりません。

もしかしたらシステムやインフラを構築している方も「こうしてデータを蓄えてるけどホントに意味あるの?」とプレッシャーをかけられているかもしれませんし、社内で働くみなさんも「データ預けたりサーベイ回答したりしてるけど、これなんの意味があるの?」と不安になっているかもしれません。

なので、データ分析できちんと人事の質を向上させることで、それらに応える責任があるのもピープルアナリストという立場だと思います。そういう意味でも、「よい製品があるのだから、きちんと売上につなげなければ」という"営業"という表現は、ここにも当てはまるかもしれません。

とにもかくにも、がんばって報いていかなければなと、そう思う次第です。

これからどうしよう?

こんな感じで半年かけて営業していった結果、部門人事、タレントマネジメント、D&I、エンジニアオフィス、人材開発いろいろな方と分析でご一緒させてもらえるようになってきました。これからは、シンプルな分析の要望をとにかく爆速で打ち返しまくりながら、少しずつ高度な分析に手を広げていくことになるのかな、と思います。

株式会社メルカリもだんだん具体的なデータ活用が始まったところですので、これからもっと社内で働く人たちがいい環境で働けるよう、さらに活用ステージを進めていくような取り組みができればと思います。

チームでは現在メンバーも募集してますので、よろしければご覧くださいませ。

HRデータマネジメントスペシャリスト [Mercari]

それではまた。


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